企業編(2)個人と企業の「生き生き働く」を繋ぐ

個を活かすGoogleの取り組み

2020年02月07日

第1回では、企業が個人の「生き生き働く」について考える必要性と、その実現の難しさとして働くニーズの多様さについて言及した。
個の時代といわれる現在、一律ではない個人のモチベーションを企業がマネジメントすること自体が現実的ではなくなってきている。
では、企業はどのように個人に働きかければ良いのだろうか。

第2回では個人が「生き生き働く」ことを実現している、Googleの取り組みを見ることから、そのヒントを探りたい。

以下の内容は、2019年10月29日に開催したイベント、「Works Roundtable 2019」にて、「生き生き働く」をテーマに、グーグル合同会社 人事部長の谷本美穂氏にご講演いただいた内容を、弊所で編集したものである。

谷本さん(プロフィール写真)3.jpg【プロフィール】
谷本美穂(たにもと・みほ)グーグル合同会社 人事部長。
慶應義塾大学卒業後、2000年GEに入社。HRリーダーシッププログラム、HRBP、日本GEの採用や組織開発マネジャーなどを歴任し、18年にわたりグローバルリーダーシップと組織開発に携わる。2011年に米国GEグローバル本社の人事部門に異動、世界30カ国から選抜された次世代グローバルリーダー開発を担当。2016年よりGEジャパン株式会社執行役員人事部長。2018年より現職。イノベーションを起こす組織づくりを推進する。

会社と個人の自律した関係

Google社員は、生き生き働いているのか

Googleでは毎年、社員エンゲージメントサーベイを行っています。社員からの発言を大事にする会社なので、サーベイにはとても力を入れていて、回答率は非常に高く、ほぼ全従業員が参加しているサーベイです。

Googleのミッションに共感している、会社の戦略はミッションの実現に繋がっている、 自分はこの組織にインクルージョンを感じている、上司は私を人として尊重してくれる、などの質問項目は高い得点をとっています。インクルージョンのような課題は100%を得られるまで、努力を怠ってはいけないと思っていますが、サーベイ結果や、日常の社員の様子からも、Googleの従業員の多くは生き生きしていると感じています。

なぜ生き生き働ける? 〜ベースとなるカルチャー

Googleのミッションである「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」は、社員であれば言えない人はいないくらい徹底されています。Googleに入って何をしたいのか、どのミッションに共感し、どう実現したいのかは、個人のエンゲージメントを考えても非常に重要なことと捉えています。

Googleのカルチャーとして極めて重要なものに、「透明性」「発言」「多様性」が挙げられます。

マネジメントは「透明性」を持って社員を信頼し、できる限り情報をオープンにシェアすることを、非常に重視しています。例えばビジネスリーダーは頻繁に全社員ミーティングを開催し、タイムリーに全社員にシェアしています。一方的な情報提供ではなく、社員からの活発な双方向のコミュニケーションを大事にしています。全社員ミーティングのような大きなセッションでも最後の20~30分間は社員からの質問タイムに必ずあてられていて、CEOは社員からの厳しい質問に真摯に答えています。会場外のどこからでも質問を送ることができ、その際誰一人として匿名で行う人はいません。こうした「発言」の機会と「透明性」は、個人と会社の対等な関係の実現につながっていると思います。

「多様性」ある人たちが多様な意見を持って、率直な対話をしていく。会社は、社員を信頼して自由を与える。これが、緊張感のある「生き生き」につながっているのではないかと感じています。
このように、Googleにおいては会社と個人が自律した対等な関係にあります。人事制度に関しても一斉人事異動はなく、異動は社員自身が主体的にジョブを選んで公募にアプライするのが基本です。また、強いチームを作るのはマネジャーの責任です。私たち人事の役割は、マネジャーが強いチームを作るのを助け、同時に社員の自律と成長を促すための仕組みづくりを行うということになります。

「生き生き働く」をビジネス成果に結び付ける

私は、誰もが会社に貢献したいと思っていると信じています。社員がパフォーマンスを出せる環境を作るには、ゴールを共有することが大事です。OKR(※)に注目が集まっていますが、前述のCEO自らが戦略を語る、社員の声や質問に耳を傾けるという行為は、OKRにも非常に効果的です。会社の方向性がクリアであるため、社員は自分が何をしたら貢献できるのかがわかりやすく、かつ貢献の自由度も極めて高い。自分が何をすれば貢献できるか、評価されるかがわかりやすく自由度も高いと、それが「生き生き」につながるのだろうと思います。ゴール設定で狙うのは、アンビシャスかつアンカンファタブルなレベル。目標を個人の力量の150%、200%のストレッチゴールにするのです。また、そもそも解決したい大きな課題は何だろうと、課題から入るのです。すると、その手の届かないところにたどり着くためにはどんな新しい工夫をしたらいいのかという多様な対話が生まれる。これを通じて社員やチームが主体的に新しい工夫を考えることを促されます。

ゴール設定の次に大事なのは、マネジメントです。people analyticsのスタディでは、ハイパフォーマンスなチームのマネジメント行動として、10の行動が明らかになりました。重要度の高い順に並んでいるのですが、興味深いのは上位に「良いコーチである」「チームに任せ細かく管理しない」「インクルーシブなチーム環境を作る」などが並び、最後の方になってやっと「技術スキルがある」が出てくること。人を活かし育てるマネジャーこそが、メンバーを生き生きさせられるということなんですね。これを意識付けるために、年に2回マネジャー・フィードバック・サーベイを実施しています。義務付けてはいませんが、このスコアを自分のチームにシェアする人も多い。改善課題についてオープンに対話し、アクションを起こすことが大事だと考えているのです。

そして最後が、チームの働き方。ここで大事なのは、本音で語り合える心理的安全性でしょう。前述のpeople analyticsのスタディでも、パフォーマンスの高いチームは、優秀な人たちの集まりであること以上に、どのように働いているかが大事なことであり、なかでも一番大事な要素は、チーム内に心理的安全性があることだという結果が出ています。心理的安全性という言葉はよく使われますが、高い目標を達成するためにお互いを信頼して反対意見でもタイムリーに話せる、一緒になってリスクを取ることであって、そこには結果へのコミットがあります。ただ言いたいことを言えばいいというわけではないと思っています。

Google社員の日常には、「これをしなければいけない」と感じさせる強制はありません。仕事をする時間、場所、会議の参加の有無、会議の頻度、研修への参加など、ほとんどすべての活動に徹底した自由が与えられ、個々の意思でもって行われています。情報をタイムリーに透明性をもってシェアした上で、どのように成果を出すかは自分で選択、実践でき、公正にパフォーマンスが評価されます。キャリアと学習も、自分でデザインすることが基本となります。自由とは「やらされている」感がなく、自分がやると選んでやっているということです。

したがって人事の役割は、OKR、パフォーマンスマネジメント、その他Googleカルチャーと整合的な人事システムの発展と運用を通じて社員の貢献が会社のミッションにつながるように促すこと、また、マネジャーと個々の社員の成長を促すことにフォーカスしています。

社員個々の成長については、基本的に自分のキャリアは自分でデザインするという自律型のキャリア形成が前提です。ジョブについては、社内サイトに、今オープンしている世界中のポジションが出てくるようになっています。Googleらしいのは、20%プロジェクト(勤務時間のうち20%を使う)、6カ月間のショートタームアサインメントなどさまざまな形の公募があること。挑戦したい、キャリアやスキルを広げたいというときに非常に有効だと思いますね。

※ OKRとは、目標の設定・管理方法のひとつで、Objectives and Key Results(目標と主要な結果)の略称。

変わらないGoogleらしさと未来に向けたバリュー

谷本さん(文中写真)1.jpgGoogle社員の成長を促すことに関して大事にしているのは、「グロースマインドセット」という考え方です。失敗したときに自分は駄目だと思ってしまうフィックストマインドセットではなく、失敗は学びと成長のチャンスと捉えるグロースマインドセットこそ大事で、「自分にチャンスが来たらまずイエスと言いなさい」と教えています。

今やGoogleも世界10万人の会社になり、社員数はこれからも増えていきます。これからさらにグローバル化していくとき、どのようなバリューや行動がGoogle社員同士をつなげていくのか、社内で明文化を始めています。その中で強調したいことは二つあります。一つは、反対意見を歓迎すること、それも上の人から下の人に意見を求めることです。やはりマネジャーの方から本音の意見を求めないと、下の人はなかなか話してくれません。そういうフラットな関係を保てるマネジャーの存在はGoogleに欠かせないものだと思います。

もう一つは失敗を許容すること。失敗に注目せず、チャレンジすることに注目すること。先ほどのグロースマインドセットのように、失敗は学びと成長のチャンスだという目で自分のチームを見られるかどうかは、特に心理的安全性に大きく影響するところではないかと思っています。

生き生き働くために大切なこととは

最後に、自分自身の経験を振り返って、生き生きと働くために何が大事なのかということを考えてみたのですが、要は、主体的な貢献なのだと思います。GEでもGoogleでも、自分で選んで、自分で決めて、自分がやるというこのシンプルさを、会社の仕組みとして追求してきました。

私が日頃社員に期待していること、もしくはコーチングの中で言っていることの一つは、まずは自分を知り、何で貢献できるかを考えて、自分で考えて自分で選ぶということです。生き生き働くことは、そこから始まるのではないかと思います。誰かに言われてやっているのではなく、自分が何をしたいか。でも「したい」だけでは駄目で、貢献しなくてはならない。自分のしたいこと、自分が貢献できる価値が何なのかを見つけること。それを実現させていくうちに周りから信頼されるようになり、自分の望む生き生きとした働き方につながっていくのではないでしょうか。

執筆/荻原美佳(ウィズ・インク)
※所属・肩書きは取材当時のものです。