「中途採用者は組織に埋もれる」を克服する ― 一気にミドルシニア10人採用し、面で変える ―(森下仁丹)

2023年07月28日

profiledetail0011.jpg医薬部外品の「仁丹」で広く知られている森下仁丹。現在は、仁丹で培った製丸技術を応用した「シームレスカプセル」を食品・医薬品・化粧品業界に提供する一方、医薬品やサプリメント、食品の企画・製造・販売なども手掛けている。
同社は2017年、「第四新卒採用」と銘打って、40~50代を中心としたビジネスパーソンを対象に採用活動を展開。この試みはさまざまな媒体で何度も紹介され、大きな話題を呼んだ。あれから6年が経過した今、第四新卒採用は事業にどのような影響をもたらしたのか、人事担当者の北川順一郎氏に聞いた。

欠けていた40~50代世代を補う「第四新卒」採用

──まずは「第四新卒」という言葉の定義を教えて下さい。

北川 大学などを卒業したばかりの人は「新卒」、卒業して企業に就職したが3年以内に退職した人は「第二新卒」、大学院博士課程修了で就労していない人は「第三新卒」と呼ばれます。これに対して「第四新卒」とは、社会人として十分に経験を積んだ後も仕事に対する情熱を失わず次のキャリアにチャレンジする人材を指す、当社オリジナルの呼び方です。

──森下仁丹では2017年に第四新卒の採用を行い、10人の方が入社されたと報道されています。なぜ、第四新卒を採用しようと考えたのでしょうか。

北川 当時、40~50代のマネジメント層が圧倒的に不足していたからです。創業以来の主力商品だった銀粒仁丹ですが、1980年代に他社のガムやミント菓子などに押され、ニーズが右肩下がりになりました。そして2000年代初頭になると売り上げは大きく落ち込み、全社の業績も下がった結果、幹部候補を含めた人材が少なからず流出したのです。その後は業績が回復し従業員数も増えたのですが、2010年代半ばになると管理職を務められる40~50代の社員が足りなくなりました。それが、第四新卒の採用に取り組んだ最大の理由です。

──この世代の人材不足を補うため、中途採用はしていなかったのですか。

北川 部長クラス、課長クラスの人材は積極的に採用してきました。ただし第四新卒採用を行うまでは、毎回1人ずつしか採用しなかったのです。経営層や人事としては、せっかく外から採用したのだから、当社に新風を吹き込んでほしいもの。でも、1人だけでは自部門内の改革はできても組織全体には浸透できず、埋没してしまいがちでした。そこで、「組織横断的な改革ができるようにいっそのこと、一度に10人くらい採用してみてはどうか?」という意見が持ち上がったという流れです。

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第四新卒採用の特設サイトに掲載されたメッセージ。何らかの事情で実力を発揮できずにいるベテランビジネスパーソンに、強く訴えかける内容だった。

採用者の多くが重要ポストで活躍した「成功ドラフト」

──当時の選考方法について教えて下さい。

北川 大々的に募集広告を打ったところ、約2200件のエントリーがありました。書類選考で200人に絞り込んだ後、4次にわたる選考を行って、最終的に10人を採用しています。
実は、当時の代表取締役社長だった駒村純一(現特別顧問)は、1次からほとんどの面接に顔を出していました。それほど第四新卒採用には、経営トップが力を入れていたのです。

──選考の際にはどんな点を重視していたのですか。

北川 配属される各部門から要望されていた経験値と業務スキルに達しているかどうかが、最重要ポイントでした。そこで面接では、プロジェクトリーダーの経験があるか、もしあるなら何人くらいのメンバーを率いたのか。新規事業の企画を経験したことはあるかなど、管理職に役立つ経験の有無を確認するようにしていましたね。
これは当社の社風だからかもしれませんが、部長席にどっしり座っているタイプは求めていませんでした。それより、現場に飛び込んで陣頭指揮をとり、メンバーと一緒に汗をかける人を探していたと記憶しています。

──その時採用した10人の年齢層はどのあたりでしたか。また、今でも在籍しているのは何人でしょうか。

北川 採用活動を始めた際には、40代から50代半ば、ポストでいえば本部長、部長、課長あたりを担える人を求めていました。実際に採用したのもその世代が一番多かったのですが、38歳と60歳の採用者もいました。
10人のうち、7人が今も活躍中です。そのなかには、研究開発部長や他社とのコラボレーションを担う事業部門の事業部長など、当社の主要ポストを担っている人もいます。また、辞められた3人のなかには、60歳で入社してすぐに定年になり再雇用という形で65歳まで働いた後、先日退社された方もいました。多くの方に活躍していただけて、このときの採用は本当に大成功だったと思います。

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当時の募集要項。ポストをあえて限定せず、可能性を秘めた人材を幅広く集めることに注力していた。

あえて中途採用者を自社の「型」にはめなかった

──第四新卒で採用した方々が大活躍されたということは、当時の書類や面接での見極めが素晴らしかったのでしょうね。

北川 それもあるかもしれませんが、前職で力を発揮できていなかった人にのびのびと働けるポジションを用意したことも大きかったと思います。自分のやりたいことを実現できずにくすぶっていたところ、森下仁丹というキャンバスを得て存分に好きな絵を描けるようになったと感じている人が多いのではないでしょうか。

──外部から10人の方が入ってきた際に、彼らの力が最大限発揮できるような工夫はしたのでしょうか。

北川 特別に何かをした記憶はありません。2000年前後の頃の当社では新卒入社者が大半でしたが、その後は中途入社者が増えていきました。駒村自身も、総合商社から当社に転身した中途入社組だったのです。そのため、中途入社者を拒絶するような雰囲気はありませんでしたし、自然に仲間として受け入れていたと思います。

──人事の世界では、採用した人が入社後すぐ定着し、活躍できるようにする取り組みを指す「オン・ボーディング」という言葉が流行しています。しかし北川さんのお話を伺うと、森下仁丹では特別なオン・ボーディング施策は打たなかったということですね。

北川 「森下仁丹のルールを守れ」と押しつけることは避けました。第四新卒で入社された方々には、それぞれバックボーンや得意分野がありました。そうした人を当社の「型」にはめてしまっては、意味がないと思ったのです。大きな裁量を与えて自由に仕事をしてもらい、当社に新しい風を吹き込んでもらうのが目的でした。
新しい料理を作るには、新しい調味料を使うのが一番です。第四新卒で入った方々に個性を発揮してもらったからこそ、当社は生まれ変われたのかもしれません。

「ポスト優先」ではなく「人物優先」で採用

──2017年の第四新卒採用時には、当時の駒村社長が陣頭指揮をとっていたということでした。他の経営層の方々は、どのように関わっていたのでしょうか。

北川 駒村だけが旗を振っていたわけではありません。当時、専務取締役だった現社長や本部長クラスの人も、駒村と一緒に採用活動を引っ張っていました。

──経営層が強い意志を持って第四新卒の採用に取り組んだのはなぜでしょうか。

北川 会社全体に、強い危機感があったからだと思います。第四新卒採用の旗振り役には、駒村のような中途採用組だけでなく、当社のプロパー社員もいました。彼らのなかには、「ここで変わらなければ、森下仁丹に未来はない」という熱い思いがあったのでしょう。それが他のメンバーにも、メッセージとして伝わっていましたね。

──企業が中途採用をする場合、採用したいポストに見合う人物を探すケースが多いと思います。もちろん御社にもそうした考えはあったでしょうが、一方で、「会社を変えてくれる人物」を求める側面もあったのでしょうか。

北川 確かに、それはあったと思います。たとえば60歳で入社された方は、前職で長年、新工場の立ち上げなどに携わってきました。当時の当社には新工場建設の予定などなく、その方を採用してもポジションは与えられない状況だったのです。でも、その方に任せる仕事があるのではないかと考え、採用に踏み切ったのです。

──1人だけの採用だと、人物優先の採用は難しかったように思います。でも一気に10人採用したからこそ、ポストにとらわれない柔軟な採用ができたのかもしれませんね。

北川 仰る通りです。「まずは10人ぐらい採用してみよう」というスタンスだったからこそ、すぐに用意できるポストはなくとも、将来性に期待して採用する余裕が生まれたのだと思います。

──大成功を収めた第四新卒採用ですが、その後、同様の取り組みは行っていますか。

北川 いいえ。今は、20~30代の採用に力を入れており、40~50代をまとめて採用することはしていません。本部長、部長、課長クラスの人材は第四新卒でかなり充足できましたので、これからは組織の必要に応じ、単発で中途採用を行っていくつもりです。

〈インタビューを終えて〉
「中途採用者は組織に埋もれる」、こうした企業の課題を耳にする。この課題に対して、森下仁丹では、次のような工夫が見られた。第1に、中途採用者を一気に獲得することである。採用は慎重になりがちだ。しかし、一気に多くの人材を獲得することで組織の雰囲気をガラリと変えることが可能となる。第2に、中途採用者が自由に活躍できる環境の提供である。知らず知らずのうちに中途入社者を自社の「型」にはめがちであるが、それでは中途入社者を採用する意味が薄れてしまう。彼ら彼女らの持つ能力が発揮できるよう、自社の型は最小限に留めなければいけない。第四新卒採用という森下仁丹オリジナルの取り組みから約6年、そこで獲得した人材が現経営の一翼を担っている。

聞き手:千野翔平(研究員)
執筆:白谷輝英

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