新卒3年以内離職率の高卒-大卒格差に潜む、本当の社会課題 古屋星斗

2018年12月14日

新規学卒者の離職率については、「3年以内に3割」ということが良く知られている。この離職率についてかつては「7・5・3」ということも良く知られていた。就職して3年以内の離職率が、中卒就職者では7割、高卒就職者では5割、そして大卒就職者では3割、であることをわかりやすく伝える言葉である。内閣府の「青少年白書(平成19年度版)」においては、『早期離職の状況を「七五三現象」 と称することがあります。この数字は細かな増減はあり ますが、10年ほど大きな変化はありません』という表記が見られ、新卒での就職後3年以内の離職における最終学歴別の差異については一般的な認識となってきた。
この早期離職の程度の差について、キャリア教育の有無やマッチングシステムの違いまで理由が語られるが、今回は異なる視座を提供したい(※1)

就職先の規模によって大きく異なる3年以内離職率

まず、図表1に学歴別の離職率の推移を示した(※2)。「七五三」と言われた2000年代前半と比べると、高卒の離職率は40%ほどに低下しているが、現在においても10%ポイントほど大卒の離職率が低い状況が続いている(※3)

図表1:新卒での就職後3年以内離職率の推移(※4)item_works03_furuya05_furuya12_01.jpg

ここで、離職率について事業所規模別に見てみたい(図表2(※5) )。小規模事業所の方が離職率がかなり高くなっている状況である。1000人以上は高卒・大卒ともに25%程度であるが、5~29人では5割程度、5人未満では6割程度と高くなっていく。この傾向とともに、規模別に見たときに高卒・大卒において大きな差が存在しないことも押さえるべきである。

図表2:事業所規模別 3年以内離職率item_works03_furuya05_furuya12_02-1.png

1000人以上、500~999人といった規模ではほとんど差がないのにもかかわらず、全体では離職率に10%ポイント程度の差が生まれるのはなぜだろうか。その理由は就職先の規模に存在する。図表3に示している。

図表3:高卒・大卒就職者の事業所規模別就職者数比率item_works03_furuya05_furuya12_3_2.png

就職先の事業所規模については高卒・大卒就職者で大きな違いが存在することがわかる。1000人以上について高卒は17.8%であるが、大卒は32.5%。他方で99人以下は高卒が合わせて37.2%に対して、大卒は23.3%に止まっている。
先に見た通り、規模が大きい方が離職率は低い傾向にある。つまり、「七五三」と言われてきた高卒・大卒就職者の離職率の差は、就職先の規模の違いに起因している部分が大きいのである。
なお、1000人以上規模への就職者の3年以内離職率の推移を整理している(図表4)。図表1と比べるとわかる通り、1000人以上規模では高卒・大卒には離職率に近年ほとんど差はない。

図表4:1000人以上事業所就職者の3年以内離職率の推移item_works03_furuya05_furuya12_05.png

「七五三」の本質は、中小企業に対する人材育成支援の必要性

ここまでの結果から見えてくるのは、若者の早期離職のひとつの本質的課題が、「大企業と中小企業の若手定着率の違い」にある点である。
中小企業は新卒採用で学生が集まりにくい傾向が顕著となっている。人手不足のなかで300人未満の中小企業における大卒の求人倍率は9.91倍に達し、全体の1.88倍との乖離も著しい(※6)。10の求人に対して1人の学生が志望している。そのような状態で新卒採用自体をとりやめてしまった企業が多数現れており(※7)、若者獲得自体が困難となっている。その中で、新規学卒者の定着にも大きな課題があることが今回の結果からは明確になった。定着について、特に中小企業で不足しているのは、OJTやOFF-JTによる若手育成体制である(図表5、6(※8))。OJTやOFF-JTについて機会がなかった若手就業者は、企業規模が小さいほどその割合が高まっている。

図表5:「OJTで新しい知識や技術を習得する機会は全くなかった」就業者の割合(29歳以下の就業者)
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図表6:「OFF-JTの機会がなかった」就業者の割合(29歳以下の就業者)item_works03_furuya05_furuya12_07.png

今日、地方創生の議論において、地方の中小企業に対する人材獲得支援の必要性が提起されている。しかし中小企業の若手人材問題については、入職だけが問題なのではなく、高卒・大卒を超えた問題として、若手の離職の多さが本質的な課題であろう。採用の支援だけでは離職率を下げることはできない。規模の小さな企業に対して、育成体制などへの支援を行うことが、その企業の支えとなり、また、結果として「七五三」問題を最終的に解決するための方策となるのではないだろうか。
七五三問題は、"学歴による"マッチング率の問題ではなく、学歴によって就職先企業規模が大きくことなること、そして企業の若手育成体制の問題として捉え直すことが重要であろう。

(※1)本稿は、RIETIコンサルティング・フェロー 橋本賢二氏との意見交換に着想を得て執筆した。 ←戻る

(※2)以下、図表1~図表4は、厚生労働省,「新規学卒就職者の離職状況」による ←戻る

(※3)なお、JILPTによれば「おおむね、労働市場が厳しい時期の新卒者は早期離職率が高い傾向があり、不本意な就職をする新卒者が多いと早期離職者も多くなると考えられる。」とされる。(JILPT,2016,『若年者のキャリアと企業による雇用管理の現状:平成25年若年者雇用実態調査より』) ←戻る

(※4)中卒就職者は全体で1000名程度と少数となっており、今回の検討では高卒・大卒就職者について検討する ←戻る

(※5)厚生労働省の早期離職データは企業規模別ではなく事業所規模別で集計されているため本稿でもこちらを利用している。事業所は工場、営業所、本社などを指す統計上の概念であるが、単独事業所の場合が多く、日本の総企業数は409.8万社である一方で、総事業所数は577.9万事業所である。なお、大企業は事業所を多数抱えるケースが多く、その規模も細分化されるため、事業所規模別のデータは企業規模別のものよりも中小規模のサンプルが多くなっているものと推測される 。 ←戻る

(※6)リクルートワークス研究所,「大卒求人倍率調査(2019年卒) 」 ←戻る

(※7)リクルートワークス研究所,2018,「新卒-中途採用横断レポート -人材不足下における企業の正規社員採用動向-」に詳しい ←戻る

(※8)図表5及び6は、リクルートワークス研究所,「全国就業実態パネル調査2018」より  ←戻る

古屋星斗

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