初期選考を自動化し、応募者を絞り込むAI面接サービス2選
米国では、人手不足や従業員の離職、インフレなどの影響で、多くの企業が採用チームを縮小せざるを得ない状況にある。少ない人員で多くの業務をこなす必要があるため、効率化が求められている。
さらに、AIツールの普及により、求職者はジョブディスクリプションに合わせた職務経歴書を簡単に作成したり、大量の求人に一斉応募できるようになった。そのため、書類でのスクリーニングが難しくなっている。
こうした背景から、2023年頃に応募者の初期選考を自動化するAI面接サービスが登場した。今回は、LinkedIn経由の応募者の絞り込み機能を備える「micro1」と、AIエージェント機能を備える「Apriora」の2つのサービスを紹介する。micro1については、創設者兼CEOのアリ・アンサリ氏に取材をした。
これらのサービスに搭載されているAIは、下記のタスクを自動で行う。
- LinkedIn経由の応募者の絞り込み:応募者の中から上位25%に面接対象を絞り込む。
- 質問の生成:採用担当者が設定した面接内容に基づき、リアルタイムで質問を作成する。
- 面接およびコーディングテストの実施:音声で応募者に質問し、面接やコーディングテストを実施する。
- 評価レポートの作成:各スキルの評価結果とその根拠をまとめたレポートを生成する。
- 不正行為の検知:録画データを基に、面接やコーディングテスト中の生成AIの不正利用といった不審な動きを検出する。
- AIエージェント:人間の指示がなくても、AIが自ら必要な業務を考えて、提案する。
【micro1とAprioraのサービス機能比較】
面接内容の分析や評価はAIが行い、そのフィードバックやコーディングテストの結果を基に人が面接の通過者を決定する。
AI面接の活用でより多くのデータに基づいた総合的な評価が可能となる。また人による不適切な発言や質問・評価のばらつき、無意識の偏見を減らすことができる。
micro1:書類選考から一次面接までAIが行う
micro1は、AIを活用した採用プラットフォームで、AI面接サービス「AI Interviewer」を2023年5月にリリースした。
同サービスは、主にカスタマーサービスやマーケティング、看護師などの面接を行うが、UIエンジニアやフルスタックエンジニアなど技術職の面接にも対応している。
主に応募者の一次面接に利用されているが、二次面接やカルチャーマッチ面接まで実施できる。
LinkedIn経由の応募者の上位25%に面接対象を絞り込み
企業は、micro1のジョブディスクリプション生成AI機能を活用して、AI面接のリンクを添付した求人広告をLinkedInに掲載することができる。LinkedInの場合、求人1件当たり500件以上の応募が寄せられることもあるため、micro1は応募者の中からジョブディスクリプションの要件を満たす上位25%を抽出するサービスも提供している。
採用担当者が質問内容や評価指標を設定
採用担当者は、はじめに面接の内容を設定する。求人ポジションに合わせて、面接の種類(スタンダード面接、コーディングテストのみ、スタンダード面接とコーディングテストを含むフル面接、カスタマイズ面接)を選ぶ。
次に、AIが質問する評価項目(ハードおよびソフトスキル)、難易度(初級、中級、上級)を設定する。さらに面接形式(音声またはテキスト入力)と、英語やフランス語、ヒンディー語など8カ国語の中から面接で使用する言語を選ぶ。
応募者にアピールしたいスキルとレベルを選択してもらい、そのスキルをAIが評価することもできる。
最後に応募者の氏名とメールアドレスを入力し、AI面接を受けるURLを応募者に送信する。
AIが質問を深掘り
面接の開始時に、「これからAIによる10分の面接を行います」と応募者への事前告知がPC画面に表示される。面接時間は、スタンダード面接の場合は15~20分、フル面接の場合は30分前後である。
AIは応募者の回答内容に応じて、採用担当者が設定したスキルに関する質問をランダムに生成する。回答を受けて感想を述べたり、具体例を求めたり、掘り下げた質問も行うことができる。
評価レポートを生成
面接後、AIが回答内容を分析し、ハードスキルについては3段階(初級、中級、上級)、ソフトスキルについても3段階(平均的である、優れている、非常に優れている)で評価する。そして評価結果とその根拠、面接の録画、回答の書き起こしを含む評価レポートを生成する。
アンサリ氏によると、micro1は複数のAIモデルを搭載しており、これまでプラットフォーム上で行われた面接での応募者とのやり取りなど独自のデータと、インターネットから収集したデータを学習させ、質問や分析・評価の精度を高めているという。
不正行為を検知し、信頼性スコアを算出
AIが録画データを基に、ブラウザのタブの切り替えや目線の動き、背景のノイズなどを監視し、不正行為を検知する。その結果を基に「信頼性スコア」を分析し、評価レポートに記載する。
100社超の企業が利用
micro1はDeel、LegalSoft、Megaphone、DocDraftなど100社以上の企業や人材サービス会社に利用されている。
たとえば、EOR(海外在住者の雇用代行)サービスを提供するDeelは大量の応募者への対応に追われていた。面接対象者を絞り込むため、応募者に事前課題を与えていたが、応募者の約9割が課題の作成に生成AIを利用していた。しかし、micro1を導入したことで、人による面接の合格率が10%から50%に上昇した。初月にはカスタマーサポート担当者30人とエンジニア2人を採用し、採用コストを80%以上削減できた。応募者の多くは事前課題よりもAI面接を好む傾向があり、NPS(ネットプロモータースコア)は80を超えるトップレベルとなった。
Apriora:AIエージェントによる面接支援サービス
Aprioraは、AIエージェント「Alex」が応募者に対話形式で質問を行い、回答を分析・評価するAI面接サービスである。電話面接とウェブ面接の両方に対応し、ウェブ面接ではコーディングテストも実施することができる。
Aprioraは、Facebookの元AI研究者が設立し、2024年HRテックカンファレンスの「ピッチコンテスト」で最終審査に残った。
2024年3月に「Alex」をリリースし、ITエンジニア、ファイナンス、飲食店スタッフなどの職種の採用に利用されている。
AIエージェントが次に行う業務を提案
Alexは、たとえば、電話面接で応募者が応答しない場合、「今日2回電話をかけましたが、応答がありませんでした。メールでリマインダーを送信し、明日再度電話面接を設定しましょうか?」と提案する。採用担当者が「お願いします」と返答すると、Alexがメールを送信する。
日程を調整し、面接を実施
採用担当者が、応募者のメールアドレスをまとめたCSVファイルを読み込ませ、「面接をしてください」と指示すると、Alexが「わかりました。今からメールを送ります」と応答してメールを送信し、応募者に候補日時を選択させ、面接を行う。
面接の内容を分析し、候補者を提案
面接の実施後、Alexは「〇〇さんはすべての要件を満たしており、豊富な経験を持っています。どう思いますか?」と採用担当者に問いかけ、面接内容の要約、書き起こし、録画ファイルを提示する。採用担当者が「いいですね。候補者リストに追加して」と指示すると、Alexがリストを更新する。
主な取引先
顧客はAkraya、Pumex、Allen Recruitment Consulting、University of Albertaなどの企業や大学、人材紹介会社。
顧客企業の多くは、採用担当者の時間やリソースが限られているため、以前は応募者全員の書類に目を通すことが難しかったが、Aprioraの導入によって選考機会が増え、高い学歴や豊富な経歴がない人材にも門戸を広げることができたという。
AI面接はニューノーマルになるのか?
米国では最近、AIが営業職のロールプレイ面接を行うサービスなどもリリースされている。
日本でもAI面接サービスを提供する企業がいくつかあり、大手日系企業が新卒採用や中途採用、昇格に活用している。
米国のサービスは主にスキル評価に重点を置いているが、日本のサービスは応募者の資質やポテンシャルの評価に力を入れている。たとえばタレントアンドアセスメントが提供する対話型AI面接サービスSHaiNは、過去の経験に関する「状況」「課題」「行動」「結果」を質問し、資質を客観的に評価する。このサービスは累計で600社以上が導入している。
中国でもAI面接の利用が広がっており、AI面接対策の模擬練習を学生に提供する大学もある。
求職者はAI面接についてどう感じているのだろうか。米国では「態度が横柄な面接官よりも、AIのほうが良い」「AIは相手を判断しないので緊張しない」と好意的に捉える人もいれば、「人間味が欠けている」「面接に時間を割かない企業の面接は受けたくない」と抵抗感を示す人もいる。「不気味だ」と顔の見えない相手とのやり取りに不安やストレスを感じる人もいる。
AI面接に対する反応は、年齢層や世代、職種、人とのコミュニケーションの好みによっても異なるだろう。
micro1やAprioraによる製品デモやデモ動画を観ると、AIは予想以上に自然な双方向の会話ができており、特に違和感は持たなかった。ただ、応募先の企業でどのような人が働いているのかを目で見て知ることができないため、AI面接の実施だけでは応募者の志望意欲が下がる可能性を感じた。
企業が応募者の離脱を防ぐには、AI面接後のフォローアップを重視する必要がある。
米国では、2023年にニューヨーク市が採用の判断における「自動雇用決定ツール」の企業の利用を規制する法律「Local Law 144」を施行した。2024年5月にはコロラド州が、アルゴリズムによる差別から消費者を保護する「コロラド州AI法」を制定し、AIシステムの開発と利用の両方を規制する包括的な法律を制定した米国初の州となった(※)。この法律は、雇用や教育、医療、金融サービスなどの提供および拒否に「結果的な意思決定を行う、または重大な影響を与える」高リスクAIシステムを対象としている。利用企業は、システム利用の事前通知、リスク管理対策の整備、影響評価の実施などが義務付けられ、これに違反した場合は最高2万ドルの罰金が科せられる。
このような規制強化は今後進むと考えられ、AIを活用しながら重要な意思決定は人間が行うハイブリッドモデルがさらに広がるだろう。
(※)Ogletree Deakins https://ogletree.com/insights-resources/blog-posts/colorados-artificial-intelligence-act-what-employers-need-to-know/
TEXT=杉田真樹