Roche テラ・ドイル氏(ピープル&カルチャー部門南北アメリカ採用プラクティスリード)

世界で一貫した採用プロセスを整備する大規模なトランスフォーメーションを推進

2021年10月12日

F. Hoffmann-La Roche(以下、Roche)では、パンデミック以降、環境の変化に対応するため、最適な人材配置や所属拠点など、ピープル&カルチャー(人事)部門ではクリエイティブな発想が必要なことが多かったという。南北アメリカの採用を統括するプラクティスリードのテラ・ドイル氏に、パンデミックが採用活動にもたらした影響や、テクノロジーの活用、入社前フォローなど同社の取り組みについて伺った。なお、インタビューを実施した3月以降、採用環境に変化が見られたため、文末に最近の状況を付け加えた。

インタビュアー=ジェリー・クリスピン TEXT=杉田真樹

【Roche】スイスに本拠を置く1896年創業のバイオテックカンパニー。医薬品事業と診断薬・医療機器事業の2つをビジネスの主軸とする。世界150カ国以上に拠点を持ち、従業員数は10万1200人(2020年時点)。2020年の連結売上高は583億スイスフラン。フォーチュン・グローバル500で147位。

――2020年の採用人数を教えてください。

南北アメリカ地域の2020年の採用人数は約6000~6500人と、前年よりも増加しました。Rocheの診断薬事業部門は、新型コロナウイルスの検査のニーズが世界中で増加したため、人員を増やす必要がありました。
また、従業員においては高い定着率を維持しています。Rocheには、会社の一員でいたい、会社で働き続けたいと思わせるような企業文化があります。パンデミックにおける会社の従業員への対応は、満足度の高いものでした。

トランスフォーメーションの推進で業務プロセスを標準化

――パンデミック以降、採用プロセスを変更したものはありますか。

現在、世界全体の業務プロセスの一貫性を高めるため、大規模なトランスフォーメーションを進めているところです。採用活動のオンライン化にあたってプロセスの調整が必要だったため、パンデミックは見直しに取り組む絶好のタイミングでした。グローバルカンパニーであるRocheでは、多くの人材が世界規模で移動しています。候補者とグローバル採用マネジャーの双方にどうすれば共通の体験を提供できるかという議論を、世界中の拠点で促進しています。
また、フリーランサーといった外部人材が多数働いていますが、地域によって使用する用語やMSP(外部人材管理サービス)、労働力の管理方法が異なることがわかりました。現在、地域間のばらつきをなくすため、ワークストリームの整備を行っています。

――リモート採用を行っていますか。

Rocheでは、対面でのコミュニケーションを大切にしているのですが、パンデミック以降はほぼすべての国でリモート採用に切り替えました。その際に、候補者にとって快適な環境を整える必要がありました。地域間移動のリアルな姿を見せて、意思決定を促すことや、ビデオ面接などのテクノロジーを賢く活用し、採用のスピードを上げることに努めました。また、候補者の子どもが自宅にいる場合は、就業時間外に面接を設定するなど配慮しました。
リモート採用の導入当初は不安もありましたが、結果として効率が上がりましたので、成功したと思います。パンデミック後もリモート採用を継続することで、世界中を回る必要がなくなり、コスト削減も期待できます。候補者や採用部署のリーダーの体験向上にもつながります。

――完全リモートによる採用にデメリットはあると思いますか。

リモートのみの採用でも、デメリットはないと思います。採用ミスが起きる可能性は常にあります。対面で面接を行い、最高の人材だと思った人物でも、入社後にどうなるかは誰にもわかりません。リクルーターと個人の1対1の対面コミュニケーションは満足のいくレベルになっています。ただ、対面のやり取りはある程度あったほうがよいと思いますし、今後なくなることはないでしょう。

――新規採用者の定着を促進するために、どのようなサポートを行っていますか。

オンボーディングもZoomミーティングのみのリモートで行っているため、新規採用者とつながる機会を増やしました。内定から入社日までの間に新規採用者と頻繁に連絡を取り、初期段階からメンターをつけています。また、これまでは会社のロゴが入った記念品やノベルティグッズを支給していたのですが、今は配送せずに新規採用者が選んだ慈善団体に会社が寄付を行う制度を設けるといった、従業員とのつながりを築く機会を取り入れており、この取り組みは好評です。
導入研修は、対面式とオンライン式の両方で行っています。リファレンスラボなどで機器を扱う一部の職種については、安全な環境で研修を受けることができるラーニングセンターで、現在も対面式での研修を行っています。

発想の転換でリモート採用を成功させる

――新卒採用への影響はありましたか。

米国では約500人のインターンを受け入れていますが、2020年はインターンシップをオンラインに切り替え、大きな成功を収めました。インターン同士の交流を深めるため、「Murder Mystery」というゲームをオンラインプログラムに組み込む企画をインターンに任せました。彼らは非常に面白いアイデアを提案しました。

秋の新卒採用もすべてオンラインで行いました。ツールはModern Hireを利用しましたが、これは候補者のスクリーニングに非常に役立ちました。以前は、特定の学部や学科を持つ大学や同州内の大学に重点を置いていましたが、対象を拡大してHBCU(歴史的黒人大学)やHIS(ヒスパニック系学生受け入れ大学)、NHSI(ネイティブハワイアン大学)といった大学との強いつながりを築くことができました。また、学生が社内のリーダーやリクルーターなどの従業員と1対1で交流し、会社について学ぶオンラインイベントを開催しました。

さらに、オンライン化によって、異なる事業会社が協業(団結)し、「Roche」として合同で採用活動を行うなど、これまではありえなかった取り組みを実現できました。これまでのやり方を変え、クリエイティブに考えることを求められましたが、その結果とくにダイバーシティ推進の取り組みにおいて、前年を大きく上回る成果を上げることができました。

――採用経路に変化は見られますか。

大きな変化はありませんが、ネットワーキンググループの活用が増加しています。たとえば、以前は協会のパートタイム会員だったのに積極的にグループに関与するようになるなど、人々は他者とつながることを強く求めるようになりました。求職者とリクルーターとの関わりに関しても変化が見られます。すぐに転職行動を起こすというわけではありませんが、リクルーターからの電話や働きかけに応じる人が増えているのはよい傾向だと思います。
ほかに、技術とソーシングコンサルタントの組み合わせで人材情報を発掘するソーシングサービスのvsourceを使い始めました。朝出社すると新しい候補者リストが届くので、とても便利なサービスです。

人材の調達の比率は、内部調達と外部調達がほぼ半々です。Rocheはグローバル企業ですので、唯一課題としているのは、ビザの発給といった法律上の問題です。課題解決には、候補者に国家間の移動をさせるのではなく、自国にいながら働ける方法はないか、HRがクリエイティブに考える必要があります。また、人材の最適配置に関してもクリエイティブな思考や多様性が求められています。社内からの人材調達のために、独自の社内ポータルサイトを開発し、2022年3月に開設します。

――どのような採用テクノロジーを利用していますか。

タレントマーケティングやブランディング、個別化された候補者体験の提供をサポートする動画面接テクノロジープラットフォームのModern Hireを新たに導入しました。これは当社にとっては最適な製品で、世界中での利用を検討しています。
また、Rocheが求めるコンピテンシーや能力、マインドを持つ人材を特定するために、アセスメントテクノロジーやアセスメントセンターを以前から利用しています。ZoomやGoogle Chatも使っています。

私の組織で主に取り組んでいるのは、世界各国のHRで一貫性のある業務プロセスを整備することです。その一環として、世界共通の標準CRM(採用候補者管理システム)としてPhenom Peopleの導入を進めており、今年半ばに運用を開始する予定です。Rocheにとってこれは大きなゲームチェンジャーとなるでしょう。

グローバルな人材移動の活発化へ

――採用の組織体制はどのように変わると予測しますか。

Rocheは、成長分野で事業展開しているので、今後はさらに研究開発において飛躍的な成長を続けるでしょう。そして、それを支える人材の採用全般が強化されるでしょう。Rocheは今後10年の展望として、利用者(患者)へのサービス提供において非常にアグレッシブな目標を掲げています。所属部署にかかわらず、全従業員が目標達成のために一丸となって取り組んでいます。会社の成長の原動力は人にあり、その人材を採用するのは私たちです。

今年、多くの企業はニューノーマルがどのようなものであろうと、パンデミック前のオペレーションに戻そうとしていますが、私たちは、リモート採用においても成功を収めました。オフィスへの出社が再開されても、現在の体制が継続されると確信しています。また、今後は国境を越えた人材の移動がより活発化することを期待しています。

ポイント
  • 利用するテクノロジーや労働者の管理方法など、世界全体で一貫した採用プロセスを整備する大規模なトランスフォーメーションに取り組んでいる
  • 動画面接テクノロジープラットフォームといったテクノロジーを活用し、ほぼすべての地域でリモート採用に切り替えた。入社日前にメンターをつけるなど、新規採用者のフォローを重視した
  • リモートでのインターンシップや新卒採用を成功させるため、新たなやり方を導入した。HBCU(歴史的黒人大学)などに対象校が拡大され、候補者の多様性が向上した
最新情報(2021年10月時点)
  • バーチャルプラットフォームの活用を継続している
  • 今後の新卒採用については、キャンパスリクルーティングとリモート採用とのハイブリッド型の恒久的な導入を見込んでいる
  • 提携するベンダーとの関係性はこれからも変わることはない。各部署のリーダーやすべての候補者にとって、最善かつ最も効率的なプロセスを確保するため、新たなリソースの活用についても常に検討を行う

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