個人編(3)「私」個人の「生き生き働く」を考える
「私」の中の「生き生き働く」成分を満たす
これまでの連載では、「生き生き働く」状態が人によって全く異なること(第1回)、自分の大事にする「生き生き働く」成分の見つけ方(第2回)を記した。自分の「生き生き働く」成分が現在満たされていない場合、どうすれば、自分に合う働き方に変えることができるのだろうか。働き方を変えるには、会社や上司のサポートも必要だが、自分自身でできることもありそうだ。第3回の今回は、自分なりの「生き生き働く」を実現している4人の行動に焦点を当てる。4人に共通しているのは、これまでのキャリアにおいて、生き生きと働けていなかった時期があるということだ。彼・彼女たちは、どのようにして自分に合う働き方を見つけ、働き方を変えたのだろうか。
生き生き働いていないと感じたとき、変えるために取った行動
インタビューした4人は、職業も「生き生き働く」成分もさまざまな人たちである。これまでの働き方を彼・彼女たちに振り返ってもらい、生き生き働けていない時期はあったのか、あったとすればそのときの状態と、自分が大切にしたい成分を満たすために取った行動を聞いた。インタビューした結果をまとめたのが、表1である。
表1 自分なりの「生き生き働く」状態を実現した4つの事例
「生き生き働く」環境を作るヒント
事例では、さまざまな生き生き働けない場面における、個人が取った行動のバリエーションがみられた。彼・彼女たちの行動から、共通する部分を拾い出してみよう。
仕事の目的を意識した
・Aさんは、特定の顧客担当者との関係でモチベーションを下げつつも、提案する施策、開発するツールは「顧客」のためになるものでなくてはならない、という点を忘れなかった。そのため新たな行動に移すことができた。
・Dさんは、子どもたちに楽しい場所を提供することを第一の目的とし、サッカーをやりたがらなかったり、うまく蹴ることができなくても見守ることにした。そうすることで、子どもが自ら取り組もうとし始めたときにやりがいを感じることに気づいた。
自ら希望を発信している
・Bさんは、自分がしたい「作る仕事のできる部署」の上長に自ら交渉して、希望の仕事を勝ち取った。
・Cさんは、自分がしたいことを内に秘めずに周囲に発信し続けることで、学生と直接やり取りがある部署への異動を実現した。
自分の気持ちに従って行動している
・Bさんは退職した後、好きだった似顔絵やイラストを描いて編集部に売り込んだ。それが後にウェブサイトのイラストを作成する仕事につながり、ホームページ全体の制作および最初の仕事経験を活かしたオフィスレイアウトの変更をプランニングする会社設立への布石となった。
・Dさんは、サッカー好きな自閉症の子どもと出会い、その子と一緒にサッカーをしたいと思った気持ちに従って行動することで、それまで存在しなかった、障害のある子どもがスポーツをできる場を作り出した。
ここで紹介した4人が、自分が大切にしたい「生き生き働く」成分に気づいたタイミングは、合わない仕事に変わったとき(BさんとCさん)、反対に、合う仕事に変わったとき(Dさん)、あるいは自分に合う仕事の進め方をできないとき(Aさん)だった。全員バラバラのように見えるが、いずれも、仕事における何かしらの変化がきっかけとなっている。
「生き生き働く」成分を満たす方法は、行動を変えることと意識を変えることの、2パターン見られた。自分の仕事が誰の役に立っているのかを意識したり、自分のしたいことや希望を周囲の人たちに伝えたり、自分の気持ちに従って行動したり。いずれも、自らの意識やアクションにより、その人なりの「生き生き働く」を実現していた。
これまで、3回にわたって「私」という個人に焦点を当て、生き生き働くために自分ができることを考えてきた。第1回では、個人によって「生き生き働く」は多様であること、だからこそ、自分だけの「生き生き働く」成分を見つけるために、働きやすいと感じる状態(How)や働きがいを感じる場面(WhyやRelation)の特定が必要であることを述べた。第2回では、個人が「生き生き働く」成分を見つけるには、キャリアアドバイザーが提案するように、仕事内容の細分化も効果的であることを述べた。そして第3回の今回は、業務の内容や進め方が変わったときに感じる違和感を大切にして、自分の「生き生き働く」成分を満たせるよう行動することの大切さを述べた。これらにより、すぐにできることから大きな一歩まで、個人でもできることがありそうだということが明らかになった。
もちろん、「生き生き働く」成分の中には、自分一人ではかなえられないものもある。正当な評価制度、理解のある上司、勤務時間・場所の自由度などは、個人の行動のみで生まれるものではない。個人の「生き生き働く」をサポートするために、企業にできることは何なのか。次回より、企業編として、従業員の多様な「生き生き働く」観になかなか応えられない企業の状況と、企業として取り組める支援策について検討を進める。
文責 石川ルチア