変化の時代を乗り越える手段を、社会の多くの人に届けたい
リクルートワークス研究所presents「研究員の『ひと休み ひと休み』」は、研究員が「何を考えているのか」「どんな思いで研究活動をしているのか」、そんな研究員の「生の声」をお届けするPodcast番組です。
第2回は、主任研究員・大嶋寧子に話を聞きました。本コラムでは、収録音源から抜粋した内容をご紹介します。
※podcast番組はぜひこちらからお聴きになってください。
――大嶋さんはリスキリングの研究に取り組まれていましたけど、この研究をやりたいと思ったきっかけはどんなものだったんですか。
大嶋:10年以上前なんですけど、海外の政策機関のWEBサイトを見たときに、「私たちは変化の時代をあらゆる人が乗り越えるための手段を提供する」と書かれていたんですね。そのメッセージを見たときに、すごくいいな、と思ったんです。政策ってこうだなと。
翻って日本では、これから変化の時代が来るというときに、「乗り越える手段を提供します」って誰か言っているんだっけ?どういう手段が提供されているんだっけ?と考えてみると、あまりないんじゃないかと思っていたんですね。
リスキリングの研究を始めたのは2020年で、まだ日本にそんな言葉はなかったんですけど、コロナの時期でもありましたし、デジタルとかAIで、仕事も社会も変化していくときに、それを乗り越えるキーワードの一つなんじゃないかと思ったんです。それを、大企業など一部の人だけではなく、社会の多くの人が手にしていけるような研究ができないかなと思って、リスキリングのプロジェクトに参加したというのが最初ですね。
――今ではリスキリングという言葉も日本でも多く聞かれるようになってきましたけど、そんなにも前からリスキリングに着目されていたのだな、という点が興味深かったです。
大嶋:「リスキリング」という言葉自体はそんなに前からあったものではないんですけど、人が変化の時代を乗り越えるための手段を、「助ける」とかじゃなくて、その人が自分で乗り越えていくために、どういうものがあったらいいのか、そしてそれを提供するのだ、という意思がすごく明確に表明されていて。
私がそれを言われたら心強いし、政策が何のためにあるのか?ということもすごく分かりやすいんじゃないかと思っていたところに、リスキリングというテーマが、海外で非常に大きくなってきているということを聞いて、このテーマを研究することで、自分がずっと考えてきたことに関われるんじゃないか、と思った次第ですね。
その人に寄り添って、その人が学ぼうという意欲を、どう作っていくか
――リスキリングの研究の中で、おもしろいエピソードなどはありましたか。
大嶋:おもしろかったことは本当にたくさんあるんですけど、ある中小企業の経営者の方がおっしゃった「デジタルは使う人が正義」という言葉がとても印象に残っています。企業がITやデジタルを使おう、となると、どうしても事業課題をどう解決するかという目線になると思うんですね。それはすごく正しいんですけど、現場では使う人がついていけないということがよく起きてしまう。その経営者の方がおっしゃっていた意図は何かなと考えると、まずは使う人がデジタルの価値、「あ、デジタルってこんなに便利なんだ」ということを理解できるものから導入していく。それによって自分たちの仕事がこんなに良くなるんだということを理解してもらう。それが次の変化の土壌になっていくんだよ、という意味だと私は受け取っていて、そうか、働く人が新しいスキルを身につけていくときの基本って、単に何かを学ばせればよいということではなく、その人に寄り添って、その人が学ぼうという意欲をどう作っていくかということなんだということを教えてもらったんだなと思っています。
――研究をしていて大嶋さんがグッとくる瞬間ってありますか。それはどんな時ですか。
大嶋:研究をしている方は皆そうなんじゃないかと思うんですが、研究成果として発信したものに対して、リアクションをいただいた時なんじゃないかな。特にリクルートワークス研究所では研究成果を出して終わりではなく、どう使ってもらうか、ということをみんなで一生懸命考えるんですけど、研究成果を見ていただいて「こうやって使いたい」「こうやって使いました」という話を聞くと本当に嬉しいです。普通に「ありがとうございます」と言っていますが、心の中では「本当にありがとう!! ヤッター!」と思っていることがありますね。
――大嶋さんが研究をする上でのこだわりを教えていただけますか。
大嶋:リアルな声を聞くことがすごく大事だなと思っています。頭だけで考えると、かなりの確率で間違えると思っていて。頭でこうじゃないかな、と考えることももちろん大事なんですけど、声を聞くことが何より大事だなと思っていますし、実際に声を聞いて、私の考えは妄想だった、と頭を殴られるように、新しいことを知ることが喜びにもなっているという風に感じます。
――大嶋さんの優しさが言葉の端々からビシビシ伝わってきました。きっかけの話も、大企業などの一部の人だけではなくいろんな人に伝えたい、という優しい気持ちが伝わってきて、ジーンとしました。
大嶋:それは私が優しいからではなくて、日本の社会って王道から外れたときにいろんな厳しいことが起きる側面があるなと思っていて。働く人にとってのセーフティネットがある意味では弱いな、と。いろんな人がいろんな苦労をしてそこに当てはまろうとしているし、自分の身にもいつ何が起きてもおかしくない、何かが起きたときにどうなるかもわからないという部分もあるので、優しさというよりは自分事として、いろんな人がこれからの社会を乗り越えられたら良いし、そのための手段を苦労なく見つけられたらいいなとか、そんな風に思っています。
――ありがとうございました。
■大嶋寧子
東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、民間シンクタンク(雇用政策・家族政策等の調査研究)、外務省経済局等(OECDに関わる成長調整等)を経て現職。専門は経営学(人的資源管理論、組織行動論)、関心領域は多様な制約のある人材のマネジメント、デジタル時代のスキル形成、働く人の創造性を引き出すリーダーシップ等。東京大学大学院経済学研究科博士後期課程在学中。
中小企業のリスキリングPJT
https://www.works-i.com/research/project/dx2021/創造性を引き出しあう職場の研究
https://www.works-i.com/project/littlec.html
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