ピープル・アナリティクスの4つの発展段階
これまで人事はどのようにデータと向き合ってきたのでしょうか。
日本企業はこれまで、様々なデータを取得し、活用してきました。例えば、「勤怠管理」のデータ、「人事考課」のデータ、「異動履歴」のデータ、などです。こうしたデータの取り扱いは、その時々のビジネス環境、テクノロジーの進化に応じて、変化・発展してきました。
そこで、企業が「今後、人・組織に関するデータをどのように取得し活用していくのか」を明らかにするために、まず「これまでどのようにデータを取得し活用してきたのか」を整理しました。整理してみると、ピープル・アナリティクスには4つの発展段階があることがわかってきました。1枚目のチャートでは、その概要をご紹介します。
次に、各発展段階が、どのような歴史的背景のもとで、どのように変遷してきたのかを振り返りました。振り返ることで、企業経営や人材マネジメントのトレンドなど、様々な要素が、人事データの収集・活用に影響を与えていることが明らかになりました。次ののチャートでは、その概要をご紹介します。
1.ピープル・アナリティクスの発展段階
人事部門において、データの収集・分析はどのように発展してきたのか。その発展段階を整理するために、私たちは、人事におけるデータの収集・分析の変遷を「データの取得」・「データの活用」の2つの観点から、4つの発展段階に整理しました。
図表1.ピープル・アナリティクスの発展段階
この発展段階の特徴を整理すると、以下の通りとなります。
(1)ピープル・アナリティクス0.5
- 目的:国内人員全体の評価・配置・昇格判定
- データ収集の特徴:日本国内において、評価・給与等の帳票データを電子化して収集
- データ活用の特徴:全人格的な要素を人海戦術で判定
(2)ピープル・アナリティクス1.0
- 目的:国内次世代リーダーの選抜・育成
- データ収集の特徴:日本国内において、MBO・給与等のデータをローカル型ERPにて統合的に収集
- データ活用の特徴:成果に関するデジタルデータを基に初期スクリーニング、人海戦術で最終判断
(3)ピープル・アナリティクス1.5
- 目的:グローバル次世代リーダーの選抜・育成
- データ収集の特徴:グローバルレベルにおいて、評価・給与等のデータをクラウド型ERPにて統合的に収集
- データ活用の特徴:リアルタイムのデータを用いたタイムリーな分析が増えた
(4)ピープル・アナリティクス2.0
- 目的:グローバル人員全体の生産性向上、働き方改革
- データ収集の特徴:従来型の人事データに加え、行動・コミュニケーションデータをセンサー・IoTを活用して収集
- データ活用の特徴:分析から予測へのシフト
2.ピープル・アナリティクスの歴史的変遷
私たちは、発展段階の仮説を創るのと並行して、日本企業における組織・人事に関するデータ収集・活用が、いつ頃、何を契機として転換点を迎えたのかを把握すべく、1990年頃から現在までの変遷を時系列で整理しました。
図表2.ピープル・アナリティクスの歴史的変遷
詳細説明
①ピープル・アナリティクス 0.5:データ分析以前 詳細説明
②ピープル・アナリティクス1.0:成果主義に最適化された人事データの分析・活用 詳細説明
③ピープル・アナリティクス1.5:グローバルタレントマネジメントへの最適化 詳細説明
④2016年時点でのピープル・アナリティクスをめぐる実態と課題
整理した結果、日本企業の人事部門が行ってきた活動の特徴は以下の7点にあるのではないかという結論に至りました。
(1)実は、伝統的に「パフォーマンス」「キャリア」という2つのマネジメント領域に関するデータの収集、活用を進めていた
(2)1990年以降、常に「パフォーマンス」に対するマネジメントが先行する形で、ピープル・アナリティクスのトレンドを創り出してきた
(3)人事データのマネジメントに関する最も大きな変化は、1990年代後半の成果主義導入によってもたらされた。それまでの全人格的な評価から成果重視型の評価へのシフトが起こった
(4)近年の大きなトレンドの変化は、「グローバル人事ガバナンスの強化」(データを活用した人事面からの企業統治)に対する要請から起こった。本社によるグローバル人材データの把握により、日本企業においても本社主導での人材マネジメントが実現しつつある
(5)2015年頃から「健康経営」への関心が高まっているため、「パフォーマンス」「キャリア」に加え、「ヘルスケア」という新しいマネジメント領域が生まれる可能性が高い
(6)1990年代から2016年までのデータ活用の歴史を振り返ると、事業環境の変化やテクノロジーの進歩に伴い、「過去データ」の分析から「リアルタイム(現在)データ」の分析へのシフトが起こった
(7)「パフォーマンス」「キャリア」ともに、今後は、過去・現在の「分析」から未来の「予測」へと発展する可能性が高く、既にその萌芽がみられる