アバターや顔認証技術で人事課題を解決するスタートアップ

2023年06月22日

UNLEASH America 2023 概要

2023年4月26日から27日にかけて、ラスベガスでUNLEASH America 2023が開催された。UNLEASHは欧州を拠点とするHRテクノロジーコンファレンスで、欧州と米国で年2回開催されている。展示場には、ATS(採用管理システム)や給与計算システムなど中核的なHRテクノロジーから、特定の人事課題に対応するスタートアップまで、合計154社が出展していた。セッションのテーマは「AIとの連携:未来のスマートチームを解き放て」「未開拓の求職者にアクセスするには」などがあり、また多くのセッションで生成AIが話題になった。本コラムでは、世相を反映するスタートアップ5社が参加したコンテスト、「Startup Award」を紹介する。

優勝はバーチャルヒューマンによる研修動画作成ツール

Startup Awardでは、「人材と採用」「学習とスキル」「HRテクノロジーとトランスフォーメーション」など領域別のセミファイナルを勝ち残ったスタートアップ5社が賞金5万ドルをかけて5分間のスピーチと審査員との質疑応答を行った。審査員は、HR業界のアナリストJosh Bersin氏やSarah White氏、採用領域の有識者Gerry Crispin氏など8名が務めた。

アバター制作画面アバター制作画面
出所:Hour OneのHP

優勝は、バーチャルヒューマン(アバター)の動画を作成するHour One(イスラエル)だった。企業が、Hour Oneのテンプレートからアバターの容姿や声、話す言語を選択して文章を入力すると、最短15分で研修動画を作成できる。従業員の写真や音声を取り込んで、オリジナルのアバターを作成することもできる。高度な動画編集スキルを必要とせず、時間と費用の削減になる。Hour Oneは、研修以外にも顧客向けの製品紹介や受付案内など多様な用途に適しており、Berlitzは語学教育にアバターのインストラクターを活用している。

バラエティに富む課題に取り組んだ、残り4社のファイナリスト

UNLEASH創設者兼CEOのMarc Coleman氏(左)と Hour OneのCEO、Oren Aharon氏UNLEASH創設者兼CEOのMarc Coleman氏(左)とHour OneのCEO、Oren Aharon氏

優勝は逃したが、ファイナリストの4社であるNoahFace、Crooton、Mirzaとequidiでは、パンデミックで生まれたサービスや表面化したニーズに応えるサービスもあり、時代を反映した内容であった。4社の概要は下記のとおり。

NoahFace(オーストラリア)
顔認証による出退勤の記録・管理サービス。従業員が普段使用しているデバイスで出退勤を記録できるため、企業は各拠点やテレワーク勤務者の自宅などに特別な機器を設置することなくこのサービスを利用できる。体温や呼気中アルコール濃度を測定する機能もある。主要な給与計算ソフトとの連携も可能。

Crooton(英国)
位置情報サービスやGPSを利用して特定のエリアにデジタルの「フェンス」を作り、フェンス内にいる人に対して広告を配信するサービス。企業は、大学のキャンパスや競合他社のオフィスなど対象範囲を具体的に指定して、フェンス内にいる人が閲覧しているウェブサイトやアプリ上に企業の広告を表示させることができる。積極的に求職活動していない候補者に対して自社で働く魅力を発信するための、エンプロイヤーブランディングツール。

Mirza(米国)
企業の福利厚生を通じた保育費補助の申請・管理プラットフォーム。人事管理システムや給与計算システム、従業員の銀行口座と接続し、従業員がひと月にかかる保育費を申請すると、Mirzaが税金控除やコンプライアンスを順守した補助金を支払う。また、従業員は、プラットフォーム上でリーズナブルな保育サービスを検索できる。保育サービスを見つけられない、あるいは保育費が高いなどの理由で離職や欠勤を余儀なくされる従業員を減らす。

equidi(オーストラリア)
社内の男女の賃金格差を可視化して、問題の根本がどこにあるかを提示するプラットフォーム。職位や部署、在職期間、勤務地などのほか、人種など性別以外の属性による分析も行い、公平性をチェックできる。年間を通して発生する入社や異動、昇格・昇進といった動的データを捉えながら、適正な賃金を提示する。企業は格差縮小の目標値を設定し、スコアカードで進捗状況を確認できる。

審査員を務めたJosh Bersin氏審査員を務めたJosh Bersin氏

審査員との質疑応答では、審査員からGDPR(EU一般データ保護規則)に対応しているか、他社にはない強みは何か、などの質問があった。Bersin氏は全体講評で「今後追随するサービスが現れたときに、生き残れそうな企業はこのなかになかった」と厳しい意見を述べた。一般的にスタートアップの5年生存率は5割といわれ、シビアな環境であるが、ファイナリストの5社はいずれも企業が持つ切実な課題をシンプルな操作で解決する技術の開発に取り組んでいる。また、HRテクノロジー業界ではM&Aが活発に行われており、スタートアップにとっては大手企業に買収されることも、成功の1つである。各社の今後の発展を期待したい。

まとめ

UNLEASHは展示場にスタートアップが集結したエリアを設けており、参加者は最新のユニークなサービスのブースをまとめて回りやすい。また、セッション数が非常に多く、DEIB(多様性、公平性、包摂性、帰属性)やリーダーシップなど、テクノロジー以外の人事領域のテーマ全般を取り上げている。しかし、各セッションは20~30分と短く、深く掘り下げた内容は少ない。参加者は、自社の課題に対する具体的な解決策を期待するよりも、訪問する展示ブースを決めたり、ほかの参加者とネットワーキングをしたりするきっかけとして、セッションを活用するのが良さそうだ。

TEXT=石川ルチア

関連する記事