人手不足への企業の打ち手は何か ―採用条件の思い込み―
第5回、6回コラムでは「全国就業実態パネル調査(JPSED)」を用いて、労働者の側から労働移動にまつわる疑問についてみてきた。
これらに解を示していくためには、労働移動の受け手となる企業側からも、なにが人々の労働移動を阻害しているのかをみていく必要がある。そこで、本コラムでは、企業のどのようなことが人々の労働移動を阻害するのかについて、企業や業界団体へのヒアリングからみえてきた実態とその取り組みを紹介する。
中途採用に潜む思い込み
企業における人手不足は、業種や企業規模を問わず深刻化しており、人材の獲得に向けて熾烈な競争を強いられている。事業を担う人手不足は「目の前の業務が滞る」「新規事業への投資ができない」「技術・ノウハウの伝承が困難」といった事業継続に深刻な影響を及ぼしつつある。働き手が減少する昨今、企業にはこれまでとは異なる取り組みが求められている。
取り組みのひとつとして、採用条件を変更することが考えられるが、簡単なことではない。なぜなら、採用条件には、企業が形づくってきた「思い込み」が組み込まれているからだ。
たとえば、仕事と年齢を紐づけすぎる、「女性(男性)には向かないだろう」というように性別から連想される役割意識、経歴のブランクや転職回数が多いと「長続きしないだろう」といった思い込みがある。図表1はその一例だ。
図表1 中途採用における思い込み例
繰り返しになるが、今後、労働力人口は減少し、働くことに対する価値観の多様化も進むと考えられ、企業の人手不足はますます拍車がかかると予想される。中途採用に対する思い込みは、人材確保の厳しい状況をさらに厳しくしてしまう恐れがある。
思い込みを見直し、仕事の再設計を
ここまでみてきたように、企業がこれまでと変わらない採用条件を掲げるのであれば、働く人の移動状況も変わらないだろう。これは企業の人手不足も変わらないことを意味する。
企業ヒアリングからみえてきたのは、一部の企業では、これまでの思い込みを克服し、単に人手不足を補うだけでなく、新たなビジネスにもつなげようとする傾向にあることだ。こうした企業の出現は、思い込みを排して人材と向き合おうとする姿勢の表れと言えそうだ。
人材と向き合う企業の共通点は、これまで採用ターゲットではなかった人材であっても、その人のもつ能力を十分に発揮してもらえるように、一人ひとりが担う業務や職務を再設計し、それに合わせた職場環境に整備していることである。
企業が多様な人材が活躍する職場づくりに取り組むことは、深刻化する人手不足への解決策のひとつとして有効な手立てとなり得るとともに、主体的な意思をもつ労働者が活躍できる社会にもつながるだろう。
今後のプロジェクトでは、企業に根強く残るさまざまな思い込みをどのように乗り越えたのか、乗り越えた先でどのような果実を手にしたのか、具体的な取り組みをみていく。
千野 翔平(研究員) 橋本 賢二(研究員)