未来を見通す「テクノロジーで人事はどう変わるか?」~grooves 池見幸浩氏(後編)~
テクノロジーやデータによって、私たちの働き方は、そして人事はどのように変わっていくのでしょうか。この領域の第一人者であるgrooves代表取締役 池見幸浩氏に聞きました。後編は、テクノロジーやデータがもたらす「人事の変化」についてです。
HR Techにより、ピープル・アナリティクスは高度化する
-人事の仕事に大きな影響を与えるといわれるHR Techは、10年後、どう進化すると思いますか?
大きく分けて2つの領域で進化があると考えています。
1つは画像認識・動画認識の分野です。画像・動画認識は、人工知能が最もパフォーマンスを出しやすいといわれている分野です。画像・動画解析と、適性検査等のテストの結果を組み合わせることで、面接や面談がより高精度で行えるようになるのではないでしょうか。たとえば、嘘を見抜けたり、本音を聞き出せたりといった感じです。
もう1つは、物理的距離を超えるテクノロジーを活用した分野です。この領域はなかなかブレイクスルーがなかった世界ですが、最初にテレワークという言葉が出てきた1990年代に比べると、様々なことがオンライン上やクラウド上でできるようになってきましたし、オンライン上でのコミュニケーションツールも増えました。これらの技術とVRやARなど、新たな技術と組み合わせることで、非対面でのプロジェクトが推進できたりする未来がくるのではないかと考えています。そこでの生産性や創造性を測るためにピープル・アナリティクスを用いる。そんな時代がやってくるはずです。
人事は、ピープル・アナリティクスが実現する未来を見せる必要がある
-社員が人事に個人的なデータを提供することに対する「気味悪さ」はないのでしょうか?
データを提供することによって、どんなメリットがあるのか、どんな世界・社会が実現されるのかを、人事部門や人材サービス企業がちゃんと提示することが必要だと思います。既にヘルスケアの分野では、パーソナル・ヘルス・レコードという概念で、健康データの一元管理に対する取り組みが始まっています。これも、気持ち悪いといえば気持ち悪いのですが、それ以上に自身の健康について全てわかってもらって、最適な医療が受けられるというメリットが明確なので、人はデータを提供しているわけです。人事がデータを集める際にも、同じようなメリットを訴求することができるはずです。
ピープル・アナリティクスのために社員が会社にデータを提供するメリットとは、社員個々のキャリアをより効果的に支援してもらえるようになるということです。先日、リンダ・グラットン氏と議論したのですが、これから、人生は100年時代に突入します。そうなると、今より長く働き続けなければならない。それを支えていくのは、継続的にキャリアアップできる環境を整えることに尽きます。
人事の仕事の変化は既に起こっている
-人事の仕事は急には変わらないという意見もありますが、どうお考えですか?
そんなことはないと思いますよ。変化は、ゆっくりと、しかし確実に起きています。ある学者の方から聞いたのですが、イギリスで始まった産業革命は、実は70年間にわたって続いていて、その間の年間成長率は2%前後程度だったそうです。つまり、産業革命の最中にいた人たちにとってみれば、日々の仕事にそれほど変化は感じられなかったはずです。でも、後から振り返ってみれば、あれは大きなイノベーションだった、ということになる。きっと、我々にまだ実感が湧いていないだけだと思います。個人的には、もうイノベーションは起き始めていると感じています。
人事の仕事を考えてみると、リファーラルやソーシャルリクルーティングといった考え方は10年前にはなかった。でも、今はみんなリファーラルやソーシャルリクルーティングを駆使した人材調達を普通にやっている。きっとこれから先も、新しいテクノロジーに対応した働き方をしているでしょう。スマホにしてもそうです。10年前にはなかったものを、今は当たり前のように使っている。そういった変化の積み重ねをイノベーションと呼ぶのでしょう。今は気づかなくても、100年後に振り返ってみると、あの時期は人事にイノベーションが起こったといわれるようになっているかもしれません。
人事は、今よりもさらに価値のあるキャリアになる
-人事パーソンのキャリアはどのように変わっていくのでしょうか?
基本的には、テクノロジーの進化や働き方の変化にあわせて、大きく変わっていかざるを得ないのだと思います。遠からず指数関数的なスピードでテクノロジーが進歩するタイミングが訪れるはずですが、人事の方々はその変化を乗り越えていけるはずだと信じています。
この変化を乗り越えることで、人事パーソンはさらなるキャリアアップが見込める。私はそう考えています。先日、ある勉強会でお話ししたときに、人事パーソンに対し、「生涯、人事としてのキャリアを歩みたいですか?」と質問したところ、手を挙げた人はゼロでした。その理由は、多くの会社では、管理部門のトップはCFO(Chief Financial Officer:最高財務責者)で、人事トップになってもCFOの下になっているからだと思います。しかし、テクノロジーが大きく進歩する2029年には、テクノロジーに精通した人事パーソンは、CHRO(Chief Human Resource Officer:最高人事責任者)やCPO(Chief People Officer:最高人材活用責任者)という役割を担うはずですし、このポジションはCFOと並び立つようになるはずです。