未来を見通す「人事はデータで何ができるのか?」~人事の本音に迫る座談会~(前編)

2016年10月05日

人事はこれまでどのようにデータと向き合ってきたのでしょうか。そして、これから人事は本当にデータを活用して「ピープル・アナリティクス」を実現できるのでしょうか。 2016年10月某日、この問いのヒントを得るために、企業で人事に携わる6名(※)の方々による「ピープル・アナリティクス」について語り合う覆面座談会を開催しました。
※電機メーカー(2社)、化学メーカー、IT、サービス、金融の人事に携わる6名の方々

一番のボトルネックは「続かないこと」

-これまで人事部門でデータをどのように活用してこられましたか。

サービス:私たちは人事システムに過去からのデータを蓄積しています。でも、正直、どう分析したら意味のある結果が出るだろうか、とか、このデータでよかったか、など以前から疑問が絶えません。

20年ぐらい前から、本人にスキルや希望を登録してもらい、その蓄積されたデータに基づいた異動調整をしてきました。その人のできることは何で、やりたいことは何かということを1人1人のカルテを読み込むというデータの使い方をしていました。それが、最近は「こういう業務に合った人がほしい」というリクエストに応じた異動が重視されるようになってきて、蓄積したデータには存在しない条件で人を探さなくてはいけなくなり、システムに登録しているデータが活用しにくくなりました。そうなると、データもきちんと入力されなくなってしまって、ますます活用されなくなるというのが現状です。

金融:私は以前、採用に関するデータを解析したことがあります。テストと英語力、面接に関する選考結果の千数百人分のデータを解析しました。その時は、いくつか相関性がある興味深い結果が出ました。例えば、入社者の中でもテストの点数が低い人は仕事についていくのに苦労するのですが、一定の点数を超えるとテストの点数とパフォーマンスの相関関係がありませんでした。 他に、面白い気づきだったのは、入社数年でパフォーマンスが発揮できない社員と選考時の面接官を調べてみると、相関関係がありました。その面接官たちは話している時間が長い傾向があり、必ずしも候補者の特性を引き出せていないという仮説が立ち、面接全体の設計の組み立て直しに活用できました。

化学メーカー(以下、化学):ある米系企業では、既に人事でデータを活用したジョブ・ローテーションの推奨や、リテンションの具体的な方法が検討されていると聞きました。AIが出した結果がそのままメールで送られてくると聞いて、非常に衝撃を受けました。2年くらい前から取り組んでいて、最初は精度が低かったそうですが、今は、辞めそうな社員がかなり高い確率で当たるようになってきているということで、データの精度が非常に向上していることに驚きました。どんどん先行して取り組んだ方が、この領域で享受できることが多いのではと感じています。

人事と現場が連携してデータを活かすべき

-データ解析を現場と連携してやることもありますか。

金融:先ほど話題に上がったデータ解析は人事部門だけでやりました。但し、さらに一歩踏み込んで、現場と協働してパフォーマンスの高い人材の行動特性などを細かく見れば、面接の評価結果だけでは見えてこないものがわかるのかもしれません。

電機メーカーA社(以下、電機A社):職能的な発想からジョブ型に人材マネジメントが変わっていく中で、マス管理から個別管理へ変わっていかなければならないと思うのですが、経験や勘だけではなくて、人事が、どう現場の方と話していくかというところで、データ活用が重要になってくるのかなと思っています。

電機メーカーB社(以下、電機B社):人事のデータを現場に流通させて、現場が動きやすく、働きやすいようにするにはどうすればいいのか。意外と日本の会社にはない考え方だと思います。どこかの企業でチャレンジして企業全体の生産性が上がるということが成果として出てくることが必要なのかなと思います。

人事がデータ分析する上で重要なこと

-他にはどのようにデータを活用されていますか。

電機A社:先ほど、行動特性という話が出ましたが、今、ウェアラブルセンサーを使って行動データをとる実証実験をやっています。ただ、行動データと人事データをどう結びつけて人事施策に活かしていくのかについて非常に悩んでいます。いろんな可能性はあると思うのですが、それをどう人事施策に活かしていくかとなると難しいなと思います。

IT:私もウェアラブルセンサーには関心があります。私たちは、全社員フリーアドレスとし、自宅でも仕事ができるようにしていますが、喫緊の課題としては、特定の人とばかり話して効率性が下がったということがないように、コミュニケーションがもっと可視化されないといけないと思っています。生産性とコミュニケーションの可視化にむけて、行動データをどう活用すべきか、ということを社内で議論しています。ウェアラブルセンサーについても話題になっていて、生産性や健康という観点ではいくつかデバイスをトライアルで使っています。

試してみた結果は、ある程度わかっていることというか、例えば、意識の高い人はいろんな人とコミュニケーションしているし、健康に気をつけている人はたくさん歩いているとか、「そうだよね」という結果が出ています。企業側がこれをどう社員のために使うかという点がまだ見えなくて、悩ましいところです。

電機B社:現場のデータサイエンティストが、人事データを分析したことがあります。結果は8割方「そうだよね」という結果になりました。データ分析の観点からは、現場の改善に介入できるまでに必要な変数が足りない。現場のデータサイエンティストは人事知識がなく、人事には現場感覚が十分にないため、適切な変数を十分に集められていないのです。これでは人事データを分析しても当たり前の結果しか導き出せず、データ分析が継続しません。

時代やビジネス環境によって必要な変数は変化するので、人事だけで何を測定し蓄積するかを考えるのではなく、人事と現場が連携してデータ分析を継続することで新たな発見が見えてくるのではないかと思います。