HRテクノロジーコンファレンス&エキスポ2020参加報告 Vol.4
パンデミックによる業績不振で雇用の維持が難しくなった企業が、余剰人員配置転換や企業間の出向、移籍を行い、従業員の雇用を守る動きが世界的に見られるようになった。本コラムでは、HRテクノロジーを活用し一時的に他部署への配置転換を行った、デルタ航空の事例を紹介する。
デルタ航空の「特別任務制度」
デルタ航空は、従業員数約9万人の企業である。パイロットやキャビンアテンダント(CA)、グランドスタッフ、搭乗ゲートのスタッフ以外にも、高度ITスペシャリストなど多種多様な職種の従業員がいる。採用人数は毎年8千人規模であった。
旅客需要の低迷を受け、大幅な減便を余儀なくされたため、CAやグランドスタッフ部門では一時的に余剰人員が生じた。一方、フライトのキャンセルや問い合わせ対応の業務が急激に増えたことにより、カスタマーサービス部門では人手不足となった。従業員の約半数が任意の無給休暇制度を利用したことや、早期退職の募集に半数の従業員が応じた部署もあったことから、社内の人材需給に大きなギャップが生じてしまった。
デルタ航空は社内の労働力の需給調整をするため、通常は社外の人材のソーシングに利用しているAvatureを活用して8カ月で、人手が不足している部署が、短期間の「特別任務(special assignments)」に就く人材を社内から登用するしくみを構築した。
はじめに、従業員が自身のスキル情報などを登録するウェブページを制作した。
次に、特別任務の情報を従業員に広く告知するために、社内のキャリアサイトに募集情報を掲載した。従業員は、職種などのキーワードや勤務地で、特別任務の絞り込み検索ができる。また、任務により資格などの募集条件が異なるため、自動スクリーニングの機能を追加した。さらに、既存のHRIS(人事情報システム)と統合し、従業員プロフィールに登録されている情報も選考に活用した。結果、数十名の従業員が特別任務に応募した。
また、任務の終了日が近づくと、上長にメールで自動通知し、任務を終了するか期間を延長するかを選択できるしくみも取り入れた。任務の期間をシステムで簡単に変更することができる。
従業員の隠れた才能を発見
特別任務制度の導入は、単に需給ギャップを解消するだけでなく、従業員が所属部署では発揮する機会がなかったスキルの披露や、新たなスキルや経験を積む機会となった。異なる職種に興味を持つ従業員は、社内での自身の競争力や魅力を高めるために必要なスキルをどのように習得できるのかを学ぶことができた。また、他部署の従業員と1対1の関係性を築く機会にもなった。
社内のキャリアサイトによる公募を行ったことによって、選考プロセスの公平性と透明性が確保できた。選考を通過した従業員の多様性も見られた。さらに人事部は、従業員の能力やスキルを可視化することができたという。
2020年10月現在、デルタ航空では、特別任務に就く従業員のエンゲージメントを維持する方法、パフォーマンス管理の責任所在の明確化(所属部署のマネジャー、受け入れ部署のマネジャー、あるいはその両者か)、ローテーション制度における活用などについて社内で議論を進めているという。今後は、特別任務制度で得た従業員のスキルやパフォーマンスに関するデータを、人材の採用や労働力計画の向上に活用する計画である。特別任務に就いた従業員の社内の人事異動が今後も増加するか否かについてもデータで検証する。人材獲得オペレーションディレクターのMyria Peek氏は、「環境の大きな変化に直面した際に、既存のHRシステムを柔軟に活用するなど、既成概念にとらわれずにアジャイルな対応をすることが大切である」と指摘している。
TEXT=杉田真樹