働くひとを増やすには(後編)―働く場所や時間の自由度の効果 萩原牧子

2017年11月30日

働くひとを増やすには(前編)では、従来着目してきた「完全失業者(求職活動をしていて、仕事があればすぐにつくことができる者)」だけでなく、「就業希望者」や「就業を希望していなかったひと」にも対象を広げて、非就業から就業に至った要因を検証していくことが有効であることを述べた。続くこのコラムでは、その要因のひとつとして、働く場所や時間の自由度を高めることの効果をみていきたい。

労働力人口が不足するなか、ひとりでも多くのひとが活躍できる社会にするために、これまでの画一的な働き方を見直し、働く場所や時間の選択肢を増やすことが重要であるといわれている。一億総活躍社会の実現を目指す「働き方改革実行計画」では、場所や時間にとらわれずに働ける「テレワーク」を増やすための数値目標が掲げられた。しかしながら、働く場所や時間の自由度を高めることで、働くひとの数を増やすことができるのかは、データで明らかになっているとはいえない。全国就業実態パネル調査(リクルートワークス研究所)で検証してみよう。

その前に、働いていないひとはどのような人たちなのか、非就業者の属性を就業意欲別に確認していこう。18歳未満の子供をもつ女性を「マザー」、マザーを除いた34歳以下を「若年層」、35~54歳を「ミドル層」、55~65歳を「シニアⅠ層」、66歳以上を「シニアⅡ層」に分類して、就業意欲別の分布をみた(図1)。

求職活動をしていて、仕事があればすぐにつくことができる「完全失業者」は、ミドル層(47.8%)と若年層(31.0%)の割合が高いが、就業を希望しているが求職活動はしていない「就業希望者」、就業を希望していない「就業非希望者」と就業意欲が下がるにつれて、シニアⅡ層、シニアⅠ層の割合が高くなる。図表は割愛するが、「就業非希望者」の就業を希望しない理由をたずねたところ、「高齢のため」(27.1%)、「働かなくても生活していけるから」(23.7%)、「特に理由はない」(16.5%)が続いていた。

図1 非就業者の属性(就業意欲別)

続いて、非就業者のうち1年後に就業したひとの属性も就業意欲別にみておこう(図2)。ここで、興味深いのは、もともと就業を希望していなかった「就業非希望者」から就業に至った人たちで最も多いのがシニアⅡ層(29.7%)であり、マザー(26.5%)が続いていることだ。コラム(前編)で述べたように、非就業者全体のうち、1年後に就業しているボリュームは、「完全失業者」や「就業希望者」よりも、「就業非希望者」が多いことを考慮すると、シニア層やマザー層の働きやすい環境を整えることが、就業を希望するひと、そして、就業するひとをより増やしていくためのキーといえるかもしれない。

図2 非就業から就業者に至ったひとの属性(就業意欲別)

では、本題である、働く場所や時間の自由度の効果をみてみよう。就業意欲別に、現在の勤務先の実態をみてみよう(図3)。「完全失業者→就業」「就業希望者→就業」「就業非希望者→就業」の順に、明らかに、働く場所も時間も選ぶことができた割合が高くなっている。彼・彼女らが、そのような職場を選んで、就業をしたということだ。

図3 働く場所と時間の自由度

働く場所や時間の自由度を高めると、求職活動をしていた完全失業者だけでなく、もともと就業意欲が低かったひとたちまで、働きはじめる可能性を高める。これから働くひとたちを増やしていくためには、現状の職場では働きたくても働けない、働きたくないというひとたちの、その要因を明らかにして、それらを解消していくことが有効だろう。引き続き、働く場所や時間の自由度に加えて、そのほかの要因も検証していきたい。

萩原牧子(リクルートワークス研究所 主任研究員/主任アナリスト)

・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。