社内公募制度が離職を促してしまっている?

千野翔平

2024年08月30日

リクルートワークス研究所presents「研究員の『ひと休み ひと休み』Season2」は、研究員の「生の声」をお届けするPodcast番組です。
第2回は、研究員の千野翔平に話を聞きました。本コラムでは、収録音源から抜粋した内容をご紹介します。
※podcast番組はぜひこちらからお聴きになってください。

「知りたい」と思う気持ちから研究へ

――千野さんは直近ではどんな研究に取り組まれましたか。

千野:直近では人事の役割研究というものと異動の研究、特に社内公募制度などの研究に取り組んできました。

――異動の研究をやりたいと思ったきっかけをお話しいただけますか。

千野:会社における異動というのは、これまでは企業主導で行われるのが一般的だったと思いますが、近年は新しい動きとして、従業員が異動を選択できるという制度を取り入れる企業が増えてきました。もう少し正確に言えば、従業員が選択できる異動の割合を増やそうという企業が増えてきたということなんですが、こうした個人選択型異動というものの実態がどういうものなのか、あるいはそこから企業が何を獲得し、一方で何をトレードオフしているのか、そもそも企業にとって有効な人事戦略になりうるのか、みたいなところを知りたいなと思って研究を始めました。

――会社が持っていた異動の裁量権を個人に委ねるということなので、会社側も勇気のいる制度だなと思いますし、個人側からすると嬉しい半面、それが一体どんな効能をもたらすのかということも明らかになっていなかったので、非常に興味深いテーマですね。

千野:事象としては2000年ぐらいからあったんですけれど、そこから25年経って、昨今この個人選択型、手挙げというものが注目を浴びているというところも面白いなと思ったきっかけでした。

本当に個を活かしきれてきたのだろうか?という問題意識が発端

――それと並行して「真・人事の役割」研究も進められてきましたが、こちらはきっかけはどんなものだったんですか。

千野:人的資本経営が注目され、組織と個人の関係が少しずつ変化してきている中で、企業が個を活かすというふうに言ってきたんだけれども、本当に個を活かしきれてきたのだろうかという問題意識がこの研究の発端にはありました。

プロジェクト期間の大枠がおよそ1年間と決まっている中で、やりたいことがものすごくたくさんあって、それをどう計画的に進めていくかという点はやっぱりすごく大変でした。特に我々のプロジェクトでは「人事の役割」について、その恩恵を受ける個人と、それを実装するマネージャーに集まっていただいて対話するというセッションをしてもらったり、人事の責任者クラスの人たちに研究会という形でお集まりいただいて、これからの人事の役割を検討したりするみたいなこともやっていて、非常に解の分からない……一応我々の仮説としては持っていますけど、なかなか見えないものを探っていくっていう。そんな研究だったな、というふうにも思います。

そのプロセスが我々の研究においては非常に楽しいんですけど、その時に自分たちが大切にしていたもの、これからも大切にしていきたいものと、そこで出てきた声をどうやって形にしていくかというところは、一つ研究の工夫のしどころなのかなというふうに思っています。

社員と採用する側のミスマッチ

――研究をしている中で面白いエピソードがありましたら教えてください。

千野:社内公募制度というのは、人材を必要とする部署が必要とする仕事やポストの要件を明示して、その仕事に従事したい社員が応募し、会社が選抜する仕組みだというふうに言われています。我々の調査によれば大企業の約4割で導入されています。

ですので基本的には社内公募というのは個人が手を挙げて、会社が個人の意思を尊重する仕組みであるはずなんですが、研究を進めていくとこの社内公募制度がむしろ離職を促してしまっているという、逆の結果が見えてきたのは興味深かったです。

これは最近の私の研究意識にも近いんですけど、個人がやりたいなと思って手を挙げて異動した先で、実は自分がやりたいと思っていた希望の仕事や環境で働けないとか、当初自分が希望していたものが実は幻想だったとか、そういうものが割と見えてきたんです。

客観的に聞いてみるとそれってありそうなことだなと思いつつも、社内公募制度の対象は一度社会に出た人たちなのでそれぐらい分かるでしょうと思ってしまったり、実際には採る・採られるという現象がやはり社内の労働マーケットの中でも起きてしまって、本当にやりたいことが実現できなかったとか、採用する側もしっかりとした説明ができていなかったとか、そういったミスマッチが起きたりしているっていうのが意外な発見でしたね。

こういった研究って、通常はポジティブ面だけが注目されるんですけど、研究の中でネガティブな面も明らかになってきたというのは、拡がりが見えるし、いいことだけではないですけれども興味深い現象だなというふうに思いました。

――そういうことを知っていたら、自分が異動するときはちゃんとヒアリングしたり、調べたりしてからにしようって思いますね。

千野:そうなんですよ。そのヒアリングするという工夫も、ある企業ではそういう仕組みを入れていたりするんですが、他の会社ではそういう仕組みがないので全然情報量が少ないんですよね。一か八かみたいになってしまう。そうするとやはり手って挙げづらいじゃないですか。なので、一か八かではなくて、せっかくの機会を有効に活用してもらうために、もっと必要な機能や人事がやったほうがいい工夫などを提示しているというのが、今まさに私がやっていることですね。

――ありがとうございました。

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千野 翔平

大手情報通信会社を経て、2012年4月株式会社リクルートエージェント(現 株式会社リクルート)入社。中途斡旋事業のキャリアアドバイザー、アセスメント事業の開発・研究に従事。その後、株式会社リクルートマネジメントソリューションズに出向し、人事領域のコンサルタントを経て、2019年4月より現職。
2018年3月中央大学大学院 戦略経営研究科戦略経営専攻(経営修士)修了。