Lowe's Companies ロバート・ドータリー氏(人材獲得担当副社長)

コロナ禍の巣ごもり消費で急成長。採用選考期間を大幅に短縮し、28万人の大量採用を実現

2021年10月06日

Lowe’sは、パンデミックによる店舗の人手不足を解消するため、大規模なトランスフォーメーションを行った。グローバル企業での採用トランスフォーメーションの主導において長年の経験を持つロバート・ドータリー氏に、本社への採用業務の移管、入社手続きや研修のオンライン化、今後の見通しなどについて伺った。

インタビュアー=クリス・ホイト TEXT=杉田真樹

【Lowe’s Companies】1946年に設立された米国第2位の住宅リフォーム・生活家電チェーン。米国とカナダに2200以上の店舗を持ち、店舗の従業員数は約30万人。フォーチュン500で31位の企業。

――2020年の採用人数を教えてください。

コロナ禍の外出自粛によりガーデニング商品などの需要が伸び、Lowe’sは人々の生活に欠かせない量販店となりました。通常の繁忙期は春ですが、年末まで続きました。離職率は下がっているものの人材の需要増で、季節労働者の採用は17万人と予定の約3倍に、全体の採用数は前年から約7割増の28万人へと大幅に増員しました。売上高も、通年は720億ドル程度ですが、年末の時点で約900億ドルと、1年間で急成長しました。

店舗の採用を本社に移管し、採用スピードを向上

――パンデミックの影響で採用戦略はどう変わりましたか。

大量採用に適したテクノロジーや、デリバリーモデル、採用プロセスもなかったので、大規模なトランスフォーメーションを導入しました。パンデミック以前は、私のチームが候補者の1次スクリーニングを行った後に、店舗で面接を行っていましたが、面接の頻度は毎週1回でした。
たとえば、昨年の応募者は350万人と多いものの、店長が自宅待機要請や新型コロナウイルスの感染で出社できず、面接を行う人がいないという事態に陥りました。さらに、店舗の従業員にも感染者や濃厚接触者が増え、一晩で1店舗あたり最大50人欠員となることもありました。店舗の運営を維持するために、早急に人員の補充が必要でした。都市部では近隣の店舗からの異動で人員を確保できますが、近くにチェーン店がない地方の店舗では、別の対応策が求められました。

――どうやってそれを乗り越えたのですか。

喫緊の課題は、面接担当者が足りないことと、新規採用者の即戦力化の2つであることが明確になっていたので、私が率いる本社の人材獲得(TA)チームが、店舗採用の大半を引き受けました。その解決策として、RPO(Recruitment Process Outsourcing、採用代行)会社の利用、採用プロセスの一部を省力化、非正社員の活用、テクノロジーの導入など、できることは何でも取り組みました。
その結果、採用にかかる日数が12~14日から2~3日に大幅に短縮され、採用者の質についても多様性が向上しました。採用業務の大半を本社に移管したことで、店長は店舗の売上増や、カスタマーサービス、店舗スタッフのケアに集中できるようになりました。店舗側も喜んでいます。大量に人材を必要とする職種については、2022年もこの採用方法を継続する予定です。

オンライン研修で新規採用者を即戦力化

――店舗スタッフの採用はすべてリモートで行ったのですか。

採用はリモートで実施しました。動画を利用することもありましたが、大半は電話で行いました。面接では候補者のアティチュード(物事に対する態度や姿勢)を見ます。Lowe’sが求めているのは、店内でお客さまを見かけたら自ら歩み寄って声をかけるといったカスタマーサービスに情熱をかける人材です。Lowe’sは、卓越したカスタマーサービスを誇りとしているからです。
小売チェーン店に応募する人は、同時期に複数の求人に応募することが多いため、スピーディーな対応が重要です。最初にオファーを出した企業が採用できる可能性が高いため、応募があったら即時対応することを心がけました。トランスフォーメーションでは、数日かかる選考日数を、いかにして数時間単位に短縮できるかという、スピードアップする方法に注力しています。

――オンボーディングや研修もリモートで行ったのですか。

内定者がすぐに店舗で働き始められるように、店舗側の受け入れ態勢を改善しました。また、オンボーディングとオリエンテーションも試験的にオンライン化したところ、店舗での新規採用者の受け入れの効率が上がりました。店長が10人の季節労働者の採用を本社に要請した1週間後には、10人を採用し、全員に導入研修を行い、すぐに店舗で働ける体制を整えることができました。通常は数日かかる雇用手続きや研修を、就業初日までにリモートですべて終えることで、新規採用者は配属初日から即戦力となりました。今後、バーチャルオンボーディングやオリエンテーションの運用を拡大する予定です。

――テクノロジーに関して何か変化はありましたか。

現在、テクノロジーの入れ替えを行っているところです。チャットボットの導入を進めているほか、ATS(応募者追跡システム)兼CRM(採用候補者管理システム)製品を導入するためのRFP(提案依頼書)によるコンペの最終段階にあります。また、新しいキャリアサイトにも移行しました。採用マーケティングではShakerと契約しました。
2019年に人事・給与管理の基幹システムとしてWorkdayも導入しているのですが、以前から使用しているKenexa BrassRingのシステムが古く、連携されていないため、まだ多数のマニュアル作業が発生しています。

人材確保のカギは「差別化」と「スピード」

――2021年はどうなると予測しますか。

2021年は経済が回復し多くの企業が採用を再開、時給労働者の労働移動が活発化すると思います。高い失業給付以上の待遇が必要になるため、採用には他社よりも好条件を提示するなどの差別化が必要となります。
Lowe’sでは、ジョブディスクリプションの閲覧者が応募ボタンをクリックする割合は3%と非常に低いため、長年更新していなかったジョブディスクリプションを刷新しています。ほかにも、Facebookグループへの求人情報の投稿に加えて、ビルボード看板やラジオなど、旧来の手法の活用も検討しています。繰り返しになりますが、Lowe’sが重要としているのはスピードです。最も早く動いた企業が大量の人材を確保できます。

ポイント
  • コロナ禍で面接官が不足、また店舗の従業員が一晩で1店舗あたり最大50人の欠員が出てしまい、店舗の運営を維持するために、店舗の採用を本社に移管した
  • RPO会社や非正社員の活用、動画・電話面接などにより、選考日数を12~14日から2~3日に短縮した
  • 雇用手続きや導入研修のオンライン化などにより、新規採用者の即戦力化に成功した。今後、バーチャルオンボーディングやオリエンテーションの運用を拡大する計画である

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