AIやVRでノンデスクワーカーの業務効率化や人材育成を支援するサービス2選
米国ビジネス誌Fast Companyは毎年、「最も革命的な企業(The World’s Most Innovative Companies)」ランキングを発表している。このランキングは、業界だけでなく社会全体に大きな影響を与えた企業を対象とし、同誌の調査と企業の自薦を基に選出されている。
2024年は606社がランクインした。総合ランキングの上位3社はNVIDIA(半導体)、Novo Nordisk(製薬)、Microsoft(ソフトウエア)であった。また、デザイン、応用AI、サステナビリティ、ロボット工学、医療機器、データサイエンス、ゲーム、エネルギー、HR、教育など58のカテゴリー別ランキングも発表されている。
「HR」と「教育」部門のなかから、導入実績が多いノンデスクワーカー(小売・飲食、製造、建設、物流、医療、警備など現場で働く労働者)向けプラットフォームである「YOOBIC」と「Transfr」の2つのサービスを紹介する。
Emergence Capitalの調査によると、世界の労働力人口の約80%にあたる27億人がノンデスクワーカーとして働いている。
YOOBIC:店舗で働く従業員の生産性やエンゲージメントを高めるAIプラットフォーム
YOOBICは、店舗で働く従業員の業務をデジタル化するAIプラットフォームである。本部と店舗従業員のコミュニケーション、教育研修、店舗運営の管理を効率化する。
社内コミュニケーションの促進
YOOBICのアプリにはSNS機能があり、CEOのメッセージビデオ、安全衛生管理マニュアルの更新、新型コロナ感染時の病欠休暇制度の利用法などを動画や画像形式で店舗で働く従業員に配信できる。また、会社の方針や取り組みに対する従業員の意見・要望を収集する投票やアンケート機能も備えている。
従業員同士は、チャットやビデオ通話で業務に関する問い合わせや情報交換を行えるため、業務を円滑に進めることができる。
人事は、AIを活用したセンチメント分析機能を使い、SNSへのコメントや反応、投稿内容などを基に従業員の感情をリアルタイムで把握し、課題改善に向けたアクションを実行できる。
ノンデスクワーカーは通常、会社支給のPCやメールアドレスを持っていないため、エンゲージメントの測定が難しく、最新情報の共有が遅れがちである。YOOBICのアプリを活用することで、情報共有を迅速に行い、エンゲージメントを高めることができる。
豊富な学習コンテンツ
従業員は、アプリのマイクロラーニング機能を使って、飲食店の開店準備や料理の盛り付け方法など、さまざまな学習コンテンツを通じて知識やスキルを向上させることができる。
自動翻訳機能も備わっているため、多国籍の従業員も利用可能である。また、現場でミスをした場合には、関連する学習コンテンツが自動的に従業員へ配信され、受講できる。
会社の教育研修担当者は、生成AI機能「NEO」を使って研修コンテンツを簡単に作成でき、作成時間を最大75%短縮できる。
アプリで店舗管理を効率化
従業員がアプリで陳列棚の写真を撮影すると、AIが画像を認識して、在庫状況を自動的に把握する。これにより、従業員が数十分以上かけていた在庫管理の作業を1~2分で完了でき、人的ミスを減らすことができる。
また、従業員はアプリで開店前の作業チェックリストを確認したり、店舗の設備や什器の故障を写真で報告したりできる。顧客からの質問に対しては、チャットボットを使って必要な情報をすぐに入手し、迅速に対応できるため、顧客満足度の向上につながる。
有名アパレルブランドなど350社が利用
Moschino、H&M Indonesia、KENZO、Lancôme、Lacoste、Puma、Vans、Krispy Kreme、Boots、David Jonesなど、世界87カ国でアパレル、百貨店、ドラッグストアなどの店舗を運営する企業が利用しており、利用者数は200万人に上る。
ほかにも企業とノンデスクワーカーのコミュニケーションを促進するHRテクノロジーはあるが、YOOBICは社内コミュニケーションの活性化だけでなく、店舗の運営管理などの機能をオールインワンで提供している。
Transfr:短期間で実践的なスキルを習得できるVR訓練プラットフォーム
Transfrは、製造、建設、電気工事、ホスピタリティ、医療などの分野でVR(仮想現実)を使った訓練を提供するプラットフォームである。具体的には、自動車整備、太陽光パネルの設置、小型飛行機の操縦、建設現場での安全対策、患者の痛みの強さを的確に把握する疼痛管理など、330種類以上のシミュレーションプログラムがある。
従業員はVRゴーグルとコントローラーを使って、実際の業務や体験を再現した仮想空間で実際に手を動かしながら機器の使い方を学ぶ。「バーチャルコーチ」から作業手順を1つずつ教わったり、手順を間違えた際に助言を受けることができる。また、手順を正しく終えるとポイントが与えられ、ゲーム感覚で楽しく訓練を進められる。
VR訓練のメリット
通常のeラーニングでは、映像を「見る」ことで作業手順を覚えるが、実際にできるようになるには実践的な訓練が必要である。VR技術を活用したシミュレーション訓練では、手順を覚えるだけでなく、コントローラーを使って実際に手を動かしながら、作業を「行う」ことで技術を早く習得できる。
仮想空間という安全な環境で訓練を行うため、ミスをしても怪我をすることがなく、高価な機器を壊したり、コストのかかる資材や消耗品を使用することもない。また、VR上で顧客応対などを実際に行っている感覚があるため、没入感が高く、従来の学習方法と比べて、学習者の集中度や学習の定着率が向上する。
さらに従業員が一人で実習を行うことができるため、教育担当者がOJTに費やす時間を減らし、業務を円滑に進めることが可能である。
全米1000カ所以上で導入
Transfrは、Mazda Toyota Manufacturing、TRIO Electric、サバンナ芸術工科大学、テキサス州労働力開発委員会など、全米1000カ所以上で導入されている。たとえばMazda Toyota Manufacturingでは、最新の塗装ロボットのメンテナンスを行う作業員「ロボットドクター」の訓練に、TransfrのVRシミュレーションを活用し、ロボット導入前に短期間で30人を訓練した。
2022年にはユーザー数が前年の10倍に増え、40万件以上のシミュレーション訓練が行われた。Transfrは、企業研修だけでなく、高校生のキャリア教育、コミュニティカレッジや刑務所の職業訓練など、幅広い場面で活用されている。
ノンデスクワーカーを対象とするHRテクノロジーが増加
これまでHRテクノロジーは主にオフィスワーカーを対象としていたが、2022年以降はノンデスクワーカーのニーズに対応するサービスが増えている。
コロナ禍からノンデスクワーカーの人手不足が深刻化しており、従業員の業務負担やエンゲージメントは悪化している。企業はYOOBICのようなデジタルツールを活用することで、最前線で顧客対応を行う従業員の働きやすさやエンゲージメントを高め、カスタマーサービスの品質や売り上げの向上につなげることができる。
またTransfrのようなVRツールの活用によって、ノンデスクワークに対する求職者の興味を喚起し、人材育成を加速させることで、人手不足の緩和に寄与できる。
TEXT=杉田真樹