EY ダン・ブラック氏(人材アトラクション&獲得グローバルリーダー)
動画面接やオンラインキャリアフェアの活用で9万人採用
EYは、インターンシップのオンライン化や動画面接などのテクノロジーの活用により、候補者の裾野を広げ、多様なスキルを持つ人材を確保している。エントリーレベルからエグゼクティブまでの採用を統括する人材アトラクション&獲得グローバルリーダーのダン・ブラック氏に同社の取り組みについて伺った。なお、インタビューを実施した3月以降、採用環境に変化が見られたため、文末に最近の状況を付け加えた。
インタビュアー=クリス・ホイト TEXT=杉田真樹
【EY】1989年設立、監査・税務・コンサルティングの3つの主要分野でグローバルサービスを提供する。世界150超の国と地域に拠点を持ち、従業員数は29万8965人(2020年度時点)。2020年度の売上高は372億ドル。フォーチュン500で25位。
――2020年と2021年の採用人数を教えてください。
2020年度は、インターンとフルタイムの従業員を合わせて、世界全体で約9万人を採用しました。2021年度の採用人数は、8万6000人とわずかに減少しました。パンデミックの影響は多少ありましたが、事業拡大の機会も見られました。
――パンデミック以前と比べると、人材供給パイプラインを通じて集めた候補者に何か変化は見られますか。
パンデミックの影響は、産業によって異なりますが、人材も同様で、求職者層や職種によって異なります。エントリーレベルやエグゼクティブレベルについては、多様性が高く、安定した供給を維持しています。しかし、キャリア4~13年目の中堅層については、人材獲得の熾烈な戦いが繰り広げられています。現在の勤務先の報酬、労働環境、働き方などに満足している場合、「今は転職のタイミングではない」と動きたがらないケースが多いからです。分野別では、特にサプライチェーンやデータ解析関連の人材の需要が高く、EYにとって希少性が高いです。
――リファラル採用において、何か変化は見られますか。
EYでは、堅固なリファラルプロセスがあり、米国における採用経路の20%をリファラルが占めています。現在、外部労働市場からの採用は非常に厳しいため、多くの企業があらゆるコネクションを活用して人的ネットワークを構築する必要性を認識しています。そのため、従業員の人脈を活用したリファラル採用は確実に増えています。応募者数の増加も見られます。
採用の再開を見越して雇用を維持
――パンデミック以降、EYの組織構造や採用チームに何か変化はありましたか。
採用の再開を見越して、会社や企業文化について深く理解している、優秀な採用チームのメンバーの雇用維持に努めました。顧客から「明日から2万人の採用を始めたい」と言われることも想定できたので、数十人から数百人のリクルーターをほかの地域やアドバイザリーなどの部署に異動させていました。採用チーム全体の業務量を1週間〜3カ月程度、8割に減らしたところも2、3カ国ありますが、抜本的な見直しには至っていません。パンデミック後のニューノーマルについて考え始めています。コスト削減よりも、よりよい採用をするための組織改革には積極的です。
パンデミックが収束し、景気が回復するとともに離職率が増加すると見込まれています。また、多くの会社が一斉に採用を再開するため、人材獲得競争はかなり熾烈なものになるでしょう。その時に備えて、多様なスキルを持つ人材を惹きつける魅力的な会社であり続けることが最も大切です。
――新しく使い始めたツールはありますか。
社外との接点が限られる中でエンゲージメントを維持するために、Microsoft Teamsを導入しました。ビデオや音声通話によるミーティング、プレゼンテーション、ウェビナーなどあらゆる業務で活用しています。ほかにも、オンラインキャリアフェアを開催するツールもあります。パンデミック以前から活用していた動画面接プラットフォームのHireVueも大変役立ちました。AIやソーシング、スクリーニングなどの導入については、将来的に多額を投じる予定です。現在、試験運用を行っています。
動画面接は今後も確実に続けます。テクノロジーを活用することで、ソーシングの範囲が拡大でき、現在は地域や大学を問わず、より広く門戸が開かれています。さらに、AIによるアシスト機能を活用することで、多くの人材の中からの候補者の絞り込みができますし、採用におけるバイアスの排除にも役立っています。この機能は非常に重要であり、今後も利用は増えると思います。
これからの新卒採用はハイブリッド型
――新卒採用への影響はありましたか。
新卒採用については、今後は大学のキャンパスリクルーティングとリモート採用とのハイブリッド型を取り入れると思います。実際に対面で面接をすることにも意義があります。私は、企業が大学を訪問して約15〜20人程度の学生と交流し、会社についてのリアルな情報を提供するというような、小規模のフォーラムを大学側には開催してほしいと考えています。対面式にもこだわり続けたいと思っています。
――TargetやDellは新卒の採用活動がオンライン化されたことで、インターンの多様性が高まったと発表していますが、EYでも同様の変化は見られますか。
新卒だけでなく、中途採用に関しても、より広い範囲から人材を選定できるようになりました。現在、この戦略を強化しています。またEYでは、以前から女性の採用を強化していますが、パンデミックをきっかけにリモートワークが進み、より柔軟な働き方が可能となったことで、EYを就職先候補として検討する求職者が増えています。
昨年のインターンシップは、ほぼすべての国で完全なリモートで実施しました。たとえば米国では、顧客サービスや責任あるプロジェクトに参加する約7週間のプログラムを開催しました。これまで長い期間をかけて開発した多くのツールのおかげで、インターン生に顧客のために働いているという実感を得られる有意義な体験を提供することができました。
今後は、パンデミックの状況を見定めたうえで、対面式インターンシップの再開について議論する予定です。今後もリモートによるインターンシップは世界各国で継続して実施されると思います。リモートでの実施にあたっては、インターンを統率するマネジャー向けの導入教育を行いました。
インターンシップは大学3年生を主な対象としていますが、オンライン化が進んだことで、大学1~2年生を対象に加えるなど、今後は早期から学生との関係性を構築し、優秀な学生を取り込む機会や手段が続々と出現すると思います。
多様性やリモートワーク推進の機運を維持
――2021年はTA(人材獲得)業界にとってどのような1年になると予測しますか。
これまでオンラインツールを駆使して様々なことが実現可能であると実証してきました。また、世の中の関心が高いDEI(多様性・平等性・包含性)の推進については、取り組みを持続することが企業の責務となるでしょう。経済の回復とともにリモートからオフィス出社への揺り戻しが起きても、ブレーキをかけてはいけません。未開拓の人材プールを発掘し、従業員の多様性が高まることで、企業は様々な恩恵を得ることができます。そのためには、アクセルを踏み続けなければならないと思います。優れた企業は、門戸を広げ、より多くの人に機会を提供する今の勢いを失うことはないでしょう。
- パンデミック後に、スムーズな採用を再開するために、会社や企業文化について深く理解する採用チームのメンバーの雇用維持に努めた
- 新卒採用については、今後は大学キャンパスでのリクルーティング活動とリモート採用とのハイブリッド型を取り入れる予定である
- エンゲージメント維持のために、ワークサイトを導入。また、動画面接ツールを最大限に活用したことにより、ソーシングの範囲の拡大や候補者の絞り込み、バイアスの排除につながったことから、今後もワークサイトや同ツールの利用を継続する
- デルタ変異株の出現後も、企業は採用や労働力計画において、アジリティを継続的に示す必要がある。面接、候補者とのつながりの構築、オンボーディングなどに関して複数の選択肢や手段を持つことは、パンデミックの状況にかかわらず、求める人材の確保に必要不可欠である