未来を見通す「データで人事をどう変えるのか?」~Humanyze社CEOのBen Waber氏(後編)~
ピープル・アナリティクスによって、会社は、組織は、人事は、どのように変わっていくのでしょうか。ウェアラブルセンサーを活用したピープル・アナリティクスサービスを提供しているHumanyze社CEOのBen Waber氏に聞きました。後編は、ピープル・アナリティクスを有効活用するためのポイントについてです。
コラボレーションの実態を把握できることが、ピープル・アナリティクスの最大の強み
-ウェアラブルセンサーを用いたピープル・アナリティクスで実現できることのうち、最も効果的なものは何でしょうか?
現状、クライアントからのニーズが一番高いのは、社員個人の時間配分の分析です。オフィス内で、一日をどのように過ごしているかを可視化することです。具体的には、デスクワークをしているのか、ミーティングをしているのかなどの配分を明らかにするのです。時間配分に関心が高い理由は、おそらく、生産性向上を考える上で、問題点がわかりやすく、かつ最も使いやすいデータだからだと思います。たとえば、個人で集中して仕事する時間が1時間しか取れていない、などの問題の可視化はシンプルで、改善しやすいでしょう。
しかし、個人的には、ウェアラブルセンサーがもたらす最大の効果は、コラボレーションの実態がわかることだと思っています。本来、コミュニケーションを密に取っているべきチーム同士が疎遠になっているとか、チーム内でのコミュニケーションが足りないなどといったことです。しかし、この種のデータを見たことがない人にとっては、その有用性が理解しづらいものかもしれないので、私たちが啓蒙活動を行っていかなければならないと考えています。
ピープル・アナリティクスを有効活用するためには、管理部門全体で取り組むことが重要
-ピープル・アナリティクスを推進するチームは、どのような体制が望ましいですか?
検討体制が人事部門に閉じていてはいけません。管理部門全体で取り組む必要があります。人事部門は、あくまでピープル・アナリティクスチームのメンバーの一員、という位置づけだと考えています。
-なぜ、管理部門全体で取り組む必要があるのでしょうか?
ピープル・アナリティクスは、経営をサポートするための手法だからです。企業全体の生産性を上げるという目的を達成するためには、人事だけで検討していてはいけないのです。いずれはピープル・アナリストのような専門職が出てくるかもしれませんが、当面は、複数の部門が合同で、それぞれが保有しているデータを持ち寄ったり、必要なデータを新たに収集・蓄積したりして、コラボレーションしながら問題解決につなげていく、という流れになるでしょう。
-管理部門全体でのコラボレーションは、日本企業にとってはかなりハードルが高そうですが、どうすれば解決できますか?
小さい成功を積み重ねていくしかないと思います。少人数のチームでもいいので、部門横断チームを組織し、特定部門で成果を出して、それを全社的なムーブメントにつなげていく。地味ですが、そういう努力を惜しんでは、ピープル・アナリティクスは定着しません。
ダイバーシティ&インクルージョン、健康経営がピープル・アナリティクスの重要テーマになる
-今後、ピープル・アナリティクスはどのように活用されるようになりますか?
基本的には、Evidence Based HR(客観的事実に基づく科学的な人事)という、最近の人事トレンドにおける大きな潮流の上に位置づけられると思います。この潮流の中で近年、アメリカで注目されているのは、ダイバーシティ&インクルージョンへの活用です。アメリカでは、人種のダイバーシティ、性別のダイバーシティなどを客観指標として設定して、人材の採用・活用を株主に対して約束していますが、採用した後、本当に社内でインクルージョンが起きているかは、管理職への登用人数等の指標でしか把握できていません。センサーデータを用いれば、社内で本当にインクルージョンが進んでいるか、たとえば人種別にグループができていないか、メールや口頭のコミュニケーションにおいて、人種や性別間で無意識のバイアスが社内に生まれていないかなどがわかるようになります。
-一部の市場関係者からは、各企業に人材に関する情報開示を求める声もありますが、ピープル・アナリティクスはそれをサポートするツールになりますか?
今はまだ、ピープル・アナリティクスの効果に対する社会からの評価が定まっていませんので難しいですが、中長期的な視点で考えると、ピープル・アナリティクスが導き出す事実は、企業が自社のコンディション、たとえばインクルージョンやコラボレーションの実態、社員の健康状態と、ビジネス上のパフォーマンスの関係を客観的に評価するための指標になりうると思います。遠からず、投資家がこの種のデータを企業評価のために求めるようになるでしょうし、先進的な企業は、こうした情報を株主に対して積極的に開示するようになるでしょう。