スポットワークは働き手「31.4万人」分の力を生み出している
リクルートワークス研究所では、近年の急速な労働市場の変化や労働法の改正に伴い働く人々にどんな変化が起こっているのかを検証する調査(「働き方のこれからに関する1万人調査」)を行った。本調査はリクルートワークス研究所が毎年行っている5万人規模の就業者に対するパネル調査である、全国就業実態パネル調査(JPSED)と接続可能な調査という形で実施しており、過去の就業状況などと合わせて分析することができる。
さて、近年、大きく注目されるテーマの一つがスポットワークと言われる数時間単位で継続を前提としない1回限りのパートタイムワークである。過去に実施されたギグワーク(※1)研究のように実態把握を企図した調査・研究が十分ではない領域であり、他方で、特に飲食店や軽作業の人手不足が深刻化している現場において、重要な労働供給主体となりつつある経済活動である。
スポットワーカーが活躍する様子もさまざまな形で報じられており、登録者2500万人、累計実施者数は900万人を超えたという企業もある(※2)。急速なスピードで働き手不足の現場で活用されつつあるスポットワークについては、従来の労働統計で捕捉することが極めて困難であるという特徴がある。厚生労働省の統計における「労働者」「パートタイム労働者(※3)」といった形では把握できていないと考えられ(なお一般労働者(※4)の月平均労働時間は155.7時間、パートタイム労働者の月平均労働時間は79.6時間(※5)である)、スポットワークによる労働は確かに現場の大きな助力となっているが、どの政府統計にも登場することがない実態の見えにくい活動となっている。
本稿ではスポットワークについて、日本の労働市場全体における現在の規模感を推計するとともに、どういった人が従事しているのか、また本業との関係性(※6)などといった点について分析する。
現在の労働投入量に対する割合は0.47%
調査では、スポットワーク実施の有無、及びここ1年間の実施頻度を聞き(※7)、その上で実施者に対してはその1回あたりの実施時間を聴取(※8)した。
調査対象は全国の16~84歳の就業者である。年齢層、性別、就業形態によって割付を行い全国の就業者の分布に合わせて回答を回収している。サンプルサイズは10681である。
まずは実施の有無について分析する(図表1)。この1年間でスポットワークを1度以上実施したことがある者の割合(実施率)は全就業者のうち8.2%であった。
また、その頻度についても聞いている。1年間で1回、1年間に2・3回実施した、という者がともに1.8%と最も多く、半年間に2・3回も1.3%と多い。頻度が上がるにつれて出現率が低下しており、1週間に4・5回以上実施しているという者は0.2%であった。
この実施率・実施状況については正規社員もほとんど同じ傾向を示したことは興味深い(図表2)。正規社員に絞った際のスポットワーク実施率は8.6%であり、その実施頻度もほとんど同様であった。非常に多様な就業者がスポットワークに従事していることが示唆されている。
なお、この実施率については若手が高く、29歳以下においては14.0%に達していた。
図表1 直近1年間のスポットワークの実施率(%)
図表2 直近1年間のスポットワークの実施率(正規の社員・従業員)(%)
次に、1回あたりの実施時間を見る(図表3)。ごく短時間から可能な仕事もあるため、0.5時間から30分刻みにて1回あたりの平均的な実施時間を聞いた。実施していた者の中で最も多いのは「3時間」の15.5%、次に「4時間」の13.8%であった。「2時間」も10.6%、「8時間,それ以上(※9)」は8.9%となっている。かなりバラつきが見られ、職場によって時間にも広がりがあると言える。
上記2つの結果をもとに推計すると、スポットワーク実施者の1週間の平均的な実施時間は2.04時間であった。この推計にあたっては、スポットワークの年間実施頻度を1回あたりの平均実施時間に乗じ、それを1週間あたりに換算している(※10)。
具体的には図表1の結果をもとにして回答者ごとに、年間の実施回数を算出し(1年間に1回=1回、1年間に2・3回=2.5回、半年間に2・3回=5回…(※11) )、その実施回数に1回あたりの平均実施時間を乗じて年間実施時間を算出、それを1年間の52週間で除した。
図表3 スポットワークの1回あたりの実施時間(%)
就業者の8.2%(※12)が週平均2.04時間実施しているという数値は、労働市場全体における総労働投入量(就業者数×労働時間、日本の就業者の合計総労働時間)に対してどの程度の割合なのか。まず、本調査における就業者全体の本業の労働時間の週平均値は36.2時間であった(※13)。スポットワーク実施率が8.2%(8.19%)であったことをふまえると、本業における日本全体の労働投入量を100とした際のスポットワークの割合は0.461となる。つまり、総労働投入量に対する割合は0.46%である(就業者100が36.18時間労働するのに対して、スポットワークによって就業者8.19が2.04時間活動していることの割合による相対値)。
これは本業の労働者31.4万人分に相当する(日本全体の就業者6814万人(※14)に0.46%を乗じた推計値)。
これを大きいと感じるか小さいと感じるか、についてはさまざまな意見があるだろう。ただ、これはあくまで“就業者全体の総労働時間に対する割合”であり、スポットワークの求人が多い特定業職種(飲食店や倉庫作業、オフィス軽作業など)においてはこの平均を超える助力になっていることは間違いがない。他方で、日本の6800万人余りの就業者に対してスポットワーク実施者は確かに数百万人を超えるような大きな規模感となってきているが、短時間・単発勤務であるという点を勘案すると、労働投入量や労働供給に対するインパクトは0.46%と、まだ限定的であるという点は留意する必要がある。
スポットワークをしている人はどんな人か
では、スポットワークを実施している者はどんな人なのだろうか。
まず若手が多い。19歳以下の就業者では18.9%、20歳代では14.5%、30歳代で10.5%と若年層が極めて多く、その後は年代が上がるごとに実施率が低下しているが、60歳代の4.0%が最も低く、70歳以上では6.8%と上昇している。これは高齢者層の「小さな仕事(※15)」を探し実施する方法としてスポットワークを用いている者が一定数いることを示しているのかもしれない。
図表4 スポットワーク実施率(年齢層、性別)
また、就業形態では、派遣社員として就業している者が12.9%と高いが、正規社員も8.6%と高く、多様な就業形態の者が実施している。
業種(※16)については、ほとんど実施率に差がない。本業のスキルや経験を活かす、といった性質が乏しく誰でも空いた時間で実施できるため、本業の仕事の性質にかかわらず従事されていると言える。
従業員規模については、小規模企業から大手企業の在職者まで広く実施されており、規模による差異はほとんど見られない。
全般的に、就業形態や在職先がどのような企業であるかはあまりスポットワーク実施有無に影響していない。
図表5 スポットワーク実施率(就業形態、業種、従業員規模)
最後に、過去(昨年12月時点)の本業の仕事の状況との関係を分析する。
まず労働時間の状況(※18)であるが、週労働時間では20時間未満の者が11.1%と最も高く、60時間以上の者が10.6%である。この両極が高い傾向がある。短時間勤務者が所得増進のために実施するケースが多いことが確認できるが、一方で労働時間が長い者が実施しているケースもある(「60時間以上」の者は回答者のうち3.3%とごく少数ではある)。こうしたスポットワーカーが存在していることには留意が必要である。
仕事時間の希望(※19)についても、「今より増やしたい」と考えていた者における実施率が16.7%と高い傾向を示しており、本業の仕事において本当はもっと稼ぎたい・稼ぐ必要があるケースでスポットワークを実施する者が多いことが示唆されている。
図表6 スポットワーク実施率(過去の仕事の状況)
スポットワークはあらゆる労働統計で観測することができないが、実際の労働の現場では役割を果たしている新たな経済活動の一つである。この点について、社会政策としてどのように捉えていくべきか、全体的な把握が必要となっている。
労働市場に対するインパクトは労働投入量ベースで0.46%とまだ大きくはないがその分潜在性は高く、また、若手と70歳以上層の一部を中心に、非常に幅広い就業者によって担われつつあることも判明している。その潜在性をさらに活かすために、過重労働にならない仕組みづくりなどは求められるだろう。
本稿がスポットワークという新たな経済活動における議論の起点となれば幸いである。
(※1)ギグワークとスポットワークについては厳密な区分は法的にも社会的にも存在しないが、多くのケースでギグワークは業務委託契約によるもの、スポットワークは雇用契約によるものと分類されることがある。他方、本調査ではこの契約形態の相違を認識しつつ、回答者が自身の活動を平易に認知する設問として設計すべく、その特徴を踏まえて「数時間単位で行う1回限りのアルバイト」と定義した
(※2) 株式会社タイミー https://corp.timee.co.jp/news/detail-3510/
(※3)「パートタイム労働者」とは、「常用労働者」のうち次のいずれかに該当する労働者のこと。(1) 1日の所定労働時間が一般の労働者よりも短い者。(2) 1日の所定労働時間が一般の労働者と同じで1週の所定労働日数が一般の労働者よりも少ない者。厚生労働省,毎月勤労統計調査の定義より
(※4)常用労働者からパートタイム労働者を除いた者
(※5)厚生労働省,毎月勤労統計調査 令和6年8月分結果確報
(※6)株式会社タイミーによれば、スポットワーカーの99.4%が本業と兼務していると回答している
(※7)あなたは、“スポットワーク”と呼ばれる数時間単位で行う1回限りのアルバイト(スキマバイトなどとも)を行ったことがありますか。また、行ったことがある方は、この1年間について、何回程度実施しましたか。(※同じ職場で繰り返し実施した場合、実施の都度1回としてください)
(※8)1回あたりの実施時間はどの程度でしたか。この1年間で実施した際の平均時間をお答えください。
(※9)なお、調査上は8.5時間、9時間、9.5時間、10時間、それ以上と質問を設けているが、8時間を超える回答者は合わせて2.7%であった。「それ以上」とする回答者は異常値として除外した(実施者の1.6%)
(※10)1年間を52週間として算定
(※11)調査項目では1回あたり10時間までを30分刻みで回答を得ており、図表3では「8時間、それ以上」とまとめたが、算出に当たっては具体的な回答による実施時間をもとにした。また「10時間よりも多い」という回答項目があり1.6%から回答を得ていたが、算定にあたっては異常値として除外した
(※12)8.19%
(※13)前年12月時点の回答結果
(※14)総務省,労働力調査,2024年9月
(※15)坂本貴志,2022,ほんとうの定年後,講談社などで、リクルートワークス研究所坂本研究員が提唱している概念
(※16)昨年12月時点で就業していた業種
(※17)昨年12月時点で就業していた企業の規模
(※18)昨年12月時点の平均的な一週間の労働時間についての回答。80時間より多い回答者を異常値として除外した(元データであるJPSED2024回答者の0.38%)
(※19)昨年12月時点での回答
古屋 星斗
2011年一橋大学大学院 社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。
2017年より現職。労働市場について分析するとともに、若年人材研究を専門とし、次世代社会のキャリア形成を研究する。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。