人事は映画が教えてくれる

『ギフテッド』に学ぶ「普通の感覚」を養うことの大切さ

いくら傑出した才能があっても、社会的規範や人間関係形成力なしでは社会で力を発揮できない

2021年12月10日

【あらすじ】ボートの修理工をしながら、自殺した姉ダイアンの娘メアリー(マッケンナ・グレイス)とともに、フロリダで暮らす独り身のフランク(クリス・エヴァンス)。天才数学者だった母の才能を受け継いだメアリーは傑出した数学の力をもつギフテッド。しかし、フランクはメアリーに特別な教育を受けさせようとはせず、貧困層の子どもも通う一般の小学校に通学させる。一方、フランクの母イヴリン(リンゼイ・ダンカン)はメアリーにギフテッド教育を受けさせることを主張する。

『ギフテッド』
2017年11月公開
監督:マーク・ウェブ
キャスト:クリス・エヴァンス、マッケンナ・グレイス、リンゼイ・ダンカン、オクタヴィア・スペンサーほか
発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン
価格:Blu-ray 2096 円(税込)

『ギフテッド』は、類い稀な才能をもったギフテッドと呼ばれる子どもをどのように育てるべきかをテーマとした映画です。

主人公は数学のギフテッドであるメアリー・アドラー(マッケンナ・グレイス)と彼女を育てる叔父のフランク・アドラー(クリス・エヴァンス)。メアリーの祖母イヴリン・アドラー(リンゼイ・ダンカン)も元数学者であり、メアリーの母親ダイアンもイヴリンによって英才教育を施された天才数学者でした。しかし、ダイアンは若くして自殺。メアリーを弟フランクに託しました。

フランクはメアリーを普通の学校に通わせ、普通に育てようとします。それに対し、イヴリンはメアリーの才能を伸ばすため、それにふさわしい環境で特別な教育を施すべきだと主張し、2人は裁判で争います。

この問題は一見非常に悩ましいものに思えます。できるだけの努力をして子どもの才能を伸ばすことが社会に対する親の責任であり、その子のためにもなると、イヴリンのように考える人もいるでしょう。

しかし、人の社会的発達を考えると、正しいのはフランクです。すべての人には社会のなかでうまく生きるために道徳などの社会的規範、善悪の判断力、人間関係形成力などが必要です。社会で生きるためのインフラです。ギフテッドも例外ではありません。むしろ人と異なる部分をもつギフテッドこそ、高度な社会性を身につけなくてはその能力を十分社会で発揮できません。そして、こうした力は幼児期反復的学習で初めて身につくものです。

もちろん小さい頃から徹底して英才教育を行えば、その分早く才能を伸ばすことはできるでしょう。しかし、それによって前述のインフラを構築する機会が失われると、どこかでドロップアウトしてしまうリスクが高くなります。

小さい頃から数学以外の楽しみを与えられず、恋人と付き合うことも禁じられたダイアンはその象徴です。また、フランクも、小学校の校長にメアリーをギフテッド専門の学校へ進学させるよう進言されたとき、「その手の学校には嫌な思い出がある」と答えているように、イヴリンの英才教育に苦しめられた1人。

彼はその後、哲学の道に進み、大学の准教授にまでなりますが、結局はその仕事も辞し、ボートの修理工として生計を立てるようになりました。フランクがなぜこのようなキャリアを選択したのかは、映画のなかでは詳細には描かれませんが、子どもの頃に身につけられなかった「普通の感覚」を獲得するためだと考えれば合点がいきます。哲学を学んだからこそ、フランクは自分に欠けているものを認識できたのです。

しかし、フランクのように、大人になってから、自ら気付き、自らの努力で「普通の感覚」を獲得するのは容易なことではありません。だから幼少期の教育が大切なのです。

映画の前半、大好きな数学に没頭するメアリーを、フランクが「今日の数学はこれで終わり!」と強引に散歩に連れ出し、夕日をバックに語り合う美しいシーンがあります。「神様はいる?」というメアリーの素朴な疑問に対し、フランクは「誰にもわからない」と答えます。そして、「信じることと知ることは違う」「自分で考えろ、でも信じることも恐れるな」と語りかけます。宗教に関する「普通の感覚」を教えるフランク流の人間教育です。

裁判の結果、メアリーはフランクの下で育てられることになり、大学に通いながら、ガールスカウトにも参加する日々を送ります。恐らくこれがメアリーにとって最適な選択だったのではないかと思います。

才能ある人材の力をいかに伸ばすかは企業の人事にとっても重要なテーマです。子どもと大人では違いはありますが、フランクの言葉や行動がヒントになる部分もあるのではないでしょうか。一部の才能だけに注目してはダメなのです。

w169_eiga_main.jpg数学に没頭するメアリーをフランクが散歩に連れ出したシーン。何気ない会話を通して、フランクはメアリーに「普通の感覚」を教える。

Text=伊藤敬太郎 Photo=平山諭 Illustration=信濃八太郎

野田 稔

明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授

Noda Minoru リクルートワークス研究所特任研究顧問。専門分野は組織論、経営戦略論、ミーティングマネジメント。

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