伝統的な男らしさの規範、マッチョイズムを研究するきっかけとは?

筒井健太郎

2024年10月28日

リクルートワークス研究所presents「研究員の『ひと休み ひと休み』Season2」は、研究員の「生の声」をお届けするPodcast番組です。
第5回は、研究員の筒井健太郎に話を聞きました。本コラムでは、収録音源から抜粋した内容をご紹介します。
※podcast番組はぜひこちらからお聴きになってください。

マッチョイズムの研究をやりたいと思ったきっかけは?

――筒井さんは、直近ではどんな研究に取り組まれていましたか。

筒井:現在進行中のものとしては大きく二つありまして、一つが「マネジャーの感情労働の問題」ということで取り組んでいるものです。マネジャーの感情労働からマネジャーが担うケアの役割みたいなところに少し波及させながら取り組んでいるテーマです。
もう一つは「仕事と育児を両立する男性に関する研究」ということで、うまくやれているパターンじゃなくて、両立に困難を抱えてそこに葛藤している、そんな男性たちを追ってるみたいな感じです。

――そういった研究をやりたいと思った、きっかけのようなものはあったのでしょうか。

筒井:どちらの研究も、大元には私が提唱しているマッチョイズムなるものへの疑問があります。マッチョイムズというのは一言で言うと、伝統的な男らしさの規範みたいなものです。いくつかの特徴があって、例えば強くないといけない、逆に言えば弱さを見せてはいけないとか、弱い感情は表に出さない、目標に向かって邁進するとか、その目標達成に向かって自分の力でなんとかするとか、競争の世界で勝ち抜いてくんだっていう。あとは仕事を優先して長時間労働を厭わずに仕事に向き合う。こういういろんな特徴で語られているもの、それを良しとする、ものがマッチョイズム。
伝統的な男らしさの規範。これが過度に働いているっていうことで、少し問題視をしているというのが私が現在持っている研究のスタンスではありますね。

――そのマッチョイズムに対しての、なんか問題意識みたいなものを、筒井さんはもともと持っていたってことなんですか?

社会の中における、他者の中におけるマッチョイズムっていうことが気になりだしたのは実は後からで、もともとは私自身がこのマッチョな世界にある種過剰に適応しちゃってる状態だったんです。社会に出てからというか、これは生まれてから30歳になるぐらいまでずっと競争、競争、受験勉強含みで、その世界の中にいて。なんかこれ変だなっていうか、しんどいなって思って。

――生きづらさがあったんですね。

生きづらさは今もまだある人間なんですけど、ただ生きづらさって何なのかが見えてきたっていう方が正しいかもしれません。20代後半ぐらいから対人支援の世界に関心を持ち始めて、コーチングとかキャリアカウンセリングとか、こういうことをやるようになっていって、私自身が自分の抱えているこのマッチョイズムの呪縛に気づけるようになっていったというプロセスがあります。プロの対人支援者としてコーチとかキャリアカウンセラーとしていろんな、とりわけ男性……その男性は会社の中でマネジャーに昇進するぐらいの……こういう方たちの話を聞く中で、あれ、なんか私が抱えている生きづらさ、マッチョイズムって他の人たちも実は直面してる問題なのかもしれないっていうことに気づいていって、少し社会的に課題として発信していきたいと思うようになったっていう感じですかね。

「マネジャーの感情労働」とは

――「マネジャーの感情労働」ってあんまり聞き慣れない言葉かなというふうに思うんですけど「マネジャーの感情労働」っていうのは昔から言われていたことなんですか?

いや、「マネジャーの感情労働」は昔から言われていたことではないんですよね。
感情労働は比較的歴史がある研究テーマなんですけど、もともとはキャビンアテンダントさんとかを中心に始まった研究テーマです、そこからさらに知識労働者もこういったものに直面しているということが言われるようになってきて、とりわけ人に関わる職種、カウンセリングだったり、教師、教育者であったりだとか、看護の世界、看護師さんだったりだとか、こういう世界の中でも感情労働っていうものがあるというふうに着目されているようになったというのが、これまでの流れですね。

――なるほど。

同じように、今日のマネジャーがよりメンバーと向き合うことが求められていく中でこういった、要は人のマネジメントのウエイトがすごく高くなっている。なのでやっぱりマネジャーにおいても感情労働なるものが出てきてるんじゃないか……っていうそういうちょっと課題提起に近い状態ですかね。

――面白いですね、ありがとうございました。

■リクルートワークス研究所presents  研究員の「ひと休み ひと休み」
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筒井 健太郎

2009年早稲田大学法学部卒業後、東京海上日動火災保険株式会社入社。商品企画・開発、法人営業に従事。その後、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社、そして、株式会社セルムにて組織人事コンサルタントを務めた後、2022年4月より現職。
2019年8月名古屋商科大学大学院マネジメント研究科修了。修士(経営学)。現在、立教大学大学院経営学研究科博士後期課程在籍。
Executive MBA、中小企業診断士、1級キャリアコンサルティング技能士、PCC(Professional Certified Coach)