欧州でデジタルノマドの採用や海外転勤に関わる労務を自動化するプラットフォームの利用が広がる、ほか

2022年11月02日

海外HR Techニュースリリースまとめ(2022年10月)

Staffing Industry Analysts(SIA)の調査によると、BtoBタレントプラットフォームの取扱高上位3社は、Upwork、Fiverr、MBO Partnersであった。
中国最大級の求人マッチングアプリ「BOSS直聘(BOSS Zhipin)」を運営するKanzhunが、香港株式市場への重複上場を申請した。
LinkedInに有料で掲載された求人で、7~9月に急増した職種のトップ3は、飲食店スタッフ(接客・調理)、検眼士、品出し係であった。

【注目トピック】
デジタルノマドの採用や従業員の海外転勤に関わる労務を自動化するSaaS型移住管理プラットフォームの利用が拡大

近年になって、デジタル機器を活用し、国内外を旅しながらリモートで働く「デジタルノマド」の増加への対応策として、ドイツ、ノルウェー、ポルトガル、タイ、マレーシアなど約40カ国が、リモートワークをする外国人に対し、半年から2年の一時的居住を認め、自国で働く機会や優遇税制を与える「デジタルノマドビザ」を発行している。国外に住むデジタルノマドの採用や、海外で働きたい従業員の転勤に伴う煩雑な労務を自動化するSaaS型移住管理プラットフォームの企業による利用が増加している。

エストニア発のJobbaticalは、N26、TravelPerk、Personio、Helloticketsなど、国外の人材を積極的に採用するテック企業に利用されている。人事は、ビザの申請手続き、履歴書やパスポートの写しといった、海外移住に必要な業務の進捗や書類の確認をシステム上で行える。Jobbaticalは、欧米や南米21カ国への海外移住に対応し、移住先での住居の検索、銀行口座の開設、税務申告などをサポートするサービスも提供する。2022年9月までの1年間で、同社の年間経常収益(ARR)は8倍になった。

ドイツのLocalyzeは、大使館での面接予約、ビザの発行や受け取り、航空券の予約など、各社員や新規採用者の手続きの状況をまとめて把握できるプラットフォームである。専任のケースマネジャーが、質問やトラブルに対応する。Personio、Wayfair、Thoughtworks、Free Now、Babbel、DeepLなど、400社以上が利用している。今後、米国でも事業を開始し、2023年にはアジアにも対象を拡大する予定である。

【IPO】
Kanzhun、香港に重複上場へ

中国最大級の求人マッチングアプリ「BOSS直聘(BOSS Zhipin)」の運営会社であるKanzhun(看准)は、香港証券取引所にデュアルプライマリー上場の申請を行った。同社は、2021年6月に米国のナスダック市場に上場している。米国に上場している外国企業は、3年連続で米国当局による監査状況の検査を受けなかった場合、上場廃止させられることから、香港に上場する中国企業が増えている。
Kanzhunの2022年第2四半期(6月30日締め)の売上高は、前年同期比4.8%減の11億1000万元(約22億7500万円)となった。中国では、一部の都市で新型コロナウイルス感染者数の増加が見られるため、第3四半期は前年同期比で最大5.9%減収する見込みである。(10月11日 Morningstar)
https://www.morningstar.com/news/dow-jones/202210112984/online-recruitment-company-kanzhun-files-for-dual-primary-listing-in-hong-kong

【新機能・新サービス】
Indeed Flex、米国に進出

数時間単位で働ける求人検索アプリを提供する英国のデジタルスタッフィングプラットフォームのIndeed Flex(旧Syft)は、サービス対象地域にカリフォルニア州の3地域(ロサンゼルス郡、オレンジ郡、サンバーナーディーノ郡)を追加した。Indeed Flexは、そのほかの地域への拡大も計画している。Indeed Flexは、サービス、小売、事務、軽工業、施設管理などの求人を掲載し、6000社超の企業と5万人以上の求職者に利用されている。(9月14日 HR Tech Feed)
https://hrtechfeed.com/indeed-flex-expands-into-california/

Modern Hire、「Graduate Virtual Job Tryout」の提供を開始

ビデオ面接およびアセスメントプラットフォームのModern Hireは、新卒者を対象としたシミュレーションアセスメントツール「Graduate Virtual Job Tryout(VJT)」を発表した。新卒採用の際に候補者の経歴や経験が類似しているという企業の懸念に対応した。企業は、実務に即したシミュレーションテストで、入社後に活躍する可能性が高い人材を客観的に見極めることができる。また、候補者は会社や職務への適性をより深く知ることができる。(10月4日 PR Newswire)
https://www.prnewswire.com/news-releases/modern-hire-launches-science-based-assessment-tool-for-graduates-301639993.html

【M&A】
The Muse、Fairygodbossを買収

Z世代とミレニアル世代向けの求人検索プラットフォームのThe Museは、求人情報、キャリアに関するアドバイス、ピアサポートを得られる女性向けのキャリアコミュニティサイトのFairygodbossを買収した。Fairygodbossは、DEI(多様性・公平性・包括性)の向上に取り組む大手企業数百社の採用をサポートしており、年間利用者数は1000万人超。この買収により、The Museは、若者がキャリア上の優先順位を見直し、自らの価値観に合う企業へ就職することを支援する。The Museは、ネットワーキング機能、会社情報やイベントの検索機能を備え、年間7500万人が利用する。(10月12日 PR Newswire)
https://www.prnewswire.com/news-releases/the-muse-acquires-fairygodboss-the-largest-online-career-community-for-women-301646577.html

Calendly、Preludeを買収

自動日程調整プラットフォームのCalendlyは、面接スケジューリングプラットフォームのPreludeを買収した。Preludeは、電話でのスクリーニング面接、ハイアリングマネジャー(入社後配属となる部門の責任者)との面接、パネル面接などに対応した機能を持つ。Cloudflare、Duolingo、Glassdoorなど100社以上の企業が利用している。Calendlyは、面接や、社内会議、取引先との商談などさまざまな用途において、116カ国で1000万人以上が利用している。この買収により、中小から大手まで幅広い企業に、自動日程調整ツールを提供する狙いである。(9月27日 Business Wire)
https://www.businesswire.com/news/home/20220926005825/en/Calendly-Acquires-Prelude-to-Modernize-the-Recruitment-Scheduling-Experience

【マーケット】
BtoBタレントプラットフォーム、2021年の世界の総取扱高は138億ドル、首位はUpwork

SIAの調査報告書「The Talent Platform Landscape」によると、 企業とフリーランサーが直接仕事を受発注できるBtoBタレントプラットフォームの世界の総取扱高は、2021年に138億ドルに達した。米国のみでは62億ドルとなる。BtoBタレントプラットフォームの上位10社は、下記のとおりである。

(取扱高単位:100万ドル)

順位 企業名 取扱高 市場
シェア
本社所在地 主な
勤務先
対象職種
1位 Upwork 3,547 26% 米国 リモート 多職種
2位 Fiverr 1,057 8% イスラエル リモート 多職種
3位 MBO Partners 1,000 7% 米国 さまざま IT、マーケティング、
クリエイティブ、
ファイナンス
4位 Gerson Lehrman Group 650 5% 米国 リモート 各領域のコンサルタントのネットワーク
5位 Freelance.com 594 4% フランス リモート 事業コンサルタント、IT
6位 Toptalv 425 3% 米国 リモート デザイン、IT、
ファイナンス
7位 Envato Studio 300 2% オーストラリア リモート マーケティング、
クリエイティブ
8位 AlphaSights 290 2% 英国 リモート 各領域のコンサルタントのネットワーク
9位 Field Nation 270 2% 米国 オンサイト フィールドエンジニア
9位 Malt 270 2% フランス さまざま IT、マーケティング、
クリエイティブ

(10月10日 SIA)
https://www2.staffingindustry.com/Editorial/Daily-News/B2B-talent-platforms-reach-13.8-billion-in-gross-spend-volume-Upwork-Fiverr-top-list-of-largest-63252

【調査】
LinkedIn、需要が高い職種トップ10を発表

2022年第3四半期(7~9月)にLinkedInに掲載された有料求人件数が、前年同期比で最も急速に増えた職種は飲食店スタッフだった。現場で働く仕事やエントリーレベルの仕事が上位を占めた。求人件数が急増した職種トップ10は下記のとおりである。

順位 職種 前年同期比
1位  飲食店スタッフ 3.2倍
2位  検眼士 2.8倍
2位  品出し係 2.8倍
4位  税理士 2.2倍
4位  セールススーパーバイザー 2.2倍
4位  セールスアシスタント 2.2倍
7位  ドライバー 2.0倍
8位  小売店販売員 1.9倍
8位  プロジェクトアソシエイト 1.9倍
10位  荷受け 1.8倍


(10月13日 LinkedIn Talent Blog)

https://www.linkedin.com/business/talent/blog/talent-strategy/most-in-demand-jobs

【資金調達】

The Museが、MBM Capitalなどから800万ドルを資金調達。資金はプラットフォームの機能強化などに充てる。Z世代とミレニアル世代向けの求人検索プラットフォームのThe Museは、年間7500万人のZ世代やミレニアル世代の求職者によって利用されている。

https://www.prnewswire.com/news-releases/the-muse-announces-8-million-investment-led-by-mbm-capital-for-future-of-work-consolidation-play-301628964.html

Workstreamが、GGV CapitalやFounders Fundなどから6000万ドルを資金調達。デスクレスワーカーの採用プラットフォームのWorkstreamは、ショートメール(SMS)による求人への応募や面接日時調整、入社手続きの自動化などの機能を備える。Burger King、Dairy Queen、Jimmy John’sなど、大手のファストフード170社以上が利用している。最近は、Marriott International、Holiday Inn、UPSなど、小売、サービス、ヘルスケア、倉庫、自動車といった企業の採用もサポートしている。

https://www.workstream.us/blog/60m-to-serve-deskless-economy

TaTiOが、Mensch Capital Partnersなどから530万ドルを資金調達。リアルな実務経験シミュレーションを提供するTaTiOは、AIで候補者の行動、サービス志向、声のトーンなどを解析して、仕事への適性予測スコアを算出し、面接に適した候補者をリスト化するプラットフォームである。企業は、学歴や職歴、資格といった情報ではなく、スキルをもとに候補者を評価できる。ハーバード・ビジネス・スクールの調査によると、米国には、企業の求める学歴や資格などの要件を満たさず、雇用市場で見落とされている「隠れた人材」が2700万人以上存在するという。

https://www.prnewswire.com/il/news-releases/tatio-raises-5-3m-to-help-understaffed-companies-access-americas-untapped-workforce-with-ai-301648285.html 

TEXT=杉田真樹

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