注目のAI新興企業「Sana Labs」 ─ AIで個別最適な学びやナレッジの共有を自動化 ─

2023年11月16日

多様な働き方が進む中で、オフィスや自宅、サードプレイスで働く従業員の学びや知識・ノウハウの共有をいかに促進し、自社の生産性や競争力を高めるかが企業の課題となっている。企業はこれを解決するために、学習やナレッジマネジメントのシステムを導入している。その中から、1つのシステムで従業員が効率的に学習やナレッジの収集・共有を行えるプラットフォームを提供する「Sana Labs」について紹介する。

「Sana」の注目ポイント

Sana Labsとは

  • 2016年設立、本社所在地はスウェーデン
  • 学習・ナレッジプラットフォーム「Sana」を提供する
  • 「AIで人間の知能を拡張する」というミッションを掲げる
  • 2021年のARR(年間経常収益)が前年同期比で7倍に増加
  • 2023年5月に米有力ベンチャーキャピタル(VC)のNew Enterprise Associatesなどから2800万ドル(約42億円)を資金調達し、累計調達額は6200万ドル(約93億円)に達した
  • 共同創設者のジョエル・ヘラーマーク氏は、13 歳で独学でコーディングを学び、16 歳でビデオレコメンデーションテクノロジーを開発する会社を設立後、19歳でSana Labsを設立した。2021年に、Forbes誌が選ぶ「欧州発の世界を変える30歳未満30人」(Forbes 30 Under 30 Europe 2021)に選ばれた

Sanaの製品概要

Sanaは、教材や学習状況の管理を行うLMS(学習管理システム)、ナレッジマネジメントシステム、エンタープライズサーチ(企業内検索エンジン)の機能を1つにまとめたプラットフォームで、以下の機能を備える。

  • AIで学習コンテンツを自動制作できる
  • AIで従業員の理解度に合わせた学びを提供できる
  • AIで社内に分散する情報を簡単に検索できる

テキスト生成AIのGPT-4や文字起こしAIのWhisper、画像生成AIのDALL-Eなどを搭載しているため、従業員は業務に必要なナレッジを効率的に入手することができる。
製薬大手のMerckやNovartis、家電メーカーのElectrolux Group、飲料・食品大手のPepsiCo、フィンテックのKlarna、ヘルステックのKry/Liviなど20カ国の企業200社、従業員30万人に利用されている。

AIで学習コンテンツを自動制作

Sanaコンテンツの制作画面〈コンテンツの制作画面〉複数人でコンテンツを同時編集したり、AIで自動制作したりできる
出所:Sana Labsウェブサイト(外部リンク)

Sanaでは、テンプレートを活用し、直観的な操作で画像や画像、クイズ、投票を取り入れたスライドを簡単に作成できる。オンボーディング(導入研修)、プロジェクトマネジメントなどさまざまな研修やワークショップ、勉強会に活用できる。
生成AI機能により、「機械学習についての講座を作成して」と指示すると、AIが画像とテキストを組み合わせた学習コンテンツのたたき台を自動生成する。また、多国籍な従業員向けに内容全体を瞬時に多言語に翻訳する。講座内で行うクイズについての壁打ちもできる。
L&D(人材開発)担当者だけでなく、現場の従業員も簡単にコンテンツを制作し、個人が蓄積した知識やノウハウを社内で広く共有し、知識や業務の属人化を防ぐことができる。

AIで従業員の理解度に合わせた学びを提供

Sanaは、従業員の理解度やエンゲージメントに合わせたeラーニングを提供する。

  • 従業員がオンデマンド配信の講座の前にアセスメントテストを受けると、AIが理解度や知識レベルに合わせて講座内容を自動編集する
  • ライブ配信の講座では、AIが投票やクイズの結果を基に内容の理解につまずいている、またはエンゲージメントが下がっている参加者を特定し、主催者に通知。全体のエンゲージメントが下がっている場合は「ブレイクアウトセッションの追加」などを提案する
  • 終了後は、講座内のクイズで不正解だった重要ポイントについて復習するテストをAIが即時に作成し、理解度を基に次のコンテンツをレコメンドする

Sanaeラーニングのトップ画面〈eラーニングのトップ画面〉会社やマネジャーから受講を指示された講座や、過去の受講履歴などを基にレコメンドされた学習コンテンツの一覧が表示される
出所:Sana Labsウェブサイト(外部リンク)

従業員が既に知っている内容をコンテンツからAIで自動で省くことで、より効率的な学びを可能とする。さらに、講座の進行スピードについていけず、従業員が内容を理解できないまま受講を終えてしまうといった課題を解決できる。

また、議事録や要約をリアルタイムに自動生成し、保存する生成AI機能により、従業員は受講後、「先週行われた講座の要点はなに?」と質問し、要約を検索できる。さらに疑問や不明点について質問するだけで、適切な回答を簡単に入手し理解を深めることができる。

社内のあらゆる情報を横断検索

Sanaエンタープライズサーチ〈エンタープライズサーチ〉生成AIに質問するだけで、社内のさまざまなデータを横断検索できる
出所:Sana Labsウェブサイト(外部リンク)

Sanaは、Microsoft Teams、Microsoft SharePoint、Slack、Google Drive、Notion、Salesforce、Asanaなど、社内で利用されているシステムと接続し、デジタル資料から会社の業績や売り上げ・営業データ、製品ロードマップ、顧客企業向けのシステム障害の現状、従業員ハンドブックなど、社内に分散するデータを自動で収集・整理する。生成AIに「直近の営業成約率は?」と質問すると、メール、チャット、文書、スライド、スプレッドシートなどから情報を検索できる。
企業に存在する膨大なデータから目的の情報を探し出すのは、時間と手間がかかる。Sanaを活用することでデータを横断検索できるため、業務の効率化や貴重な情報資源の活用につながる。

企業の活用例

Svea Solar
IKEAや乳製品メーカーのArlaなどを顧客に持つデンマーク大手再生可能エネルギー会社のSvea Solarは、太陽光パネル設置担当者の導入研修にSanaを利用している。従業員は、Sanaのeラーニングでパネルの設置方法や高所作業での安全対策、カスタマーサービスなどについて各々が必要な知識をインプットし、その後グループでの実地訓練でスキルアップを図っている。

Mount Sinai Health System
ニューヨーク市大手医療機関グループのMount Sinai Health Systemは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、ICU(集中治療室)や重症患者の治療にあたる看護師の人材不足を解消するため、Sana Labsと提携して個別学習プラットフォーム「Project Florence」を開設した。SanaのAIが各看護師のスキルギャップを測定し、人工呼吸器の取り扱いなど、治療に必要な技術や知識を習得する学習コンテンツを制作した。同プラットフォームはその後、70カ国以上の病院2000以上で導入され、治療や予防に携わる医療従事者8万人超のスキルアップに利用された。

必要なのは学びや知識の収集の日常化

LMSやナレッジマネジメントなどそれぞれに特化したシステムは複数あるが、Sanaのように学習コンテンツの制作・配信や、ナレッジの収集・共有などすべてを1つのシステムで行えるプラットフォームは少ない。Sanaは、同じシステムで必要な情報をまとめて入手できるため、従業員の利用率が高く、顧客企業では日常的に利用する従業員が多いという。
企業は、従業員全体のスキルや生産性を高めるためには、Sanaのようなテクノロジーを導入するなど、従業員の学びや知識の収集を日常化させる工夫やしかけを取り入れる必要がある。

TEXT=杉田真樹

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