希望していなかったのにどうして働きだしたのか 萩原牧子
労働人口が減少するなか、一億総活躍社会の実現を目指した働き方改革が進められている。長時間労働の是正や、柔軟な働き方の選択肢を増やすことで、これまでの画一的な働き方では就業できなかった女性やシニア、介護を担う人など、多様な人材の労働参加の促進を目指す。そういう意味では、すでに求職活動をしている就業意欲が高い「失業者」だけでなく、就業意欲が低い人も含めて、非就業者の就業移行の実態や就業要因を明らかにすることが求められる。
さらにいうと、じつは、就業移動の実績からみると、働く人をボリューム的に増やすためには、就業意欲が低い人に注目することが重要であることがわかる。詳しくは、以前のコラム(「働く人を増やすには(前編)―ターゲットは「完全失業者」だけでいいのか」)にゆずるが、そもそも、非就業者の大多数(8割強)が、就業を希望していない「非希望者」であるため、1年後に就業する割合が失業者(就業割合55.3%)に比べて圧倒的に低くても(非希望者は7.0%)、就業した人数としては、「失業者」よりも「非希望者」であったもののほうが多いのである。
そこで、このコラムでは、非就業者のなかでも就業意欲が低い「非希望者」に着目し、就業を希望していなかったのに、どうして1年後に就業したのか、そして、どのような仕事についているのかを、リクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査」(2017、2018)を活用して分析してみたい(※)。
想定外の出来事や、仕事以外の目的に目途がついた
1年後の就業要因の分析には、ロジスティック分析という手法を活用する。分析の結果、統計的に影響があるといえる場合のみ数値を掲載し、その数値がプラスの場合は、1年後に就業している確率が高く、マイナスの場合は就業していない確率が高くなる。
まず、1年間のライフイベントの影響をみてみる(図表1)。男性の場合は妻の妊娠が、また、女性の場合は夫の離職や、離婚などにより稼ぎ手がいなくなったことが、就業する確率をあげている。これらは「失業者」や、「就職希望者(求職活動はしていないが就業を希望していたもの)」ではみられなかったことから、「非希望者」の特徴的な就業要因といえる。希望していなかったけれど、想定外の出来事により、必要性に迫られて働きだしている様子がうかがえる。
図表1 就業要因の分析 ライフイベント編
つぎに、就業非希望者に対してのみ調査している「仕事をしたいと思っていなかった理由」についても、就業要因の一つとして先ほどと同じように分析してみる(図表2)。男女ともに、仕事をしたいと思っていなかった理由が、通学や資格取得などの勉強の場合、また、女性の場合は、育児と子育ての場合、そして、理由が特にない場合に、1年後に就業する確率が高くなっている。つまり、仕事とは別に時間を使う目的があった場合には、それに目途がついた時に、就業する可能性がある。また、そもそも理由なく、働いていなかった場合にも、就業しやすい。
図表2 就業要因の分析 仕事をしたいと思っていなかった理由編
柔軟性が高い=単調な仕事
では、就業を希望していなかったひとは、どのような仕事についているのだろうか。もともとの就業意欲別に比較してみよう。まず、働き方の柔軟性についてみると(図表3)、就業意欲が低かった人ほど、働く時間や場所を選べる仕事についていることがわかる。つまり、柔軟性が高い働き方を増やすことができれば、就業意欲が低い人の労働参加を増やせるという、働き方改革の狙いの効果が確認できる。一方で、担当している仕事の内容についてみると、就業意欲が低かったひとほど、単調な仕事を担当していることがわかる。
図表3 もともとの就業意欲別×いまの働き方
フルタイム=中核的な仕事、の固定概念を捨てよう
労働人口が減少する社会で、一億総活躍社会が目指しているのは、働く人の数を増やすということだけではない。一人一人が能力やスキルを発揮することで、生産性を高めていくことが必要だ。しかしながら、現状では、柔軟な働き方の場合は、単調な仕事が任される傾向にある。これまで、日本の多くの企業は、フルタイムで制限なく働ける社員に中核的な仕事を任せ、そうでない場合は、周辺的な仕事を任せてきた。しかしながら、その方法はすでに限界を迎えている。働くすべての人の能力やスキルを活かすという発想をもって、任せる仕事の在り方を変えていく必要があるだろう。
※すべてウエイト(Y18_P17)を活用した分析
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