転職時の年齢が高いほど、年収が下がるようにみえる要因

2023年03月22日

転職には適齢期があり、年齢を重ねるほど不利になる――。転職年代別の転職前後の年収変化の数値を材料に、そのような議論がなされることがある(※1)。実際に「全国就業実態パネル調査(JPSED)2022」で集計してみると(図表1)、特に35歳を過ぎたところで、転職1年目の平均年収が転職前と比べて低くなり、その傾向は年齢が上がるほど顕著になる。これがいわゆる「35歳転職限界説」を支持する結果にもみえる。しかしながら、転職時年齢と年収変化の関係は、そんなに単純ではない。本コラムでは、転職時の年齢が高いほど、年収が下がるようにみえる要因を、2つの側面から解いていきたい。

図表1 転職年代別の転職前後の平均年収と変化

転職年代別の転職前後の平均年収と変化

注:分析対象は、調査前年の2021年に転職を経験した前職正社員の男性。クロスセクションウエイト(XA22)集計。

年齢とともに高まる「会社都合」転職

ひとつ目は、なぜ、転職するのか。転職による年収変化(転職効果)は、転職理由によって異なるだろう。賃金や労働条件、仕事内容など、現状の不満を解消する環境を求めて、自ら積極的に行う「不満解消」のための転職に比べると、解雇や会社の倒産、退職勧奨といった「会社都合」の転職は、転職後の年収が下がる傾向がある。転職年代別の転職理由をみると(図表2)、年齢が高くなるほど「不満解消」の割合が減る一方で、「会社都合」の割合が高くなっている。つまり、冒頭(図表1)で、年齢が高いほど転職後の平均年収が低くなっていたのは、「会社都合」といった転職理由の高まりが要因になる可能性がある。

図表2 転職年代別の転職理由

図表2 転職年代別の転職理由

注:「全国就業実態パネル調査2022」(分析対象やウエイトは図表1と同じ)で集計。

転職といっても一様ではないのは、自分の周りを思い浮かべれば、そりゃそうだと合点がいくかもしれない。先述の転職理由だけでなく、業種や職種、地域や転職活動のやり方によっても、転職効果はそれぞれ異なるはずだ。これが2つ目の要因である。つまり、多様な転職を無視して効果を「平均」でみることで、違いが埋もれてしまうということだ。

これら2つの要因を調整したのが図表3である。まず、転職理由によって年収変化が異なることを考慮して、自ら積極的に行う「不満解消」転職に限定した。加えて、転職前後の年収変化を、平均ではなく、「10%以上増」「10%以上減」とその間の「変化±10%未満」の3つの割合で比較した。なお、「不満解消」転職の割合が少ない60代以上は、集計結果に信頼性がなくなるので、非掲載とした。

年齢が高くても変化に幅あり

まず、転職年齢が低いほど「10%以上増」の割合が高く、逆に「10%以上減」の割合が、転職年齢が上がると高くなる傾向がわかる。しかしながら、各転職年代で、転職効果が分散していることが興味深い。たとえば、平均でみたときには年収が下がっていた35~39歳の転職でも「10%以上減」は3割程度に留まっていて、2割が「10%以上増」であり、5割は変化の幅が10%以内である。年齢を重ねても、転職後の年収変化に幅があることが確認できる。

図表3  年代別の転職前後の年収変化

図表3 年代別の転職前後の年収変化

転職は多様である――。本プロジェクトでは、その前提を踏まえたうえで、それぞれの違いに着目し、転職の実態や効果を解析していく。平均ではみえなかった、主体的な労働移動を阻害する要因を、明らかにしていきたい。

萩原牧子(調査設計・解析センター長/主幹研究員/主幹アナリスト)

 

(※1) 本コラムは、転職時年齢と年収の関係を伝えるべく、2016年に公表したコラムの分析を、別調査の最新データを活用し、一部対象を変更して再集計したものである。

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