【インタビュー総括】米国企業は、採用難や従業員の離職の問題にどのような対処をしているか

2022年11月25日

2022年の米国企業の採用に見られる傾向を明らかにするため、企業10社の採用責任者や有識者へのインタビューと、企業66社を対象としたサーベイ(インタビュー企業も含む)を実施した。
インタビューやサーベイから見えた企業に共通する課題は、「従業員の大量離職」「採用難」「リモートワーク・リモート採用」であった。本コラムでは、主に従業員の大量離職や採用難という2つの課題の実態把握と、企業の対応策を振り返る。

Great Resignation(大量離職)が多くの企業に影響

従業員が次々に辞めていく「Great Resignation」の影響は、インタビューをした企業でも同様に見られた。6社中5社は、過去半年間で自社の従業員の離職率が上昇し、パンデミック以前の水準を上回ったと回答した。最も多い退職理由は給料面で、ほかには、「研修などキャリア形成の機会が足りない」「昇進のスピードが遅い」「ストレスや疲労の蓄積によるバーンアウト(燃え尽き症候群)」「リモートワークを続けたい」「上司や仕事への不満」「やりがいのある仕事をしたい」などさまざまだった。
「Pandemic Impacts調査」サーベイ(2022年)で従業員の退職理由を聞いたところ、最も多かったのは「もっと多くの給料が欲しい(21.7%)」で、インタビューと同様の結果であった。そのほか「より柔軟な勤務形態が欲しい(16.3%)」「オフィスに出社したくない(12.0%)」「バーンアウト(10.2%)」なども理由に挙げられた(図表1)。

【図表1】従業員の退職理由
従業員の退職理由

出所:「Pandemic Impacts調査」サーベイ(2022年)、リクルートワークス研究所

自主退職者が増加している背景については、多くの採用責任者や有識者がさまざまな外的変化と内的変化を指摘している。外的変化では、売り手市場によって、今の仕事を辞めてもすぐに転職先を見つけやすい状況が続いていることが挙げられる。従業員と企業の関係性も変化しており、オフィス出社やワクチン接種の義務化などの会社の方針に対して従業員側が従いたくないという意思をより強く示す手段として、退職する人もいる。
また、歴史的な物価上昇も影響している。企業は物価上昇への対応や人手確保のために、賃金の引き上げを行っており、より高い賃金を求めて転職する人が増えた。NABE(全米企業エコノミスト協会)が同年4月に発表した企業の経営状況に関する調査「Business Conditions Survey」では、同年第1四半期に「賃上げを実施した」と回答した企業の割合は70%と、約40年前に調査を開始して以来、最高となった。
そのほか、候補者のジョブホッピング(短期間での転職の繰り返し)に対して、企業のネガティブな見方が減ったことも背景にあるという。

内的変化には、リモートワークの浸透により、多くの企業が採用の対象地域を拡大したことで、人々の選択肢が増え、転職への意欲が高まったことが挙げられる。また、長期化するコロナ禍の影響で、働く場所や働き方、仕事内容といった「働くこと」を見直すなど、個人の意識や価値観が変化した。これまでとは異なる業種や職種に転職するなど、新たな挑戦を求める人も増えている。

社内流動を活性化し、従業員の離職を防止

企業は、従業員の退職理由で多く見られる、「社内でのキャリア形成や自身の成長の機会の不足」と「仕事のやりがいの不足」という2つの“不”を解消するため、社内異動や副業のしくみを整備し、従業員が社内で新たなキャリアを積んだり、能力開発の機会を積極的に与えていた。インタビューしたうちの4社(Quadient、Thermo Fisher Scientific、Raytheon Technologies、Kimberly-Clark)が、PhenomやWorkdayなどの「タレントマーケットプレイス」を導入し、会社のニーズと従業員のキャリアの目標をもとにAIが従業員と社内のプロジェクトやポジションとをマッチングしていた。PhenomとWorkdayは社内の人材流動を促進するマーケットプレイスで、ユーザーは他部署の従業員を検索して詳しい業務内容を教えてもらったり、同僚から推薦を受けて社内公募に応募することができる。さらに、LMS(学習管理システム)と連動しており、キャリア開発に役立つオンライン講座のレコメンドを受けることもできる。

ただし、システムがあっても、上司の後押しがなければ社内の流動性は担保できない。上司が優秀なメンバーを他部署に異動させないように留保することがあるといわれている。Aptitude Researchの調査では、企業が社内流動化を取り入れない理由として、「上司がメンバーの応募をしにくくしている(29%)」が最も多かったという。Kimberly-Clarkは、2021年の人材補充に占める社内からの登用(人事異動・昇進)の割合が、40%前後という企業であるが、チームリーダーによる人材の抱え込みを防ぐため、メンバーに部署異動やキャリアアップのチャンスを適宜与えているかどうかを、リーダーの評価基準の1つとしていた。

退職者の再雇用は限定的

企業は、採用難への対応策として、LinkedInなどのSNS上にアルムナイ(退職者)専用グループを開設して、アルムナイネットワークを構築し、退職した元従業員の再雇用を行っている。グループ内で、求人やイベント情報などのニュースを配信して退職者とのつながりを保ったり、また退職者同士の交流を深めている。サーベイでは、回答企業66社中、正式な再雇用制度が「ある」と回答した企業は57.6%と過半数を占めた(図表2)。

【図表2】再雇用制度の有無
正式な再雇用制度の有無

出所:「Pandemic Impacts調査」サーベイ(2022年)、リクルートワークス研究所

サーベイでは、2021年に人員補充したポジションに退職者が占める割合についても聞いているが、「2~5%」との回答が54.5%と最も多く、再雇用制度はあまり活用されていない(図表3)。

【図表3】2021年の人員補充に占める退職者の割合
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出所:「Pandemic Impacts調査」サーベイ(2022年)、リクルートワークス研究所

インタビューをした企業の多くは再雇用の制度を持たず、あまり行っていなかった。Thoughtworksは、従業員が他社で多くの知識を身につけた後、再び自社で働く機会を与えているが、制度化はしていない。それは、再雇用する候補者の選定基準の設定や、退職理由を把握する難しさがあるからだという。また、アルムナイネットワーク内での退職者との情報共有や交流が少なく、採用手段としてうまく活用できていない企業もあるようだ。フィナンシャル・タイムズ紙は、CitiやGEのアルムナイ専用サイトの登録者数は4万~5万人と推計しているが、CareerXroadsによれば、アルムナイネットワークの運用専任者を置き、退職者の再雇用に注力する企業は、大手の金融会社など一部に限られているという。

さらに、ロビン・エリクソン博士(全米産業審議会)やジョージ・ラロック氏(WorkTech by LAROCQUE)は、現在の労働需給の逼迫が緩和されれば、多くの企業が再雇用をやめるだろうとの見解を示した。

さまざまな手段を駆使して社内外の人材を確保

効果の高い採用手法として、リファラル採用を積極的に導入している企業もあった。紹介ボーナスの金額を引き上げて採用決定率を高めたり、従業員以外からのリファラルも促進していた(QuadientやRaytheon Technologies)。
LinkedInなどから情報を集め、転職・就職希望者や他社で働く社員のなかから優秀な人材を積極的に発掘するダイレクトソーシングや、バーチャルキャリアフェアの活用で応募者を多く集める企業もあった(Quadient)。
そのほか、インターンや新卒者の採用、RPO(採用プロセスアウトソーシング)や人材紹介会社の利用、フリーランサーなどの外部プロ人材の活用など、企業はさまざまな手段を用いて人材を確保していた。

確保した人材をつなぎとめるオンボーディングも強化していた。「オンボーディングスペシャリスト」職を設置し、求職者が応募を検討している段階から入社後まで良好な関係を維持することに努めた。また、従業員のバーンアウトを抑制するため、CHRO(最高人事責任者)とCMO(最高医療責任者)が連名で全従業員にメールを配信し、自らのストレス対処法を共有したり、有給休暇の取得を推奨するなどして、従業員のウェルビーイングを向上させていた。従業員の会社に対する満足度を把握し、課題を早期に発見・対処する「従業員サーベイプラットフォーム」などを活用する企業もあった(図表4)。

【図表4】社内・社外の人材の確保
社内外の人材の確保

出所:リクルートワークス研究所

インタビューとサーベイから、採用難と離職の課題に同時に取り組まなければならない企業の苦労がうかがわれた。そのなかで先進的な企業は、テクノロジーも活用しながら、人材が会社に求める多様なニーズを把握し、働きやすさと働きがいの向上に取り組んでいた。
サーベイでは、2022~2023年の採用のトレンドについて、下記の回答があった。
・スキル重視の採用
・AIを駆使した採用やソーシング
・HRアナリティクスを活用したデータドリブンな採用
・正規労働者と非正規労働者を同じシステムで管理する“トータルタレントマネジメント”
・人材確保を目的とする給与の引き上げ

スキル重視の採用については、主にテクノロジー職の採用で導入する動きが北米で見られる。AIの活用については、多くの米国企業が採用プロセスにAIを導入しているが、ニューヨーク市では2023年1月1日に、人材の募集や選考などにおいてAIを利用する前に、バイアス(偏見)監査を実施することを企業に義務づける条例が施行される。カリフォルニア州でも同様の法案が検討されるなど、AIの利用を規制する動きが広がっている。今後の企業の採用活動への影響が注目される。

TEXT=杉田真樹
調査協力=ジェリー・クリスピン(CareerXroads創設者兼共同代表)、
クリス・ホイト(CareerXroads共同代表)

調査概要

〈Pandemic Impacts調査 インタビュー〉
・目的:米国企業の採用動向を明らかにする
・調査方法:インターネットによるビデオインタビュー
・実施時期:2022年3~4月
・対象対象:グローバル企業の採用責任者・アナリスト・コンサルタント 10人 

〈Pandemic Impacts調査 サーベイ〉
・目的:米国企業の採用動向を明らかにする
・調査方法:インターネット上のサーベイ調査サイト利用によるウェブ調査
・実施時期:2022年3~4月
・対象対象:グローバル企業の採用責任者 66人

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