Marriott International クリス・ヴァン・バヴェル氏(グローバル人材獲得イノベーションズ・プログラムス・ソリューションズ担当副社長)

経済再開に備えて一時帰休した従業員の職場復帰に注力

2021年10月07日

Marriott International(以下Marriott)は、パンデミックで深刻な影響を受けており、多くの従業員が一時帰休やレイオフを余儀なくされた。2015年にMarriottに入社し、人材獲得戦略やソリューションの構築および導入を統括するグローバル人材獲得イノベーションズ・プログラムス・ソリューションズ担当副社長のクリス・ヴァン・バヴェル氏に、同社が困難な状況をどのように乗り越えようとしているのか、過去1年間の取り組みについて伺った。

インタビュアー=ジェリー・クリスピン TEXT=杉田真樹

【Marriott International】世界131の国と地域にマリオットやシェラトン、リッツ・カールトンなど30のブランド、7000を超えるホテルやリゾートを擁する世界最大のホテルチェーン。従業員数は12万1000人。1927年創業。

――パンデミックが採用全体にどのような影響を与えたかを教えてください。

パンデミックが宿泊業に壊滅的な影響を及ぼしたため、Marriottの2020年の採用活動はその影響を受け、極めて困難な1年となりました。1月末から2月初旬にかけて、当社のホテルの約9割が閉鎖されました。私たちは突然、2週間の自宅待機を命じられ、ビジネスをサポートすることができなくなりました。

――同業のHiltonは12万5000人の一時帰休を行ったといわれていますが、Marriottも同じような状況でしたか。

正確な数値はよくわかりませんが、同じような状況です。Marriottは、安全が確保できたときにレイオフされた従業員が元の職場に復帰できるように、できることはすべて行いました。まずアラムナイ(元従業員)チームがネットワークを構築し、離職した従業員についてのデータを収集しました。次に採用ブランドチームが、離職者とコミュニケーションを取りました。現在、パンデミック収束後に、Marriottで再び安心して働いてもらうにはどうすればよいか、再び彼らの関心を向けさせるにはどのようにしたらよいのか、採用することができるかという課題を解決することに注力しています。

現時点で米国Marriottの求人の45%はフロリダ州が占めています。ほかの地域ではまだ採用は再開していません。しかし、レイオフされた従業員の多くが生活のためにギグワークや非正規の仕事をしながら、会社から再雇用の連絡が来るのを待っていることを知り、非常にありがたく思っています。他社に転職した人もいますが、ほとんどの従業員はMarriottに戻ってきています。

求職者への価値提案を再定義

――採用手法はどのように変化しましたか。

新規採用よりも、一時帰休またはレイオフされた従業員の再雇用を最優先にしています。採用プロセス自体はほとんど変えていません。現在はMarriottの組織風土を深く理解している彼らを呼び戻すためのキャンペーンを行っています。再雇用だけでは十分に穴を埋められない職務があるので、そのポジションに関しては採用ブランドチームと連携して、Marriottで働く理由は何か、安心して接客の仕事ができる環境整備についてなど、求職者に届けるメッセージづくりに慎重に取り組んでいます。パンデミック以前は、従業員の福利厚生としてMarriottのホテルに割引料金で宿泊することができ、求職者へのメッセージにも入れてきましたが、今は以前のような価値の提案はもう通用しません。

――リモート採用は行いましたか。

Marriottでは、ホテルと本社の従業員の採用の両方をサポートするためにハイブリッドモデルを起用しています。本社の採用は100%リモートで行い、ホテルの採用の大半は対面で行っています。今後の働き方については、パンデミックが収束しても、リモートワーク100%にはならないと思います。Marriottでは従業員同士のコラボレーションが会社の成功を促進すると考えています。リモートワークの割合は以前よりも増えて、出社とリモートのハイブリッド型になるでしょう。しかし、ホテルの従業員は顧客対応など現場での仕事のため、残念ながらリモートワークの選択肢はありません。

インターンシップは全員対面で実施

――新卒採用への影響はありましたか。

Marriottでは5年前から、世界中で18歳から24歳までを対象とした管理職育成プログラム「Marriott Voyage Program」を実施しています。主にホスピタリティスクールの卒業者を対象とし、12〜18カ月のローテーションでの実地研修後、エントリーレベルのマネジャーとして雇用するというものです。2020年末時点で、米国で550人、全体で1100人が参加しましたが、今年の米国での参加者は48人と、前年よりも大幅に削減する予定です。その理由は、勤続20~30年の社員を一時帰休にしているのに、管理職育成プログラムを継続するというのは難しいと判断したためです。
インターンシップ制度も毎年約3000〜4000人が参加していましたが、今年は規模を縮小し、本社では約100人のインターンを受け入れました。インターンシップは、本社配属のインターンもホテル配属のインターンも、オンラインではなく、全員対面式で行いました。

――会社に残った従業員の役割に何か変化はありましたか。

私自身を含めて、残った従業員のほとんどが従来の業務に加えて、たとえばHCM(人材管理)プラットフォームの導入など2つの業務を兼任しています。個々の仕事量は増えていますが、組織はまだ幅広いレベルで報酬体系を変えられるような経済的状況にありません。Marriottは素晴らしい文化を持ち、人を大切にする会社ですので、立ち直ってくれることを期待しています。

――採用テクノロジーなどのツールについては何か変更はありましたか。

最近、OracleのHCMプラットフォームに切り替えました。2020年12月には、15カ国語に対応し、採用から給与計算まですべてをカバーする8種類のモジュールを150カ国で稼働させました。来年に向けてこのツールの運用が拡大することを期待しています。

今後は、採用ブランドチームが利用するメッセージツールの導入に注力します。求職者へのアプローチ方法や、Marriottで働くことの価値の表現が最も大きく変わるでしょう。キャリアサイトからSNS上のプレゼンスまで、すべてのプロセスを再考しています。たとえば、旅行が好きで、国際的な体験を好む人たちを引きつけ、当社に調和してもらうための努力をしています。

宿泊客が回復したホテルに従業員を配置転換

――2021年の具体的な計画はありますか。

最優先事項として、新しく導入したHCMプラットフォームを起動に乗せ、ユーザーの普及率を上げることを考えています。また、地域別ではアジアでの人材の需要が拡大しており、これまでにないほどアジアに注目しています。米国については、コロラド州デンバーのスキーリゾート、フロリダ州南部、アリゾナ州スコッツデールなどへの国内旅行が大人気で、週末のホテルは満員状態です。そのため、私たちは可能な限り人員をこのような地域に一時的に配置転換して、雇用を維持する努力をしています。そして、景気が回復した際には元の場所の、元の職務に復職できるようにしたいと考えています。
Marriottでは、14年前からRPO(Recruitment Process Outsourcing、採用代行)会社のPeopleScoutと提携し、年間7万人の採用を委託しています。PeopleScoutはMarriottが採用規模を縮小したため、余剰人員をAmazon、FedEx、UPSなどの他社に配置してくれました。経済回復後は、PeopleScoutがホテルの採用マネジャーと連携し、再び採用の拡大に取り組んでくれるでしょう。

――採用チームに関して何か変更の予定はありますか。

採用関連の組織では、エグゼクティブチーム、運営チーム、戦略チーム、採用ブランドチーム、新卒採用チームなど各セクションで大規模な縮小が予測されます。離職者には解雇手当を支給しており、多くの従業員が他社に転職しています。有能な人材獲得担当者が、素晴らしい転職先に就職するのを見るのはとてもうれしいことです。

私たちは、観光産業が本格的に再開するために、新型コロナウイルスのワクチン接種に希望を託しています。ワクチン接種が普及し、世界中の人々が安心して過ごせるようにならない限り、旅行の需要が元のように戻るとは思いません。パンデミックが早く収束することを期待しています。

ポイント
  • Marriottには再雇用の文化がある。パンデミック後の経済再開に向けて、自社についてより深く理解する一時帰休やレイオフされた従業員の再雇用を最優先課題にしている
  • 求職者に接客業の仕事に就きたいと思ってもらうために、接客業の安全性など、発信するメッセージの内容を抜本的に見直している
  • 宿泊客が回復するほかのホテルに、余剰人員を一時的に配置転換し、雇用を維持している

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