Aptitude Research マデリン・ロレイノ氏(CEO・創設者)
学生のZoom疲れが顕著、企業はハイブリッドな採用方法を模索
CEOのマデリン・ロレイノ氏は、Aberdeen、Bersin by Deloitte、ERE Media、Brandon Hall Groupを経て、Aptitude Researchを設立。テクノロジーのなかでもタレントアクイジションや候補者体験を専門とし、多くのカンファレンスで講演をしている。著名なアナリストである同氏に、有識者の立場から、退職者の再雇用や従業員の大量離職、リモート採用が及ぼす影響、企業によるテクノロジーの活用などについて話を伺った。
【Aptitude Research】2015年設立、本社所在地はマサチューセッツ州。人的資本管理(HCM)テクノロジーの調査およびアドバイザリー会社。
――米国では人材獲得競争の激化により、退職者を再雇用する企業が増えているそうですが、実際にこのような傾向は見られますか。
Aptitude Researchは、数年前から退職者の再雇用の必要性について発信していますが、再雇用している企業は多くないようです。企業は、採用マーケティングの対象にアルムナイを含めず、また自社の人材供給源にもしていません。当社の調査では、多くの企業がLinkedInにアルムナイ専用グループを作成していますが、企業による運営への抵抗感から、参加者はほとんどいないことがわかりました。また、採用ツールとしても十分には活用されていません。
――従業員が大量離職する「Great Resignation」が起きていると言われていますが、何が原因だと思いますか。
原因の1つは、リモートワークです。パンデミックは収束しつつありますが、従業員側はリモートワークの継続を希望しています。企業が従業員にオフィス出社の再開を求めれば、それに反対する従業員は転職することになるでしょう。
また、給料も大量離職の大きな推進力となっています。従業員体験(EX)の向上につながる福利厚生制度の強化も話題ですが、米国では歴史的な物価上昇が続いていることから、人々はより給料が高い転職先に目を向けています。
人々は働き続けることへの疑問を抱いています。2021年の1年間だけで、最大500万人の女性が離職しました。離職後、仕事に復帰しない傾向が今後も続くのか、行方を見守りたいと思います。
最後に、ジョブホッピング(短期間での転職の繰り返し)に対する批判的な見方が減ったことが挙げられます。企業は面接で求職者に早期退職した理由を問わず、人々の転職の自由や権利を受け入れるようになりました。
新卒者はリモートよりオフィス出社を希望
――リモートワークを継続するか、オフィス出社を再開するか、ハイブリッドワークか、さまざまな議論がありますが、企業は今どのように考えていると思いますか。
これは、企業の最大の課題だと思います。リモートワークか、どのような形のハイブリッドワークにするのか、いつまで続けるのか、その答えはまだ出ていないと思います。企業は、柔軟な働き方を求める求職者のニーズに応え、リモートワークをしている他社とどのように人材獲得競争で戦うかを考えなければなりません。
一方で、全員がリモートワークを望んでいるわけではないことを理解する必要もあります。当社の調査では、新卒者はコネクションを築ける、会社の一員であると感じられるオフィス勤務を望んでいることがわかりました。リモートワークでは、オフィス出社時と同様の体験を得ることはできません。
さらに、子どもを預ける保育施設が見つからないことも、大きな課題となっています。2020年実施のオフィス出社の再開についての調査では、従業員の3人に1人は、「マネジャーと保育サービスの必要性について話をすることに不安がある」と回答しました。また、どのような育児支援をすればよいかを従業員に聞く企業の割合は、わずか11%でした。
――人材の採用において、特に技術系の職種に関して学位不問の企業が増えているようですが、この傾向はありますか。
学位不問は増えています。学位は本当に必要なのか、パフォーマンスを予測する指標にはならないのではないかということで、小売業と接客業から学位不問の動きが始まりました。最初に学位を問わない採用を始めた企業は CVS Health です。最近注目されているスキルベースの採用では、履歴書に記載された学歴や経験よりも、社風への適性や、学習能力といったポテンシャルに着目しています。
オンライン採用イベントでの学生のZoom疲れが課題
――企業の多くが対面からリモートによる採用にシフトしました。この影響は見られますか。
パンデミックの間は、大学キャンパスを訪問し、学生と関係を構築することができず、ビデオツールに頼らざるを得ませんでした。しかし、オンライン採用イベントに参加する学生の多くに「Zoom疲れ」が見られ、一部でエンゲージメントの低下が指摘されています。
当社の調査「2022 The State of Campus Recruiting」では、2022年以降の採用イベントの参加方法について、企業の82%が「対面とオンラインのイベントを組み合わせることを計画している」と回答しています。学校によっては、対面のイベントを再開していないところもあり、企業はどのように採用活動を行うかを慎重に検討している最中です。
もう1つの課題は、学校や企業が利用しているプラットフォームが異なることです。多くのキャリアセンターが独自のプラットフォームを構築しており、また企業側もZoomやYello(※1)など、利用するプラットフォームが異なるため、技術に精通する学生でさえもフラストレーションを感じています。前述の調査では、企業の4社中1社が、「6種類以上のテクノロジーを採用業務に利用している」ことがわかりました。
――企業による面接プラットフォームの活用について、どのような傾向が見られますか。
パンデミック以前にAptitude Researchが行った採用テクノロジーについての調査では、企業は利用するビデオ面接プラットフォームを減らし、ZoomとMicrosoft Teamsに絞ろうとしていました。しかしパンデミック以降は、多額の予算をビデオツールに投じています。
HireVue(※2)とModern Hire(※3)は、大手企業向けの2大ベンダーで、面接、アセスメント、コミュニケーションツールを提供し、企業の採用業務全般をサポートしています。PredictiveHire(※4)は、ビデオで話すのが苦手な人向けに、チャットで採用担当者と対話する機能を備えています。WedgeHR(※5)は、従業員数1~5000人の中小企業向けのビデオ面接プラットフォームで、企業の採用情報サイトからすぐにビデオ面接を始めることができます。
AIチャットボットは採用プロセスに好影響
――ほかにどのような採用テクノロジーに注目していますか。
新しいテクノロジーではありませんが、Paradox(※6)やAllyO(※7)、Wade and Wendy(※8)、Candidate.ID(※9)といったAIチャットボットは、応募の受付からソーシング、スクリーニング、面接、オンボーディングまでの採用プロセス全体をサポートしています。たとえば、チャットなら入社初日に弁当を持参すべきかといった些細なことでも気軽に質問できるので、多くの新入社員にとって大きな安心材料となります。
――従業員の離職防止や生産性を向上させる取り組みとして、EX(従業員体験)が近年重視されています。従業員の満足度を測る従業員サーベイは、どのようなツールが使われていますか。
企業は、これまでAON HewittやWillis Towers Watson といった人事コンサルティング会社を利用し、数百万ドルもの費用をかけて従業員サーベイを行っていましたが、今は、Qualtrics(※10)やGlint(※11)、Workday Peakon Employee Voice (※12)、Perceptyx(※13)などのツールで、より早く簡単に、低コストで従業員エンゲージメント調査ができるようになりました。
また、年に1回だけでなく定期的にパルスサーベイを行い、データをリアルタイムに収集するようになりました。2021年の当社のインタビュー調査では、CHRO(最高人事責任者)の多くが、経営陣やビジネスリーダーから、「営業部門のスタッフの満足度について調べてほしい」「アンケート結果からデータを抽出してほしい」といった要望を頻繁に受けると話していました。従業員エンゲージメントは企業にとって重要な領域であり、多くの投資が行われています。
インタビュアー=ジェリー・クリスピン(CareerXroads) TEXT=杉田真樹
- 長引くリモート採用で、オンライン採用イベントに参加する学生の「Zoom疲れ」といった影響が出ている。
- パンデミック以前は、企業はビデオ面接プラットフォームを ZoomとMicrosoft Teamsに絞る動きが見られたが、パンデミック以降は、 HireVueやModern Hireといったビデオツールに多額の予算を投じている。
- 採用プロセスの各所で、ParadoxやAllyO、Wade and Wendy、Candidate.IDといったAIチャットボットを活用している企業がある。チャットボットは、応募の受付からソーシング、スクリーニング、面接、オンボーディングまでの採用プロセス全体をサポートする。
- 離職対策や人材定着のため、企業は従業員エンゲージメントを重要な領域と考えている。QualtricsやGlintなどのツールで、より早く簡単に、低コストで従業員エンゲージメント調査ができるようになった。
(※1)Yelloは、人材の発掘、スケジューリング、選考を自動化する採用プラットフォーム。
(※2)HireVueは、ビデオ面接プラットフォーム。求職者はPCや携帯端末で企業からの質問に対する回答を録画し、提出する。ライブ形式の面接も可能。AIと神経科学で求職者の表情、言葉、ボディランゲージを解析し、入社後のパフォーマンスを予測する。
(※3)Modern Hireは、ライブおよび録画形式の面接を行うビデオ面接プラットフォーム。AIによる面接の自動採点機能などを備える。
(※4)PredictiveHire(現Sapia)は、チャット形式とビデオ形式の2段階で面接を行うプラットフォーム。性格特性など企業が人材に求める要件をもとに、インタビューを設計。AIが回答内容を分析し、応募者のランク付けを行う。
(※5)WedgeHRは、録画面接プラットフォーム。リクルーターによる質問動画や、面接の方法などを説明するイントロ動画をアップロードする機能を備える。
(※6)Paradoxは、採用に特化したチャットボット「Olivia」が求職者からの問い合わせに自動対応し、経験年数や希望の職種、資格の有無などを質問し、スクリーニングする。
(※7)AllyOは、チャットボットが、自然言語処理と機械学習の技術で、応募者からの質問にチャットで回答し、候補者プロフィールのスクリーニングや面接日時の調整、面接後のフィードバックの回収やオファーの提示、オリエンテーションの日時調整といった業務を自動化する。HireVue傘下。
(※8)Wade and Wendyは、求職者からの問い合わせ対応、スクリーニング、面接日時の調整などをチャットボットが自動で行う。PandoLogic傘下。
(※9)Candidate.IDは、採用マーケティングの自動化ソフトウエア。人材供給パイプラインの構築、ソーシング、マッチング、候補者エンゲージメントといった機能を備える。iCIMS傘下。
(※10)Qualtricsは、採用前アンケートだけでなく、新人研修のフィードバック、トレーニングの評価、多面評価、意識調査などを実施する従業員エンゲージメントプラットフォームである。SAP SuccessFactors傘下。
(※11)Glintは、従業員のエンゲージメントを可視化するツール。回収した膨大なデータを機械学習や自然言語処理・予測分析などによって分析する。サーベイのスコアを単にまとめるだけでなく、ヒートマップやタグクラウドなど直感的にサーベイの結果を可視化する機能も持つ。LinkedIn傘下。
(※12)Workday Peakon Employee Voiceは、機械学習を活用し、従業員からのフィードバックをリアルタイムで収集および分析するプラットフォーム。従業員エンゲージメント調査や、会社のDEI(多様性、公平性、包括性)対策についての評価、離職予測などに活用できる。
(※13)Perceptyxは、ピープルアナリティクスプラットフォーム。従業員エンゲージメントやマネジャーの360度評価などに利用できる。特定の課題解決に関する意見やアイデアのクラウドソーシングなどの機能も備える。