QRコードで音声回答、2分で求人に簡単応募「Talk’n’Job」
ドイツ発の求人応募システム「Talk’n’Job」は、求職者がスマートフォンの音声メッセージで簡単に応募できるサービスを提供している。「人手不足で困っている」「応募者を増やしたい」といった課題を抱える企業が、ブルーカラーやZ世代、移民など幅広い層を採用できるように支援している。
Talk’n’Jobは、採用プロセスを効率化し、求職者にとって使いやすいソリューションを提供する点で高く評価されている。これまでに「2023 UNLEASH World Startup Award」や「British Recruitment Awards 2023」「Trendence Award Berlin 2022」など数々の賞を受賞している。
さらに、Gartnerの2023年調査報告書「Cool Vendors in Talent Acquisition for Driving Speed and Quality in Hiring」では、採用スピードや質の向上に役立つ優れたベンダーの1つとして選ばれた。
共同創設者兼CEOのマーカス・クランペ氏によると、音声メッセージによる求人応募システムを提供するサービス事業者はTalk’n’Job以外にないという。サービスのしくみや狙い、今後の海外展開の可能性について話を伺った。
アバターによる質問に音声メッセージで回答
Talk’n’Jobは、求職者がアバターの音声質問に対して、スマートフォンやPCから音声で回答できる求人応募システムである。
求職者が屋外の求人広告やSNS投稿に掲載されているQRコードを読み取ったり、URLをクリックしたりすると、Talk’n’Jobの応募ページが開き、音声入力で質問に答えることができる。
音声での回答内容は自動的にテキストに変換されるため入力の手間がなく、送信前に内容を編集することも可能である。また、最初からテキストで回答することもできる。
質問は約10問で、前職の勤務先名や職種、リーダー経験の有無、希望の雇用形態(フルタイム、パートタイム、ミニジョブ※)、勤務時間などの基本情報に加え、企業が募集職種ごとに質問をカスタマイズできる。これにより、求職者のスクリーニングを自動的に行うことができる。
たとえば、ドイツの大手スーパーEDEKAでは、見習い訓練生の募集に対して以下の質問を設定している。
(Q1)どの職種の訓練に興味がありますか?
・鮮度スペシャリスト
・販売員・小売店店員
・精肉コーナー販売員
(Q2)あなたの年齢を教えてください
(Q3)訓練のどのプログラムに興味がありますか?
(Q4)当社のどこに魅力を感じますか?
(Q5)訓練の初年度の月給が970~1070ユーロであることを知っていますか?
(Q6)どの学校の資格を取得または取得予定ですか?
(Q7)この仕事で成功するために必要なことは何だと思いますか?
(Q8)訓練後に挑戦したいことは何ですか?
クランペ氏によると、質問を工夫することで、履歴書ではわからない求職者の適性やソフトスキルを把握することができるという。「たとえば、医療職の採用では『患者の排泄介助ができるか』といった質問を追加することで、求職者の仕事に対する意欲を確認できます」(クランペ氏)。
具体的な仕事内容を明示することで、求職者自身が適性を判断し、ミスマッチを防ぐことができる。
求職者は回答終了後に、氏名と連絡先をテキストで入力する。応募にかかる時間は約2分である。クランペ氏によると、2分という所要時間は、応募途中の離脱を防ぎ、かつ仕事に興味のない人の応募を抑制したりするのにちょうどよい長さだという。
音声メッセージによる選考を通過した求職者には、後日、企業の採用担当者から面接の日程調整の連絡が届く。
企業はターゲット層に合わせて、アバターの性別、髪型、服装、肌の色などをカスタマイズすることができる。
転職潜在層の応募を喚起
履歴書の提出は不要
応募時に履歴書を提出する必要がないため、応募のハードルが低くなり、より多くの人材が応募しやすくなる。
利便性の重要性
クランペ氏によると、「転職を考えている人の約8割は、履歴書を準備していない転職潜在層である。この層の採用を促進するためには、利便性が重要である。そのため、Alexaのような音声を活用したツールを開発した」という。
バス停やガソリンスタンド給油機のQRコード広告で人材を募集
多様な広告媒体
企業は求人サイトやSNSに加え、バス停や駅の広告、ドリンクコースター、スポーツジム内のポスター、ガソリンスタンドの給油機、トラックの車体、ショップカード、レシート、ダイレクトメールなど、さまざまな媒体にQRコードを掲載できる。
オフラインでの採用経路を拡大
求人サイトは掲載企業が多く、求職者の興味を引くのが難しいが、オフラインの広告を活用することで幅広い応募者を集めることができる。また、日常生活で目に留まりやすい場所に広告を設置することで、企業の知名度向上にもつながる。
【QRコード広告】QRコードをさまざまな媒体に掲載し、応募者を募ることができる。
出所:Talk’n’Jobウェブサイト
音声データをテキストに自動的に変換、15カ国語に翻訳
Talk’n’Jobは、主要な応募者追跡システム(ATS)と連携している。求職者の音声回答を自動的にテキストに変換し、企業のATSに送信する。ATSを導入していない企業には、メールでテキストデータを送る。
また、15カ国語に対応しており、テキストの自動翻訳も行う。これにより、求職者は母国語で回答でき、言語の壁を感じることなく応募できる。クランペ氏は、「働く意欲があるのに求人に応募できない外国人労働者の採用を促進できる」と述べている。
欧米8カ国の企業180社超が利用
University Hospital Southampton(大学病院)、Sparkasse Mainfranken Würzburg(銀行)、B.Braun(医療機器メーカー)、Coca-Cola HBC Österreich(ボトリング)、Rhenus Logistics(物流)、REWE Group(スーパー)、IntercityHotel(ホテル)、Apetito(冷凍食品メーカー)、Würth(部品メーカー)、John Deere(農業機器メーカー)、Systemair(空調機メーカー)、ドイツ・ドライアイヒ市など、欧米8カ国の180超の企業や自治体が看護補助者、ドライバー、販売員、倉庫内作業スタッフ、客室清掃スタッフ、整備士、保育士などの採用に利用している。
University Hospital Southampton、コンバージョン率が74%に向上
英国のUniversity Hospital Southamptonでは、看護補助職の人手不足が深刻化しており、応募プロセスの見直しが必要であった。従来の求人サイトを利用して多数の応募が集まったものの、仕事に興味のない応募者も多く含まれていた。
そこで、Talk’n’Jobを導入し、求人広告やSNS経由での応募者をスクリーニングした。また、「看護職=女性」というイメージを払拭するために、男性のアバターを使用して男性の応募を促した。その結果、応募者のコンバージョン率が74%に達し、採用コストを220ポンドから31ポンドに削減することができた。
REWE Group、導入後2年間で1000人を採用
ドイツの大手スーパーREWE Groupは、2019年に店舗スタッフの採用にTalk’n’Jobを導入した。導入から約2年間で、6万8000件以上の応募があり、そのうち1000人以上を採用した。さらに、英語、ルーマニア語、ポーランド語など、ドイツ語以外の言語での応募も約2000件あったという。
日本などアジアでの音声による求人応募サービスの可能性
クランペ氏は、今後の海外展開について「シンガポールなどは当社のサービスと非常に親和性が高い」と述べている。特に東南アジアでは、メッセージアプリのボイスメッセージ機能が日本よりも多く利用されており、Talk’n’Jobが東南アジア市場で事業を展開する可能性は高いと考えられる。
日本では、テキストメッセージが主流とされている。数年前の調査では、音声入力や音声検索機能の利用率は低く、多くの人が人前でスマホに向かって話しかけることに抵抗を感じていた。
しかし、最近では30代以下の世代でLINEの音声入力やボイスメッセージ機能が多く使われるようになり、抵抗感を持つ人は減ってきているようである。
日本でも、人手不足解消策の1つとして、若者やシニア層、さらには日本語の会話力は高いが読み書きが苦手な外国人労働者の採用に、Talk’n’Jobのような音声による求人応募システムを活用できるのではないだろうか。
(※)パートタイム労働の一種で、月収に上限が設けられている。2024年1月以降の上限は538ユーロ(約9万円)である
TEXT=杉田真樹