【Tech Stack Interview】Lowe’s ドナ・ドルフ氏(TAシニアディレクター)
人材獲得分野で15年の経験を持つドナ・ドルフ氏とそのチームは、Lowe’sに移籍した。採用テクノロジー製品をカスタマイズして構築した独自のテックスタック(複数のテクノロジーを組み合わせて活用する)について彼女に語っていただいた。
【Lowe’s Companies, Inc.】1946年に設立された米国第2位の住宅リフォーム・生活家電チェーン。全米50州とカナダに1,725店舗を持っている。フォーチュン500社中42位の企業。従業員数は約30万人。
インタビュアー=クリス・ホイト 翻訳=鴨志田 ひかり TEXT=村田 弘美
チームとともに移籍
Q Lowe’sに転職する際に、ご自身でつくり上げたチームとともに移籍されたそうですね。
私は10年以上かけてつくり上げた素晴らしいTalent Operations and Strategy Team(人材運用および戦略チーム)の12人とともにLowe’sに移籍して、人材獲得モデルを根本からつくり変えるという大きな挑戦をしています。このチームの特徴は、従来の採用ブランディングに加えて、ジュニアソーサーがCRM(採用候補者管理システム)をソーシングに活用する新しいタイプの採用ブランディングを行っている点です。別のソーシンググループでは、会社が求める人材の採用難度に合わせてソーサーのレベルを1〜3に分けて対応しています。候補者体験を測定して、それが売り上げにどのように影響するかを分析するデータ解析および予測解析グループもあります。
年間300万人の候補者に対応できる採用テクノロジー
Q Lowe’sではどのような採用テクノロジー製品を利用していますか?
Lowe'sは、元々Kenexa BrassRing[1]のATS(応募者追跡システム)のみを活用していました。移籍後の私のプロジェクトの1つは、新しいHRIS(人事管理システム)としてWorkday[2]を導入することでした。はじめに、HiringSolved[3]を使ってATSのデータの仕様を変えました。これによってKenexa BrassRingをベースとした単一のプロセスの中でのオペレーションが可能となり、新旧のテクノロジーを連携させることができました。
現在、年間300万人の候補者に対応するため、Yello[4]と全社共通の大規模なセルフ・スケジューリングの導入に取り組んでいます。店舗の採用担当者は1人のみのため、大量の応募者に対応できず、半数の150万人がブラックホールへと消えていました。1人採用するのに5時間をアナログ作業に費やしており、合計すると驚異的な時間数です。この問題を解決するために、時給職の大量採用プロセスの自動化を進めているところです。求職者が時給の仕事に応募してからオンボーディングまでの採用プロセス全体で、人間が介入するタッチポイントは5つのみ。しかも、そのうち3つに必要な動作は、ボタンのクリックのみです。
Q ソーシングや採用マーケティングで利用されているHiringSolvedとZAPinfo[5]の満足度はどうですか?
HiringSolvedの「Talent Feed」[6]と「Prophet」[7]というツールを使ってソーシングを行っています。Talent Feedは、ウェブ上で公表されている社名や氏名といった個人の情報を収集します。情報が欠けている場合は、Prophetがメールアドレスを見つけ出し、そのクリーニングも行います。また、HiringSolvedとKenexa BrassRingの協力のもと、ブラックホールに消えた150万人と過去の不採用者で現在も入社を希望する人たちのデータを、Kenexa BrassRingの中から簡単に見つけ出し、Talent Feed内に保存する仕組みを構築しました。私たちの課題を解決し、期待どおりの成果を上げてくれたため、非常に満足しています。
ZAPinfo(Chrome拡張機能)は、「とにかく使える」データ・エキスポート・ツールです。非常にシンプルな機能で、ドラッグ・アンド・ドロップの簡単な操作を行うだけでネット上のあらゆるデータを当社のフォーマット形式でCRM内の正しい場所に格納します。あらゆるソースからデータを引き出せるし、SNSにも強い。LinkedIn[8]のプロフィールに載っていない連絡先情報も自動収集します。魔法のような自動化ツールです。スピードの速さはとても重要で、クリック数は少ないほどよい。事務作業効率が上がり、より多くの人材を見つける時間をつくり出せます。
40種類のテクノロジーを使いこなす
Q 選考とアセスメントではPeopleAnswers[9]をどのように利用していますか?
PeopleAnswersを使って、大量の応募者の評価を自動化しています。私が入社する以前にアセスメントで利用されていたジョブデスクリプションや候補者の採点方法を半年以上かけて見直し、リクルーターが候補者のパフォーマンスを評価しやすいアセスメントツールとして利用しています。アセスメントテストを通過できなくても、条件を満たし、競合他社での経験があり、有能だと思われる候補者については、採用プロセスの次のステップに進ませています。
次は、主要な職種すべてについて毎年90日間のレビューをしたいと考えています。小売業界ではビジネスの変化は極めて速い。常に変化に敏感に対応し、自社がどのようなスキルを持った人材を必要としているのかを見極め、それに応じてアセスメントテストの内容を頻繁に調整しなければ、テストを行う意味がありません。例えば、以前のLowe’sでは、DIYを行う一般客を店舗の主要ターゲットとしていましたが、現在はプロ(業者)に注目しています。求人のジョブデスクリプションや応募条件も、この顧客層に対応できる人材向けに書き換えました。
Q 何種類の採用テクノロジーを利用していますか?
14種類のハードシステムと、26種類のサブスクリプション契約の製品を利用しています。時給ベースの人材チームはSnagajob[10]やZipRecruiter[11]、コーポレートチームはDice[12]やTaleo[13]やStack Overflow[14]などを必要に応じて使い分けています。
「25万人」の超大量採用を成功させる方法
Q 2019年の採用予定人数と、採用を担当するTA(Talent Acquisition)チームの人数を教えてください。
採用予定人数は、全体で25万人です。季節採用や契約社員を除くと18万人です。今年1月に「全米季節採用の日(National Day of Hiring for Seasonal)」というキャンペーンを開催し、1日で2万7,000人を採用しました。海外拠点のカナダやインドでも採用しています。以前は店舗にHR担当者を1人配置し、あらゆる業務を行っていましたが、中央集約化して店舗との分業を進めています。本社のTA担当者はもうすぐ505人になる予定です。
Q 大規模な採用人数ですが、業務はどのくらいRPO(採用プロセスアウトソーシング)に外部委託していますか?
RPOも検討しましたが、ここまでの大規模な採用となると料金が天文学的なものになってしまうため、すべての採用業務を社内でまかなっています。
採用プロセスの9割は自動化できる
Q 早期に自動化したいのはどのような業務ですか?
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)で、自動的に応募者が最低条件を満たしているか否かを判断し、満たしていなければリストから削除する、という第1段階の自動化の開発の優先度が高く、その次はセルフ・スケジューリングです。人工知能の利用は、条件を満たしている応募者を候補者として扱い始める段階からとなるでしょう。
Q これからの5年間で、採用プロセスはどのくらい自動化されると思いますか?
事務的な作業の90%は自動化できると思います。しかし、リクルーターの仕事はプロセスやテクノロジーに基づく作業ばかりではありません。候補者との対話が重要であり、単純な自動化はできません。例えば、リクルーティングの作業をアートとサイエンスに分けるとしたら、将来の私のチームでは事務的作業以外のアート部分のほうに専念してほしいと考えています。
[1]Kenexa BrassRing:製品名は「IBM Kenexa BrassRing on Cloud」。興味喚起、選考、採用、定着までを網羅した統合人材採用ソリューション。複雑な組織のニーズに応じて、部署別に人材募集ページを簡単に制作できる。募集人員や応募状況、社内公募についての問い合わせなどが一目で分かる。
[2]Workday:人事から採用、タレントマネジメント、ラーニング、労働力管理、給与計算管理、報酬管理までを網羅し、人材、労働力、コストを一目で把握できる統合型HCMクラウドシステムのプロバイダー。
[3]HiringSolved:AIを活用した採用自動化プラットフォーム。ユーザーが地域、職種、必須スキルといった条件を音声で入力すると、顧客が持つ応募者データベースの中から条件に合った候補者を発掘する音声アシスタント「RAI」や、応募者の中からジョブデスクリプションに合った候補者を自動検索する機能を備える。「採用されなかった候補者全員にメールを送信」などと話しかけると、自動作成したメールを一斉送信する。
[4]Yello:人材の発掘、スケジューリング、選考を自動化する採用プラットフォーム。AI搭載の日程管理ソフトウェア「Advance」は、候補者が都合のよい日時を選択するランディングページの制作、自動チャットによる候補者のスクリーニング、送信メッセージのテンプレートといった機能を備え、GmailやOutlookのカレンダーと同期。予定が近づくとリマインダーを自動送信する。
[5]ZAPinfo:検索エンジン、SNS、主要ジョブボードなどに載っている基本的な連絡先情報、履歴書、プロフィールといったデータを、100種類以上のCRM、ATS、採用マーケティングプラットフォームにワンクリックでインポートできるChrome拡張機能。
[6]Talent Feed:HiringSolvedの人材マッチングおよび検索エンジン製品。顧客のATS、CRM、HRISに保存されているデータを自動更新し、連絡先、職歴、学歴、スキル、SNSのプロフィールといった情報を追加する。
[7]Prophet:HiringSolvedの無料のChrome拡張機能。特定の人物について検索すると、メールアドレス、電話番号、Twitter、GitHub、Stack Overflow、Facebook、MeetupなどのSNSプロフィールなどの情報が一覧表示される。
[8]LinkedIn:ビジネスに特化した世界最大手のSNS。世界で 6億人超の職歴データが保存されている。
[9]PeopleAnswers:製品名は「Infor Talent Science」。クラウドベースの予測型人材分析ソリューション。2014年にクラウドERP(統合基幹業務システム)プロバイダーのInforに買収された。企業は、候補者の「Behavioral DNA」(39の行動、認知、文化的特徴)を、優秀な既存の社員をモデルにつくった「理想的な社員」の特徴と比較検討し、最適な人材を採用できる。AIが候補者分析モデルに基づいて、新規採用者の長所や可能性、社員の長所を引き出すためのガイドなどを提案する。
[10]Snagajob:飲食店、小売店、宿泊施設などの時給の仕事に特化した求人サイト。職種、地域を入力し、勤務時間(フルタイム、パートタイム、16歳以上のティーン向け)や業種で絞り込み検索する。
[11]ZipRecruiter:求人マーケットプレイス。1回の投稿でジョブボードやSNSなど100以上のウェブサイトに求人広告を配信する。求職者がアプリで求人を検索すると、機械学習技術により、掲載求人の中から条件に合うものを表示する。
[12]Dice:テクノロジー関連職に特化した求人求職サイト。iOS開発、Java、Oracle、SQLといったスキルを持つエンジニアが主な対象。職種、都市、企業名、勤務形態、在宅勤務可といった条件で絞り込み検索する。Dell、Charles Schwab、Booz Allen Hamilton、Chaseなどの求人情報を約8万2,000件掲載。
[13]Taleo:製品名は「Oracle Taleo Cloud Service」。人材の募集、採用、育成、定着を簡単に行えるOracleのクラウド型人材管理システム。
[14]Stack Overflow:プログラミングコードに関する質問や回答を投稿するプログラマーのためのQ&Aコミュニティサイト。求人情報も検索できる。
プロフィール
ドナ・ドルフ氏(Donna Dolfe)
北米の有名百貨店Searsの経営母体であるSears Holdings Corporationに約11年勤務し、Sr. Manager Executive Talent Acquisition、Director Executive Talent Acquisitionを歴任した。その後Lowe’sに入社、Sr. Director Talent Acquisitionに就任した。