Sema4 Holdings フランク・ウィットノウワー氏(HRISシニアディレクター)

採用時に会社のパーパスへの共感度合いを重視

2022年06月16日

フランク・ウィットノウワー氏は、Deloitteのグローバルタレントテクノロジーリーダーや、ADPのグローバルクラウドテクノロジストを経て、2021年にSema4 Holdings(以下、Sema4)のHRIS(人事情報システム)シニアディレクターに就任した。HRテクノロジーに精通している同氏に、採用プロセスやテクノロジーの活用などについて話を伺った。

【Sema4 Holdings】2017年設立、本社所在地はコネティカット州。AIと機械学習技術で病気のリスクを診断するゲノムおよび臨床データ解析。約2000万人の患者の匿名化されたカルテ情報とゲノム情報を保存するヘルスインテリジェンスプラットフォーム「Centrellis」と、ゲノム解析プラットフォーム「Traversa」を提供する。がん遺伝子検査、新型出生前診断(NIPT)、唾液から193の遺伝子疾患がわかる新生児向け遺伝子検査などの検査サービスも実施している。2017年に大手医療機関のMount Sinai Health Systemから営利会社として分社独立し、2021年7月にナスダック市場に上場。従業員数は約1300人。

――2021年の米国での採用人数を教えてください。

採用人数は1000人未満でした。パンデミック以前の2019年や2020年より増えています。Sema4は、設立以降順調に成長し、2021年には従業員数が2倍以上になりましたが、2022年は組織体制の確立に重点を置いているため、成長スピードは落ちるでしょう。採用予定数も、2021年の採用数を20%以上下回る見込みです。

――米国では人材獲得競争の激化により、退職者を再雇用する企業が増えているそうですが、Sema4では再雇用は行っていますか。 

再雇用の正式な制度はなく、あまり行っていません。2021年の採用数に占める元従業員の割合は、1%以下です。

――採用難に加えて、従業員の大量離職「Great Resignation」が起きていると言われていますが、離職は増えていますか。 

増えています。2019年の米国でのおおよその離職率は、6~10%でしたが、この約半年間で上昇しています。従業員が離職する理由は、リモートワークを続けたい、もっと高い給料が欲しい、仕事や上司への不満、バーンアウト(燃え尽き症候群)などが挙げられます。当社では、ミッションドリブンな組織づくりに注力することで、人材の定着を図っています。

――パンデミックをきっかけに、社内モビリティ(配置転換)に注力する企業が増えていますが、社内での人事異動は行っていますか。 

人事異動はほとんど行っていません。2021年の採用人数に占める社内からの登用の割合は、5%以下でした。Sema4では、経験を重視しているため研究者など専門職の採用が多く、求める人材がなかなか見つからないという問題があります。博士号を持つ研究者を育てるために、従業員の学費を会社が負担して社内で育成するという案はありますが、まだ実施には至っていません。

リファラル採用が中心

——人材のソーシングはどのように行っていますか。

大半は、従業員に知人や家族を紹介してもらうリファラルと、人材紹介会社から採用しています。これによって、以前は採用できなかった優秀な人材を発掘できるようになりました。特に、上位職の人材や専門性の高い研究者は、横のつながりが強く、従業員がカンファレンスで知り合った人や、論文の共同執筆者などを採用しています。

——企業の多くが対面からリモートによる採用にシフトしました。面接方法はオンラインと対面のどちらですか。面接ツールは使用していますか。

オンラインと対面の両方です。オンライン面接は、Zoom、BlueJeans(※1)、Microsoft Teamsを使って行っています。しかし、面接官は面接をするために必要なスキルや行動面接の方法を教わっていません。また、候補者は面接で1日に10人前後の従業員に会わなければならないときもあり、午前8時から午後5時までと長い時間を要します。さらに、採用判断に時間がかかりすぎているために、候補者にオファーを出しても既に別の会社に内定していることもあります。今後は、このような問題を時間をかけて解決していかなければなりません。

——どのような採用ツールを利用していますか。

以前は 20年以上の歴史がある ClearCompany(※2)という会社のATS(応募者追跡システム)と給与管理システムのPaylocity(※3)を使っていましたが、最近はコア人事管理システムとして 、給与計算機能もあるWorkday(※4)を利用しています。Workdayには財務管理の機能もありますが、当社の財務管理はOracleやNetSuiteを利用しています。すべてのシステムを一元化したいのですが、まだ実現できていません。

膨大な医療データをAIで解析し、最適な治療法の選択をサポート

——Sema4はヘルスインテリジェンスの会社ですが、どのような技術職がありますか。

2021年の技術職の採用人数は、ソフトウエアエンジニアやデータアナリスト、クラウドコンピューティングスペシャリストなどを合わせると、数百人でした。
社内にはいくつかの技術部門があります。たとえば、バイオインフォマティクス(生命情報科学)の研究部門では、約2000万人の患者の匿名化されたカルテやゲノム情報をもとに、遺伝子変異を持つがん患者の治療法の選択に役立つデータをAIで解析し、医師や患者、医療機関などに提供します。これによって、医師は自らの経験や知識、あるいは患者の症状だけではなく、データに基づいてその人に最適な治療法を探すことができます。研究部門には、博士号を持つ研究員が200人以上いますが、バイオインフォマティクスの専門家ではありません。物理学や化学などを専門とした、問題解決の専門家集団です。

また、製品開発部門では、医療データが本人の同意なしに開示されないように保護する「HIPAA(米国医療保険の相互運用性と説明責任に関する法令)」に準拠して、製品のテストを行います。データを医療機関などと共有する際には、データを匿名化したことを証明しなければならないため、セキュリティ対策が必要です。

——技術職では、学歴を問わないスキル重視の採用が話題となっていますが、Sema4では実務経験の浅い人材の採用は行っていますか。

経験が浅い人材の採用は、事務や受付などの職種以外では行っておらず、高い学歴と豊富な業界経験を持つ人材を求めています。たとえば、プロダクトマネジャーは、各部門のリーダーからどのような製品を作る必要があるのかをヒアリングして、開発チームを編成し、試作をします。その際に、医学界や研究所のコミュニティにどのように貢献したいのかを考えて、製品に対する明確なビジョンを持っていることが重要です。また、がんなどの細胞変異や出生前診断を専門とする研究者は、膨大なデータのなかから必要な情報を厳選し、製品チームと協働していく能力が求められます。

そのなかでも、最も重視していることは、「患者中心(patient-centric)」のヘルスインテリジェンスを提供するという会社のパーパスに共感できることです。設立初期に収益源の多くを占めていたのは、妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる新型出生前診断(NIPT)でした。これは、腹部に針を刺す羊水検査とは大きく異なり、胎児にも安全な方法です。Sema4では、こういった会社の取り組みや製品に共感する人材が多く働いています。

多様な人材を総合的に活用するトータルタレントマネジメントの発展を期待

――2022~2023年の採用では、どのような傾向が見られると思いますか。

正規の従業員と同じソリューションで、非典型労働者の人材確保が行われるようになると思います。非典型労働者は従業員ではありませんが、従業員と同様の業務に携わっている人もいます。このポストは正社員採用、このポストは非典型労働者との契約というように比較して、フリーランス、派遣労働者、パートタイム、フルタイムなど、あらゆるタイプの労働力を同じシステムでまとめて管理できるようになるといいでしょう。
さらに、週3日勤務などで働きたい、週20時間だけ時給制で働きたいといった従業員側が求める働き方を、企業側がサポートする柔軟性をもっと持つようになると思います。

――今後リクルーティング業界や企業の採用がさらに進化するために必要なことは何だと思いますか。

候補者のニーズに真摯に対応することです。企業のなかでは、候補者への不採用の連絡に数カ月も待たせるケースが見られ、いずれ自社のブランドに悪影響を与えることになるでしょう。
またATSを使っている企業の多くは、候補者に最新の求人情報や会社の新しい取り組みについてメール配信ができる状況にもかかわらず、その機会を逃しています。人材獲得部門はマーケティング部門と密接に協力して、採用に取り組む必要があると思います。ATSに保存している人材のデータから、採用ポストに適した候補者をAIで自動的に発掘できるようなしくみがあるといいと思います。

インタビュアー=ジェリー・クリスピン(CareerXroads) TEXT=杉田真樹

ポイント
  • 上位職の人材や専門性の高い研究者は、横のつながりが強いため、主にリファラルや人材紹介会社を介して人材を採用している。これにより、以前は採用できなかった優秀な人材を発掘できるようになった。
  • 高い学歴と豊富な業界経験を持つ人材を求めているが、最も重視するのは会社のパーパスへの共感性である。
  • 正規の従業員と、フリーランスや派遣労働者などの非典型労働者を同じシステムでまとめて管理するトータルタレントマジメントを行う企業が今後増えるだろう。

(※1)BlueJeansは、クラウド型のビデオ会議システム。最大200名が参加できるビデオ会議をオンラインで開催できる。Microsoft OutlookやGoogleカレンダーとのスケジュール連携、会議の録画や録画の配信といった機能を備える。
(※2)ClearCompanyは、応募者追跡、オンボーディング、業績管理、従業員エンゲージメント、労働力計画の機能を備えるタレントマネジメントシステム。
(※3)Paylocityは、人事向けのクラウド型ソフトウエア。給与計算、人事管理、採用管理、勤怠管理、シフト管理、福利厚生管理などの機能を備える。
(※4)Workdayは、人事から採用、タレントマネジメント、ラーニング、労働力管理、給与計算管理、報酬管理までを網羅し、人材、労働力、コストを一目で把握できるHCMクラウドシステムである。

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