仕事をしながら学び続けている小前和智にとっての「学び」とは
リクルートワークス研究所presents「研究員の『ひと休み ひと休み』Season2」は、研究員の「生の声」をお届けするPodcast番組です。
第8回は、研究員の小前和智に話を聞きました。本コラムでは、収録音源から抜粋した内容をご紹介します。
※podcast番組はぜひこちらからお聴きになってください。
足りないものが見えたら、もう一回学び直す
――小前さんの中で「学び」というものはどのように捉えられていますか。
小前:私は、学生時代は修士課程で化学を勉強して、就職してから今度は公共政策系の大学院に通って、横浜市役所で勤めているうちに持った問題意識からもう少し勉強したいなと思うことがあって、今度は経済学に絞って勉強してきました。それぞれでトライアンドエラーじゃないですけど、化学を学んでその知識を使って仕事をしてみると、今自分が持っている能力とか知識だけでは足りないなと思って、そこで少し踏み出して新しいことをやってみる。その新しく学んだことを使ってみたい、活かして何かやりたいということをまたやる、そうするとまた少し足りないものが見えてきて、それに向かってもう一回学び直す。そういう必要性に駆られて、必要に応じて勉強はしてきました。まあ、あまり勉強自体は得意じゃないんですけども。
――学びたいから学んでいるというか、必要性に応じて新たなレンズ・武器を身につけるために学んでいるという感覚があるんですね。
小前:その通りです。ちょっと先のなりたい自分がなんとなく見えたときに、それに向けて今これを勉強したらいいんじゃないかというのが少し見えて、それをちょっと踏み出してみたところ、次はこれだみたいな、そういう感じの学びですね。
――小前さんから見てワークス研究所はどんな研究所と言えますか?
小前:「るつぼ」かなと思っています。何の「るつぼ」かは分からないですけど、いろんな要素のいろんなものが詰まっている。しかも少数精鋭というか、扱っているものの大きさの割には、すごく人数が少ない組織だなと思っていて、その中でのコラボレーションも今でも十分面白いですし、これからももっと爆発していくんじゃないでしょうか。
研究分野とか研究員一人一人のキャラクターみたいなものももちろんるつぼなんですけど、リクルートという企業の中の研究所ということで、例えば事業現場をよく知っている営業のメンバーと話をする機会があったり、彼らが間に入ってくれて社外の方々とも話をする機会があったりして、混ざり合って新しいものができる、そういう環境というのがこの研究所の面白さ、すごいところなんじゃないかなと思っています。
――直近で取り組まれたのが「パート・アルバイトの賃金上昇を起点とした人材戦略」プロジェクトですが、この研究をやりたいと思われたきっかけはどんなものだったのでしょうか。
小前:賃金を上げると人が採用できるようになるのか、あるいは人を引き止められるリテンション、定着につなげられるのか?ということを分析研究したプロジェクトになります。きっかけはやはり先ほど申し上げた「るつぼ」とすごく関係するんですが、プロジェクトメンバーの坂本(貴志)さんが社内の他部署の人とよもやま話をするというときに、来ないかと声をかけてくれたんです。その中で企業の方々がどういう問題意識を持たれているのかとか、リクルート他部署のメンバーはどんなことをやりたくて普段どういうものを扱っているのか、というような話を聞いて、これはプロジェクトで研究できるんじゃないか、というちょっとひらめきみたいなものがありました。それで社外の方々ともコラボレーションして、プロジェクトを立ち上げようということになったんです。
――いろいろ話す中で、これは「賃金研究プロジェクト」でいけるかもしれないと思ったキーワード、自分でピンときた部分ってどのあたりだったんですか。
小前:組み合わせですね。経済学でいうと何かが変わったときにそれに影響を受けた他の何かが変わる、この二つの関係性を分析したいときに、片方だけが情報として分かっていても、もう片方が分からないと分析できないみたいなところがあるんですが、よもやま話の中でなんとなく、こんなことできたらいいな、と話していて、それは両方とも分かるので分析・研究ができるなという、そういうひらめきというか、思いつけたというところが大きかったです。
――その変数、YとXというか、それは何と何だったんですか?
小前:賃金の情報がXで、その賃金を変えたときにどれぐらい人が集まるか、あるいはどれぐらい人が辞めずに勤め続けてくれるかというデータのYが両方あったんです。一般に賃金のデータというと、例えば(求人)広告に載っているデータというのは比較的取りやすい。ただ、どれぐらいの人が来てくれたとか、どれぐらいの人が残って仕事をしてくれたのかという情報については、協力してくれる会社さんが外にいて、守秘義務契約を結んでコラボレーションできて初めて手に入るデータなので、今回のプロジェクトではそこまで到達できるんじゃないかっていうのがポイントでした。
――まさに「るつぼ」が社外のパートナーさん、クライアントさんもそうだし、社内の人たちもそうだし、うまく混ざり合わさってそういう感じになったんですね。
小前:そうですね。しかも皆さんがそこに強く興味を持ってくださっていたというのも大きかったです。
――研究している中で面白いエピソード、気づき、経験みたいなことがあったらぜひ聞かせていただけますか。
小前:他の皆さんもそうだと思うんですけど、研究って99%ぐらいの時間……もっとかもしれないですけど、特に何かが分かるわけでもないというか、本を読んでインプットしたり、分析をしたりする地味な作業をしているわけです。私の場合は、分析でも下処理というか、データを構築するまでがすごく時間がかかるんですが、そのデータ構築に例えば100時間ぐらいかけたとしても、そのデータ構築の結果がうまく出るかどうかは全く分からない。
「変化なし」っていう結果もあり得るっていう中、「賃金研究プロジェクト」もそうですけど、最後の分析をスタートさせるボタンを押して、しばらく待って結果が出た瞬間、これは欲しかった、仮説通りに綺麗に出たなという、その瞬間がやっぱり自分の中でも一番面白い、嬉しい瞬間です。それがたまに、本当にたまにあるっていうのが研究の面白いところかなと思っています。
分析結果の正確さ・誠実さをとても大事にしている
――小前さんが研究する上でのこだわりみたいなものって、もしあれば教えてもらえますか?
小前:気をつけていることが一つと、心掛けていることが一つあります。まず、データ分析をしているので分析結果の正確さ・誠実さというのにはすごく気をつけています。データ分析のある部分を切り取ってしまうと、そういうふうに結果としては見えるんですけれども、それって全体の中のどういう人たちを分析したのかとか、あるいは今回取ってきたデータがどういうデータなのか、というのをちゃんと自分も認識して、それを読む人に伝える。伝えた上でこういう結果が出ています、という意味での正確さとか誠実さっていうのは大事にしています。
もう一つ心掛けていることとしては、読んでもらう、見てもらう方に面白いと思ってもらえる結果の見せ方です。ワークス研究所は見せ方やアウトプットの出し方にすごくこだわっている研究所だと思うんですが、それに加えてやっぱり自分の見せたい見せ方みたいなものもいろいろ考えたりします。そこが割と心掛けているところですね。
ただその二つをやっていると時間がすごくかかって、納期が押してきてしまうという。
――そこはなかなかの葛藤ですね。納期と自分としてのこだわりの部分とのせめぎ合いですね、毎回。
小前:そうなんです。正確さと面白さって矛盾はしないんですけど、やっぱり難しさはちょっとはあったりします。
――こだわりでもあり難しさのポイントでもあるということなんですね。ありがとうございます。
■小前さんのお勧めコンテンツ
・全国就業実態パネル調査(JPSED)「日本の働き方を考える」
・研究所員の鳥瞰虫瞰 Vol.5
■リクルートワークス研究所presents 研究員の「ひと休み ひと休み」
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小前 和智
東京理科大学理工学部工業化学科卒業、京都大学大学院工学研究科合成・生物科学専攻修了後、横浜市役所などを経て、2022年4月より現職。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。