転職により仕事の満足度はどのように変化するのか?

2023年03月29日

第4回第5回のコラムでは、賃金に着目しながら、転職の実態についてみてきた。転職における賃金の変化は重要な要素のひとつであり、そのために転職をする者もいるだろう。しかし、転職では賃金だけでなく、当然ながら、仕事内容や勤務地、職場の環境、同僚が変わる。そして、それらが変わることにより、仕事に関する満足度も変化するだろう。そこで、本コラムでは、転職により仕事満足度がどのように変化するのかについて、リクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査(JPSED)」をもとにみていく。

JPSEDでは、「仕事そのものに満足していた」について、どの程度あてはまるかを5段階で尋ねている。これについて、2021年の満足度が前年の2020年と比較して高まった場合を「改善」、低まった場合は「悪化」とし、2020年から同じ仕事を続けている者(継続者)と、退職経験があり2021年に新しい仕事に就いた者(転職者)について、年齢別に比較してみよう(図表1)。

転職者の満足度は改善傾向

図表1をみると、転職者については、満足度の改善の割合が、継続者と比較して高い傾向がみられる。全体をみると、改善の割合は、転職者は35.1%、継続者は21.7%と、2021年転職者は継続者と比較して、10%pt以上改善の割合が高くなっている。また、転職者を年齢別にみると、15~24歳や、25~34歳といった比較的若い層で改善の割合が高いが、55歳以降でその割合がやや低くなる。また、35歳以降については、継続者と比較して悪化の割合もわずかに高くなり、55歳以降でさらにやや高くなる傾向がみられる。

図表1 2020年から2021年の満足度変化の年齢別割合(転職者と継続者別)

図表1  2020年から2021年の満足度変化の年齢別割合(転職者と継続者別)

注 集計対象はJPSED2021および2022の回答者で、2020年と2021年に少しでも働いた者。xa22_l21を使用したウエイト集計を行っている。また、%を表示する際に小数点第2位で四捨五入しているため、%の合計が100%と一致しない場合がある。

このように、転職者の仕事満足度は継続者と比較して改善傾向にあるが、年齢によりやや違いがみられることも確認された。このような背景には何があるだろうか。たとえば、第5回のコラム「転職時の年齢が高いほど、年収が下がるようにみえる要因」では、転職による年収の変化は転職理由により異なることが指摘されているが、転職後の満足度も転職理由により異なる可能性が考えられる。また、転職理由は年齢により傾向が異なり、若年から40代は「不満不安」が最も多く60%以上を占め、50代は50%以上と約半分、60代以上になるとわずか13.3%となり、かわりに「会社都合」の占める割合が76.9%と最も高くなる(図表は割愛。詳細は、第5回コラムの図表2を参照)。転職者の満足度の変化が年齢により異なる背景には、こうしたこともあるかもしれない。そこで、転職理由別に転職者の仕事満足度についてみてみよう(図表2)。

「不満不安」による転職は満足度改善の傾向が強い

図表2をみると、転職理由により満足度の変化が異なっており、改善の割合が最も高いのは「不満不安」(40.1%)であり、次いで「その他」(38.5%)、「イベント」(35.8%)と続き、「会社都合」(27.6%)が最も低くなっている。一方で、悪化の割合は、高い順に、「イベント」(26.8%)、「会社都合」(25.4%)と「その他」(25.4%)、となり、「不満不安」が最も低い(22.9%)。これらの結果より、図表1で年齢が高くなると転職者の満足度改善割合がやや低くなるのは、年齢が高くなると「不満不安」が減り、「会社都合」が占める割合が高くなるためだと考えられる。

図表2  2020年から2021年の満足度変化の転職理由別割合(転職者)

図表2 2020年から2021年の満足度変化の転職理由別割合(転職者)

注:集計対象やウエイトは図表1と同様。 
「会社都合」は定年や契約期間の満了、解雇などを含む。「不満不安」は賃金、人間関係、労働条件や仕事内容への不満を含む。「イベント」は病気や出産、育児、介護などを含む。
  

このように、特に転職理由が「不満不安」の場合は満足度に改善の傾向がみられたが、「不満不安」については、「早期退職」「賃金への不満」「労働条件や勤務地への不満」「人間関係への不満」「仕事内容への不満」「会社の将来性や雇用安定性への不安」にさらに分けてみることができる。そこで、これらの詳細別にも満足度の変化をみてみよう(図表3)。「早期退職」はサンプルサイズが小さいので、図表からは割愛するが、改善の割合は「賃金への不満」で最も高く、49.3%と約半分の割合を占めており、続いて「人間関係への不満」39.2%、「仕事内容への不満」39.1%、「労働条件や勤務地への不満」35.4%、「会社の将来性や雇用安定性への不安」34.3%となっていた。ただし、「会社の将来性や雇用安定性への不安」については悪化の割合も35.8%と高く、二極化している傾向がみられ、「不満不安」についても、具体的な理由の詳細をみていくと、やや異なる傾向があることがわかった。

図表3  2020年から2021年の満足度変化の不満不安の理由別割合(転職者)

図表3  2020年から2021年の満足度変化の不満不安の理由別割合(転職者)

注:集計対象やウエイトは図表1と同様。


本コラムでは仕事満足度に着目し、転職者の仕事満足度がどのように変化するかをみてきた。しかし、仕事満足度と一言でいってもそこにはさまざまな要素が含まれているだろう。たとえば、仕事内容そのものや、成長機会、労働時間や休日の状況なども満足度と関係していることが考えられるが、転職によりそれらがどの程度改善されたかや、転職の際にどういった点を重視していたかを確認することができれば、転職前後の満足度についてより詳細にみていくことができるだろう。「『労働移動』を再考する」プロジェクトでは、それらに関して追加調査を行っており、今後はその調査を使用して、転職前後の変化についてさらに詳細を明らかにしていきたい。

大谷碧(研究員・アナリスト)

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