人材の「シェア」が可能な近未来社会へ ~ヒト、モノ、組織、職場のシェアリングの萌芽~ 村田弘美

2019年04月17日

人材不足である。それならば、新たに外国人材を採用すればよい、賃金などの募集条件を上げればよい、技術が進んでいるからAIやロボットを導入して代替すればよい、などと言われるが、必要とされる人材の採用にはコストも時間もかかるため、そう簡単には進まない。世界中で人材不足に陥っていて、各所で新たな人材ポートフォリオを模索している。北欧でも同様に、タレント不足による争奪戦が行われているが、例えばデンマークでは視点を変えて、人的資源を増やすために、1人で2つの職業能力(資格)を取得し、能力発揮することを推奨し、タレント人材を国全体で最大限に生かす施策への転換にチャレンジしている。知識やスキル、能力の人材プールの仕組みをつくり、シェアすることは、タレント不足の解消へとつながる。

個人サイドからみると、1人が複数の企業と取引をして、知識やスキル、能力を提供するということ、つまり複業である。雇用×雇用、雇用×フリーランス、雇用×有償ボランティア、フリーランス×フリーランスなど、働き方の組み合わせは多数ある。
企業サイドからみると、従業員以外の外部からスキル・能力をシェアしてもらう一方で、自社の従業員が保有する能力を世の中に還元することもできる。社会全体で、スキルや能力を生み出しシェアする、という考え方に基づくものである。
また、人材プールは(副業を認めている)他社で活躍する従業員にまで広げることも可能である。雇われている企業の枠を超えて他所(他者)と協業することで、突き抜けた発想や行為、新たな知識創造ができるのだろうか。シェアリングの可能性を考えてみたい。

最終選考に残った候補者を「シェア」する

米国では、「シェアード・タレントネットワーク」というHRテクノロジーの新サービスが生まれた。これは書類選考や面接など、人材の採用プロセスを経て、最終面接まで進んだが、最後の段階で採用に至らなかった採用候補者(銀メダリスト)を、個人の同意を経て他の企業に紹介する、という人材のシェアリング。人材プールの仕組みである。紹介された企業は、一次、二次選考のプロセスを省くことができる。また、紹介した企業には謝金が払われる、というモデルである。

人材をシェアする複数のプラットホームを活用する

代表的なシェアリングのサービスであるオンライン仲介事業者のサービスを二軸で分類すると、①家具の組み立てやDIY、洋裁や料理が得意という技術を持つ者がサービスを提供するプラットホーム、②UBERに代表されるような車での送迎や宅配サービスのプラットホーム、③医療の知識や法律、アイデアを出すといった、知識や知恵を提供するプラットホームなど、大きく3つに分類できる。
近年の事例では、イケアがいわゆる便利屋のタスクラビット(TaskRabbit)を買収したことが有名なケースである。イケアの商品である家具は、これまでは購入者が商品を持ち帰って自分で組み立てをするのだが、タスクラビットに登録する家具の組み立てが得意な人材がイケアの家具の組み立てを行う。自社のサービスの一部を他所にシェアすることでWin-Winの仕組みが成立した。これは消費者にとっても喜ばしいことである。
また、欧米主要国やインドでは、ビジネス版のソーシャルメディアであるLinkedInに自分の経歴やスキル、特技を登録している。同じ系統の特技や趣味のグループによる交流も多い。日本では利用が少ないが、仕事に生かせるキャリアを「登録」することで可能性はさらに広がる。


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個人サイドの人材シェアは、いくつかの方法が考えられる。先ずは上記のようなオンライン仲介会社、人材プールへの登録。自分が就きたい仕事へのオファーをすることからはじまる。
例えばフルタイムでなくとも、一定期間や余暇時間を利用し、他の企業で副業をする、試用就業にトライする、産休や育休の代替で試すなど、個人サイドからの就業の希望のオファーはできる。

企業サイドのシェアリングもさまざまな方法が考えられる。
1つ目は、前述のとおり、他社の現役社員の獲得である。企業の枠を超えた人材シェアと人材プールの受け皿づくりが必要である。いわゆる副業者を受け入れるための仕組みや制度づくりであるが、これは全ての企業にフィットするとは限らない。副業者のための職域開発も必要になるため、本格的な制度をつくる前に一定期間の実験をすることが望ましい。
2つ目は企業間人材シェアリングである。 他社への出向・副業制度を活用する。出向については、既にある仕組みであるが、短時間、短期間の副業者を受け入れるための仕組みや制度づくりが必要となる。これは全ての企業にフィットするとは限らない。
3つ目はフリーランスの企業間シェアリングである。フリーランス活用の際に、実績、報酬、評価は閉じられた情報であるため、情報のシェアも必要だろう。
企業は、他社人材を含めた豊富な人的資源のポートフォリオを改めて描くことが可能となる。
自社の従業員をシェアする場合は、タレント登録の促進と、人事制度としては、最低限の副業禁止規定、競業避止義務など規定の改定である。

さまざまなシェアリング

人材のシェア以外に、シェアできるのは何だろうか。
例えば、シェアオフィス。複数の企業でオフィスを共有する仕組みである。米国やフランスのインキュベーション組織では、複数のスタートアップ企業が共存し、互いに学ぶ仕組みがある。セキュリティ問題を解決すれば可能である。
他には、 スタッフやマーケティング部門、研究部門を共有する企業間での組織シェアなどが考えられる。アウトソーシングとは異なる仕組みである。
また、シェアを前提とした社会システムの見直しも必要になるだろう。その際に必要なのは、人的資源の有効活用を前提としたシェアのモデルの再構築である。スキルや知識をベースとしたモビリティの社会に必要なのはフェアネスである。こうした世界観を描くことで必要となる制度や、新たなワークルールを導き出すことが大切である。

村田弘美

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