Aptitude Research マデリン・ロレイノ氏 (CEO・創設者)
ニューノーマルは「リモート」「自動化」、採用の効率化に主要企業の関心が高まる
Aptitude Research 創設者のマデリン・ロレイノ氏には、採用側である企業の視点からではなく、HCMの専門家、アナリストの立場から、パンデミックがリクルーティングをどのように変えたのか、HRテクノロジーの活用による自動化の現状やベンダー側の動向などを含め、マーケット全体に及ぼした影響や今後の見通しなど、さまざまな観点からお話を伺った。
インタビュアー=クリス・ホイト 翻訳=鴨志田ひかり TEXT=村田弘美
【Aptitude Research】2015年に設立された人的資本管理(HCM)の調査およびアドバイザリー会社。CEOのロレイノ氏は、Aberdeen、Bersin by Deloitte、ERE Media、Brandon Hall Groupを経て、Aptitude Researchを設立。タレントアクイジションを専門とするタレントマネジメントの専門家であり、企業戦略の検証や再評価、テクノロジーのトレンド調査やコンサルティングなどを専門とする。マサチューセッツ州ボストンに拠点を置く。
――パンデミックは採用全体をどのように変えたのか教えてください。
パンデミック以降の労働市場は非常に混沌としています。1年前の状況と比べると、多くの会社で採用方法にさまざまな変化が起こっています。そして、テクノロジーは以前にも増して重要視されるようになりました。私はベンダー側の調査もしていますが、タレントアクイジションのリーダーたちは採用の自動化を重視し、最新のテクノロジーに投資をして、高い業績を上げています。今、企業が変化を遂げるための最優先事項は、テクノロジーの導入となりました。
テクノロジーの導入の核心は、採用の効率性です。長い間、「採用において効率性を問うのはよくない」といわれてきましたが、それが一変したのです。パンデミックが起きてから、「効率性が大切だ」という考えに変わりました。採用の効率性とは、さまざまなデータから候補者のメトリクスを生成して候補者自身を理解し、採用行動につなげるというものです。プロバイダーたちは、こぞって自動化による効率性の向上を強調するようになりました。テクノロジーを活用することで、事務的な負荷も軽減できます。また、応募者が増えつつあるなかで、量と質の最適化を考えたときに、AIマッチングは非常に大きなトピックとなりました。パンデミック以降はこのようなことが加速しました。人材供給プールの拡大だけでなく、そこにエシカル(論理的な)AIが介在することは重要です。
人間味を失わない「自動化」とは
――採用の「自動化」など、AIによる効率性の向上がTAリーダーに重要視されています。採用プロセスのどの部分が自動化できますか。
パンデミックは確実に自動化の必要性を加速させたと思います。自動化は以前よりも話題性も高く身近な存在になりました。自動化すると人がコントロールできなくなるのではないかという懸念がなくなり、導入に躊躇することがなくなったように感じます。その背景には、1つ目は、リモートで働くことが主体になったこと。2つ目は、社内にあるリソースが少ないということがあります。既にベンダーのコミュニティは自動化を受け入れていて、気楽にマーケティングや、自動化が話題に上がるようになりました。3つ目は、現時点ではまだでも、人材獲得の未来を考えたときに自動化の方向に進むだろうという予測です。以前よりも数少ないリクルーターが、自宅勤務で、スピーディに働かなければならない状況にあるため、自動化を考えざるを得ないのです。自動化を取り入れる際は、既存の採用プロセスのような人間味を失わないようにしなくてはなりません。一方で、候補者とのコミュニケーションやインクルージョン、公平性など、人間が行うと偏見が生じることがありますが、テクノロジーはそれを解決することができます。
採用プロセスでは、まだ完璧ではありませんが、企業のスケジューリング調整に自動化が役立っています。応募のプロセス全体、つまり、どうやって人を惹きつけ、応募をさせるか、それに関連する顧客転換率は確かに自動化によって向上しています。また、候補者と対面ができない状況下でのオンボーディングは大きな課題を抱えていて、企業は苦肉の策としてテクノロジーを導入しています。ただ残念なことにオンボーディング領域は、10年くらいは大きな技術の進歩は見られません。ほかには、これまで候補者についてのフィードバックが難しかったのですが、それを収集して自動化するツールが活用されるようになりました。
――企業とベンダーとの関係性に何か変化は見られますか。
パンデミックによって多くの企業は採用をストップ、もしくは採用人数を大幅に減らしましたが、ベンダーと既に複数年の広告やポスティングのライセンス契約を結んでいる企業が多くありました。ベンダーの市場調査をしていて興味深く感じたのは、パンデミックの状況下で苦境に追い込まれる顧客企業に対して、多くのベンダーは、これまでの契約形態から消費型モデルへと変更する、アプリカント・トラッキング・システム(以下、ATS)を消費者サポート付きのものに変更する、契約期間を1年単位ではなく四半期単位とする、手数料を無料にするなど、特別な対応をしたことです。パンデミックに見舞われることは誰にも予測できませんでしたから、配慮したのでしょう。もちろん何もしなかったベンダーもいます。これからは、環境の変化を見越して、企業は新しいプロバイダーやテクノロジーを探す際に、パートナーシップの内容を熟考することが重要です。その際に、プロバイダーがほかの企業とどのような取引をしているのかを知る必要があります。
面接、オンボーディング、アセスメント領域のイノベーション
――パンデミック以降、企業はどのようなテクノロジーに注目していますか。
大手企業が投資しているテクノロジーは、効率性、公平性、ダイバーシティ&インクルージョンに対応したものです。現在はリモート中心のため、ビジネス上のつながりも薄れています。パンデミック以前は、応募へと興味を引く方法や人材とのエンゲージメントに興味が集中していましたが、今では、面接プロセスを経た応募者を対象にした自動化へと志向が変わりました。また、パンデミック以降は、面接、オンボーディング、アセスメントなど、これまでテクノロジー分野では重要とされてこなかった領域で、非常に興味深いイノベーションが起こっています。自動化との距離が縮まったことが、この大きな変化へとつながったのだと思います。
自動化は、リクルーター側の事務的な負荷を軽減するためだけのものではありません。候補者の負荷も減ります。ただ、候補者側の自動化は、採用プロセスのどの過程まで進んでいるのか、面接での評価に関するフィードバックを受け取っているかといった点では、まだ十分なものではありません。一方、オーストラリアには、候補者のための自動化として、AIのチャットベースの素晴らしい面接動画のソリューションがあります。
――HireVueのほかに、効果の高い面接ツールはありますか。
面接ツールは、単にスケジューリングや動画面接機能があればよいというものではありません。PredictiveHireは、ダイバーシティ&インクルージョンの捉え方が非常に優秀なツールです。AIチャットを面接プロセスに取り入れ、結果を予測します。Paradoxも面接の自動化機能で多くの顧客から高い評価を得ています。ほかにHireVueとModern Hireが、さまざまな効率性に対するシステムを構築しています。洞察も多く、真の面接マネジメントツールといえるでしょう。私はこれも変化の1つだと思います。
――オンボーディングやオンボーディング準備のためのテクノロジー関連ではどのようなものがありますか。
ATSのデモンストレーションではさまざまな製品を見ましたが、すべてにオンボーディング機能が入っています。ただそれは全部10年前と同じで変わっておらず、残念ながらこの分野では目覚ましいイノベーションは見られませんでした。私が面白いと思ったのは、対話型AIチャットボットのプロバイダーだけです。テクノロジーをオンボーディングに利用している企業は多くないため、利用すれば形勢は一変します。単なるコンプライアンスやポータルを超えてATSプロバイダーが何を生み出すのかを見たいと思います。たとえば、マクドナルドでは、時給労働者の人材獲得の際に、ATSではなく、Paradoxを利用して、他社とは異なる手法を使っています。
対話型AIによってコミュニケーションが進化する
――パンデミックで新卒採用への影響はありましたか。
新卒採用に関してはとても悲惨な状況でした。パンデミックの直前までは、新しいプロバイダーやサービスプロバイダーでさまざまなイノベーションが起こっていました。しかしパンデミック以降は採用を中止した企業や、社内の人事異動へと手段を変更せざるを得なかったプロバイダーもあります。
新卒者はスキルが少ないため、新卒採用におけるAIマッチングは、スキルマッチングという目的での利用はできません。しかし、公平性、ダイバーシティ&インクルージョンという点では利用価値が高く、ベンダーは大きな優位性を持っています。ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンという側面での取り組みを向上させたいという企業は、新卒採用から始めるべきです。初職はその後のキャリアに大きな影響を及ぼします。新卒採用の時点での公平性は非常に重要で、軌道修正ができればとても素晴らしいことです。
――2021年の採用マーケットを予測してください。どのような変化が起こると思われますか。
これからは「コミュニケーション」がとても重要な要素になるでしょう。対話型AIはとても人気の高いトピックとなりましたが、現時点ではまだ高いレベルに至っておらず、この分野には進化の可能性があります。対話型AI、SMS、チャット、WhatsAppメッセンジャーなど、形態にかかわらず、コミュニケーションは最優先事項となるでしょう。しかし、ATSプロバイダーはいまだにそれを理解していない。たとえば、グローバルなプロバイダーにはWhatsAppとの統合という課題が残されています。WeChatとの統合も同様です。
私はプログラマティック広告について注目し、詳細に調査をしています。これまでは広告出稿、請求、その他すべてがマニュアルでしたが、パンデミック以降はリモートを軸としたものになりました。自動化は、広告出稿を自動化して予算に応じて最適な配分をすることでコスト削減や時間短縮につながります。候補者探しに関してもマッチング精度の向上によって、単に人数を満たすだけではなく質の高い候補者を見つけることができるようになりました。プログラマティック広告の自動化によってコントロールを喪失することなく、客観的で適切な判断基準をサポートすることが可能となるでしょう。
- パンデミック以降、採用の効率化を目的として、最新のテクノロジーを導入した企業は高い業績を上げている。面接、オンボーディング、アセスメントなど、これまでテクノロジー分野では重要とされてこなかった領域で、イノベーションが起こっている
- リアルとリモートのハイブリッド化が中心となり、コミュニケーションがますます重要視される。対話型AIは、さらに開発が進み、進化するだろう
- プログラマティック広告は、これまで人が判断してきたことを自動化することで、客観的な判断ができる。広告出稿の最適化や適正な予算配分が可能となり、採用の質を高めることができる