
3 労働市場の流動化は限定的
日本型雇用と称される、日本ならではの雇用慣行。過去、年功賃金や終身雇用など日本ならではといわれる仕組みが正規雇用者を中心とした労働者の雇用の安定につながり、また企業側としても安定した人員確保を可能にした部分もあった。しかし、低迷する経済と歩調を合わせる形で日本型雇用は近年批判が行われてきた。こうしたなか、日本の雇用は変化しているのかあるいはそうではないのか。本シリーズでは、日本の労働環境が今どのように変化をしているのか確認していく。
労働市場においてミスマッチが存在しているなか、転職者が全体として増えているのかどうかを確認してみよう。
総務省「労働力調査」では、特定調査票において調査回答者に前職を辞めた時期を聴取している。この回答状況をもって、労働力調査では転職の実態を把握している。労働力調査が定義する「転職者」とは、就業者のうち前職のある者でかつ過去1年間に離職を経験した者とされている。
就業者のうち転職者が占める割合である転職者比率の過去からの経緯をとったものが図表1である。転職者比率の2005年からの推移を確認すると、2005年には5.4%だったものがリーマンショック後の2010年に4.5%まで下がり、その後は緩やかに上昇し2023年には4.9%となっている。転職者比率は景気変動による影響を受けながら上下しているが、総じてみれば大きな変化までは認められない。
年齢別にみても、25~34歳では7.4%、35~44歳では4.6%と、全体として転職者比率が上昇している傾向にあるとまではいえない。一方、45~54歳は足元では3.5%、55~64歳では4.0%と、中高年齢者はもともと転職者の比率が低いが近年はやや上昇している傾向が認められる。これには賃金カーブのフラット化や退職金の減少や確定拠出年金の普及などが背景にある可能性もある。また65歳以降に関しては、定年後も働き続ける人が増加していることが影響していると考えられる。
図表1 転職者比率の割合出典:総務省「労働力調査」

坂本 貴志
一橋大学国際公共政策大学院公共経済専攻修了後、厚生労働省入省。社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府にて官庁エコノミストとして「月例経済報告」の作成や「経済財政白書」の執筆に取り組む。三菱総合研究所にて海外経済担当のエコノミストを務めた後、2017年10月よりリクルートワークス研究所に参画。