Uber ダニエル・モナハン氏(グローバル人材獲得およびモビリティ担当副社長)

採用計画が急拡大、リモート採用を軸に新たな取り組みにチャレンジ

2021年09月09日

パンデミックの影響は、ライドシェア事業が低迷する一方で、料理宅配事業の需要が増え、ヘッジとなった。2020年の採用人数は、前年の1万人から数千人へと減少したが、2021年には運転手の需要増から急激に増加し数万人規模となった。当面はソフトウェア開発者の採用難が課題となっているという。
AmazonからUberに転職し、人材獲得リーダーを担っているダニエル・モナハン氏に、パンデミックが同社の採用に与えた影響と、2年間で取り組んだ組織改革、採用テクノロジーの変化、リモート採用、また今後の見通しについて伺った。

インタビュアー=ジェリー・クリスピン 翻訳=鴨志田ひかり TEXT=村田弘美

【Uber】Uber Technologies, Inc. (以下、Uber)は、2009年に設立された事業地域69カ国、900以上の都市圏で、ライドシェア(配車)を提供する米国企業。配車サービスの提供地域は世界約70カ国。登録ドライバーは世界で500万人以上おり、月間アクティブユーザー数は2019年9月に1億人を突破した。2015年からは料理宅配サービス「Uber Eats」も展開している。2020年の米国における市場占有率はライドシェアが71%、料理宅配が30%。従業員数は2万3700人(2021年6月時点)。

――パンデミックが採用全体にどのような影響を与えたのか教えてください。

Uberは設立から2019年まで、飛躍的に成長してきました。パンデミックによって、ライドシェア部門はスローダウンしましたが、Uber Eatsと運送部門の需要はロケットのごとく急上昇したこともあって、これまでどおりに人材の採用は継続しています。
今回のパンデミックで感じたのは、人材獲得競争はこれまでにないほど激化したということです。テクノロジー業界では、とくにHR、採用、人材管理担当者の採用が難しくなっています。人材を獲得するには、働く場所の柔軟性やリモートワークに加えて、自社株の取得権利やさまざまな保障についても、制度を整える必要が生じています。

――パンデミックによって好景気の企業ではどのような変化が起こっていますか。

パンデミック下において業績が向上した企業は、深刻な人材不足に陥っています。採用難の対応策として、従業員の待遇の引き上げを行っています。たとえばフロントラインワーカー(工場の従業員、小売業従事者、医療従事者など)を多く雇用する米国企業では、パンデミック以前は、7~10ドルであった時給額を15ドルに引き上げている企業もあります。

人材不足の原因は、従業員がリモートワークを検討していることです。従業員は、リモートワークでも生産性を維持できることを実証でき、仕事とプライベートの調和ができるような高い労働環境を求めることができると感じています。スキルの高い従業員は、よい労働条件を求めて他社に転職しています。また、Googleでは、労働組合を結成して団体交渉を行うようになりました。組合を通じた交渉が成功するようになれば、従業員の要望に耳を傾ける方法や、企業の対応策が大きく変わるでしょう。

従業員はより良い労働条件と発言権、働く日数や時間や場所に柔軟性を持たせるといった、個々の状況に対応する共感を求めています。HRはそれに耳を傾け、今起きていることから学ぶことによって、パンデミックの次のフェーズやそれ以降に備えることができるでしょう。

ボーダーレス採用で仕事の境界線をなくす

――環境変化に対応して、採用の組織体制に変化はありましたか。

Uberに転職して2年になりますが、はじめに組織の構造改革に着手しました。目的に応じたチームを組織するなど、いろいろな取り組みを行っています。基本的には、ボーダーレス採用を行うことを軸にしています。その1つが地域のボーダーレス化です。仕事を軸にして地域をオーバーラップさせています。たとえば、アジアにいる人が北米の仕事をサポートする。中南米の仕事をしながら、EMEA(欧州、中東、アフリカ)の仕事をするというように、仕事の境界線をなくしました。
それと、とても面白いハブの設置に投資し、成功しています。メキシコと米国ダラスに多様性に対応できる戦略的ソーシングチームをつくりました。元アスリートや元軍人など多様性のある人材の採用経験がないリクルーターに、ノウハウを教える人材獲得アカデミーを創設しました。人材の養成期間は3カ月間で、修了後にさまざまな採用チームに配属します。このプログラムは1回あたり12名を養成しますが、実施頻度は3カ月に1回、1年間に3、4回実施しています。UberのCEO(最高経営責任者)とCFO(最高財務責任者)もこのプログラムには非常に熱心で、ビデオ出演もしています。前職場のAmazonでも同様のプログラムを行っていたのですが、学びの多い取り組みでした。

――採用にあたって、人材の供給源に変化はありましたか。

Uberでは、以前から社内からの登用を重視しています。2年前は約4割が社内からの登用でしたが、この割合は増えています。社内の人事異動プログラムはとても優れていて、昇進機会にもつながっています。すべての従業員において転勤の可能性もあります。長期、短期のものも、国を超えた異動もあります。従業員の最適な配置をするための人事異動は、これからも続くと思います。
また、社内の短期の仕事に対応する公募制のギグも実施しています。従業員は誰でも就労時間の5~15%をギグに充てることができます。社内ギグを通じて、新しいスキルや経験を身につけることや、ほかの部署とのネットワークを築くことなどを目的としています。

新卒からCTOまですべて完全なリモート採用

――リモート採用では、候補者に1度も実際に会わずに採用のオファーをしていましたか。

採用の候補者に1度も会わずにオファーをした比率は20~25%です。面接からオンボーディングまで一連のプロセスはリモートで行っています。採用プロセスのなかでは対面式で行ったものはなく、たとえばCTO(最高技術責任者)の採用は、1度も会わずに採用に至っています。Zoomでの面接は時間短縮になり、当日キャンセルの場合でも再設定するのも容易です。リアルな面接では日程調整や移動の手配に時間を要しますが、Zoomを利用した面接は効率的で今後もかなりの割合で利用することになると思います。
また、特定の職務においては、採用前にアセスメントツールを利用しています。顧客やドライバー・配達員のヘルプラインの担当者、営業職のためのアセスメントもあります。
私たちは現在、リモートで仕事をしていて、オフィスに出社しての業務は行っておりません。9月まではリモートワークを継続しますが、今後はどのような形態で就業することになるのか、状況次第ですが、まだ結論は出ておらず最大の課題となっています。

――オンボーディングも完全にリモートで行っているのですか。

オンボーディングに関しては、これまで以上に注力しています。準備に時間をかけて、内定者には丁寧にきめ細かなフォローをしています。オファーをしてから就業日までに、就業日の数日前に内定者に連絡を入れ、頻繁に連絡を取るようにしています。就業にあたって必要なものを届ける、ちょっとしたプレゼントを贈ることもあります。企業文化の理解についても時間をかけています。Uberの仕事の仕方、物事の考え方、判断基準などを最初に教えています。

――採用テクノロジーなどのツールについては、どのような変更がありましたか。

Uberのテクノロジーチームは非常に優秀で、現在は大規模なツールの変更に取り組んでいるところです。iCIMSの最新のATS(応募者管理システム)を導入して、CRM(採用候補者管理システム)についてもBeameryの契約を終え、これから導入します。それと、採用コーディネーター向けのスケジューリングツールについてはRFP(提案依頼書)を作成中です。ツールを購入して、社内のギグプラットフォームを立ち上げました。ツールの改革には積極的に取り組んでいて、社内向けの採用プログラムと能力開発プログラムに興味を持っています。導入にあたっては、People Techとパートナーシップを結んでいます。

――新卒採用への影響はありましたか。

新卒採用に関しては、ポジティブな影響がありました。学生はビデオ会議などをオンラインで行うことに抵抗がなく、むしろ好んでいるようです。インターンシップもほぼ全世界で、リモートで実施しました。オンラインはリアルで大学訪問もしていたときよりも、時間を有効に使えるため、対象とする学生の範囲が広がる、性別や人種など多様性への対応もできるなど有利な面があり、新卒採用は今後も現在のかたちで継続したいと思います。

パンデミック後、人材獲得戦争がさらに激化する

――2021年の採用戦線はどのようになると予測できますか。

例年よりも採用の規模を大幅に拡大しています。従業員2万3700人の企業でありながら、かつてない数万人規模の採用を目標としています。それには、テクノロジーを刷新して計画どおりに進める予定です。採用の組織改革をして、世界中のどこにでも移動できるようなグローバルソーシング・ハブをつくり、すべてオンラインで採用ができる体制を組みました。Uberでは今年から世界的に行われているマンスフィールド・ルールを適用し、多様性があり包括的な組織であること、公平で適正な採用をすることを目指しています。Uberはこのような大きな挑戦をしています。

今後の予測では、企業は優秀な人に限らず、すべての人材の定着戦略を意識しなければならないということ。また、パンデミックが終わるとともに、トップクラスの人材を企業同士が奪い合うようになる、ということが想像できます。その際に、企業の熱意を伝えることや、市場に見合った報酬や待遇をどのように設定するかが、非常に重要な意思決定の要素になるでしょう。

ポイント
  • パンデミックにより、Uberでは数万人規模の採用計画となった。大規模採用にあたっては組織の改編や、採用地域のボーダーレス化、テクノロジーの最大活用など、これまでにない取り組みでチャレンジをしている最中である
  • 採用する側も新型コロナウイルス感染予防の観点からリモート勤務をしており、新卒から上級管理職まで、採用活動はすべてリモートで行なっている。実際に2~3割はリモートのみで採用された人たちである
  • オンボーディングもリモートで行われている。これにより採用プロセスが短縮されたことや、多様性を持つ候補者など幅広く対象者を拡大できることから、新卒採用は今後も継続する予定である

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