非典型労働者の確保と管理を請け負うMSP。サービスの変遷と現況
本コラムでは、正規雇用者と非典型労働者の採用と管理を総合的に行う人材サービス、トータルタレントマネジメントの発展についてのセッションを紹介する。米国では、正規雇用以外の労働者をコンティンジェント労働者と呼称する。コンティンジェント労働者には、企業と直接契約を結ぶ個人事業主やフリーランサー、契約労働者と、間接雇用で働く派遣労働者、オンラインプラットフォームを介して業務を受託するギグワーカーやクラウドワーカーなどが含まれ、臨時的に労務を提供する人たち全般を指す。
企業は通常、コンティンジェント労働者の募集・採用・管理は各事業部門の調達担当が、正規雇用者の募集・採用・管理は人事部が行う。しかし、人材戦略はすべての就業形態を一括管理する方が効果的であるため、トータルタレントマネジメントという人材確保・管理モデルが提唱されるようになった。トータルタレントマネジメントは、コストと適合性を照らし合わせ、職務に対してあらゆる就業形態から、適材適所の人員配置を迅速に行うことを可能にする。SIAは、2015年からトータルタレントマネジメントに着目してきた。「MSPからトータルタレントへ:企業におけるコンティンジェント労働者調達の道のり」のセッションでは、グローバル労働力ソリューション担当リサーチマネジャーのMatt Norton氏が、コンティンジェント労働者を管理するサービスの変遷と現況について報告した。
企業で働くコンティンジェント労働者の管理を一手に担う、MSPとは
コンティンジェント労働者は契約期間や契約形態が多種多様で、企業の労務管理や事務手続きなどの業務が煩雑になる。欧米には、企業に代わってコンティンジェント労働者の管理を行うMSP (Managed Services Provider)というサービスがある。人材の確保や発注、利用する人材派遣会社の選定、勤怠管理、請求処理などをMSPが請け負う。企業に常駐する場合もある。
図表1は、企業の課題とそれに対するMSPのサービス領域を整理したものである。MSPは、コンティンジェント労働者のオンボーディングおよびオフボーディングに監査とコンプライアンス順守を含めることで、企業のリスクを最小化する。また、企業の管理が行き届かない支出をMSPが介入しコントロールする、希少な人材が必要な職務のために新たなソーシングモデルを開発する、コンティンジェント労働者の管理に関するテクノロジーサポートを提供するなど、MSPはコンティンジェント労働者に関するあらゆる側面で企業を支える。
図表1 企業の課題とMSPが提供するサービス
MSPの利用は、従業員数1万人以上の大規模企業が67%を占めるが、中堅企業も年々増えている。MSPを利用する企業が多い業種は、金融・保険とテクノロジー・通信がそれぞれ20%、製造が14%、製薬・バイオ技術・医療機器が13%、医療が12%である。
SIAの予測では、企業におけるコンティンジェント労働者の増加を見込んでいる。2019年時点では、従業員数1,000人以上の企業において、従業員に占めるコンティンジェント労働者の割合は19%であったが、企業は2年後には21%、10年後には25%まで増員する予定である。今後はコンティンジェント労働者の増加とともに、MSPを利用する企業が増えるだろう。
SIAが2020年6月に企業を対象に行った調査では、コロナ禍でMSPの存在感が増したことが示された。「コロナ禍での対応を受けて、それぞれの人材サービスを他社に推薦する意向は変化したか?」との質問に、推薦する意向が「以前よりも高まった」と回答した企業の割合が多かった人材サービスの上位3つは、FMS(フリーランサー管理システム、28%)、MSP(24%)とオンラインのスタッフィングプラットフォーム(23%)であった(図表2)。
図表2 コロナ禍の対応から、人材サービスを他社に推薦する意向は変わったか
足踏みをするトータルタレントマネジメント
MSPの利用が高まりつつも、トータルタレントマネジメントのモデルは、SIAが当初予想していたほど浸透していない。企業側でその概念の受け入れが進まないためである。たとえば、人事部と調達部が縦割りになっている、トータルタレントマネジメントの効果を示す説得力のあるビジネスケースがない、新しい人材管理モデルへの変革に対する恐れといった障壁がある。需要が低いためか、MSP側でもトータルタレントマネジメントを提供する事業者は少ない。正規雇用者とコンティンジェント労働者の採用チームを統合しているMSPは22%にすぎず、大多数がコンティンジェント労働者のみを対象とした人材確保・管理サービスを提供している。
ただ、MSPの最新の付加価値サービスとして、データアナリティクスを用いた人材戦略支援が確認され始めた。顧客企業の人材データをもとに、今後数年間のスキルギャップや労働者が不足する部門などを予測し、特定の職務に最適なのは正規雇用者か派遣労働者か、あるいはオンラインのプラットフォーム利用か、といった判断をするための意思決定ツリーを作成する。トータルタレントマネジメントはまだ小さな一歩を踏み出した段階であるが、今後大きく飛躍することも考えられる。
取材・翻訳=坂井裕美、TEXT=石川ルチア