未来を見通す「データで人事をどう変えるのか?」~Humanyze社CEOのBen Waber氏(前編)~
ピープル・アナリティクスによって、会社は、組織は、人事は、どのように変わっていくのでしょうか。ウェアラブルセンサーを活用したピープル・アナリティクスサービスを提供しているHumanyze社CEOのBen Waber氏に聞きました。前編は、ウェアラブルセンサーがもたらす人事革新の可能性についてです。
ピープル・アナリティクスには大きな可能性がある
-Humanyze社について、簡単に教えてください。
ウェアラブルセンサーを用いて企業・組織に存在する様々な課題を明らかにし、その解決に向けたソリューションを提供する、ピープル・アナリティクス専業のSaaS(※)プラットフォーム会社です。本社はボストンにあり、日本にも営業拠点を持っています。
-マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者から、起業してピープル・アナリティクスに特化したサービスを始められた理由は何ですか?
MITで研究を続ける中で、ピープル・アナリティクスは、ビジネスに大きな影響を与えることがわかったからです。その影響力は、人事にとどまらず、経営全般にまで及びます。このことの重要性を感じたエピソードをご紹介しましょう。きっかけは、2007年にドイツのとある大企業で行った実験でした。当時、私は博士課程の大学院生でした。ウェアラブルセンサーを活用して、その企業で働く従業員のパフォーマンスや職場満足度、転職意向に関するシンプルな解析を行ったのですが、その予測の精度は、MITの同僚が実施したアンケート等を使って行う伝統的方法の6倍でした。その大企業は、大学院生が行ったちょっとした分析に驚き、分析結果に基づいて組織再編を実行したのです。そのとき、ピープル・アナリティクスの持つ影響力の大きさを実感し、これはビジネスになると思ったのです。
ウェアラブルセンサーは、ありのままの「現実」を明らかにする
-なぜ、センサーという技術に注目されたのですか?
現実に何が起きているのか、誰もが把握したいと思っていますよね。現実には、大きく分けると、身体的に起こっているリアルな現実、デジタル上の現実の2種類があります。ウェアラブルセンサーに注目したのは、このうち、「身体的に起こっているリアルな現実」を正しく測定するのに最適な方法だと気付いたからです。
データというと、まずデジタル上のデータを思い浮かべる方が多いと思います。メールデータやPCの操作履歴など、デジタル上のデータは日々、自動的に蓄積されていますし、多くの研究者や企業が、その分析や、そこから示唆を導き出すことに注力しています。私たちの会社でもメールデータの分析など、デジタルデータの分析サービスを提供しています。しかし、MITで研究していた際にわかったのですが、実はデジタル上の現実は、必ずしもリアルな現実と整合するわけではありません。考えてみれば当然のことです。これだけテクノロジーが進化しても、多くの重要な意思決定は、人と人との対面コミュニケーションによって成立しているからです。
-なぜ、ウェアラブルセンサーに注目されたのですか?
どうすればコミュニケーションの実態を正確に測定できるか。それを考え抜いた末にたどり着いた答えが、ウェアラブルセンサーだったからです。カメラ、マイク、ビーコンなど、人間の行動・コミュニケーションを把握する手段は様々ありますが、私たちが提供しているのは、身に着けることのできるバッジ型のセンサーです。バッジ型のセンサーにした理由は、身に着けることで、いつ、誰と、どこで話したかなど、行動・コミュニケーションデータを高精度で収集できること、そして、多くの国で社員証として使われているカードに似た形にすれば、センサーを装着していることをそれほど意識せずに活用してもらえ、普及が見込めると判断したからです。
既存の人事データは、センサーデータ等と組み合わせることで真価を発揮する
-既存の人事データの分析は、どうすれば意味のあるものになるのでしょうか?
人事データ単体でも、いろいろなことがわかります。多くの会社で、評価結果や採用関連のデータを分析しているはずですし、ERP(Enterprise Resource Planning)ベンダーも、人事データの分析パッケージを提供しています。そして、多くの会社が分析結果を人事の革新に活かしていると思います。
ただし、人事データを有効活用したいのであれば、人事部門で閉じた活用を行ってはいけません。ビジネス上のKPI(Key Performance Indicator)データとつなげることが重要です。これも、多くのERPベンダーが提供しているものですし、デジタル上の人事データは、重要な経営管理指標になっていくはずですから、両者は一体化の方向に向かうでしょう。
もっと重要なのは、人事データやビジネス上のKPIデータをセンサーデータと組み合わせて用いることです。なぜならば、デジタルデータだけでは、社員が実際にどのような活動をしているのかがわからないからです。本当に革新的な経営変革につなげるためには、人事データ・ビジネス上のKPIデータ・センサーデータを組み合わせて、何がビジネス上のパフォーマンスに効いているのか、本当にパフォーマンスの高い社員は誰なのかなどを分析していくことが重要になるのです。
裏を返せば、人事データが十分に蓄積されていない会社では、センサーデータをいくら収集しても、ピープル・アナリティクスは十分に機能しません。この点には注意する必要があると思います。
※SaaS(Software as a Service)とは、必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウェア(主にアプリケーションソフトウェア)もしくはその提供形態のこと。