個人編(2)「私」個人の「生き生き働く」を考える
プロに学ぶ~「私」の「生き生き働く」成分の見つけ方
第1回では、「生き生き働く」ことについて、ベースの条件(給料、勤務場所、健康など)を重視する人もいれば、How(自分のペースで働ける、在宅勤務の選択肢、チャレンジできる環境など)を重視する人もいるなど、「生き生き働く」成分の傾向が多様であることを示した。そして、どの成分が満たされれば生き生き働けるのかは、自分にしかわからない、と紹介した。
しかし、自分の「生き生き働く」成分をすべて挙げられる人はどれくらいいるだろうか。人はどのようなときに仕事のやりがいを感じるのか、いつ持ち味が発揮できていると思うのか、どのような場面で居場所があると思うのか、これらのことをどのように自覚するのだろうか。
第2回では、自分でもまだ自覚していない成分を見つける方法を、プロの話をもとに考えてみよう。
キャリアアドバイザーが見つけた「仕事の要素」とつながっている「生き生き働く」成分
個人がどのように働きたいか、それはどうすればかなうのかということに日々向き合っているキャリアアドバイザー(以下CA)の6人に話を聞いた。
いずれも、常時100人以上の転職志望者を受け持っているプロフェッショナルたちだ。彼・彼女たちは、求職者が自覚している希望条件の他に、話の端々に表れる要素を引き出し、適した業界や職種、働き方を助言する。プロの経験談を参考にしながら、「私」の「生き生き働く」成分を見つける方法を考えていこう。
ケース1:過去の経験から「生き生き働く」成分を見つける
図1は、プログラマーAさんの経験とCAによる見立てを図表化したものだ。
図1
このケースでは、Aさんが学生時代に情熱をかけた活動に注目し、仕事における得意・不得意と共通する部分を探し出した。その結果、Aさんの「生き生き働く」成分として「ゴールが明確にある」「チームで働く」「フィードバックがある」が浮かび上がった。このように、社会人になる前の経験の中に、「生き生き働く」成分の原型が眠っていることもある。
ケース2:サブの仕事経験に注目してみる
例えば、教師にとってメインの仕事は教えることだが、他にも多様な役割を担っている。そして、それぞれの役割に異なる仕事の要素(スキル)が含まれている。サブの仕事の一つである進路相談の際は、生徒一人ひとりと向き合う「1対1の寄り添い型マネジメント」を行っている。この要素から得られる「生き生き働く」成分は、「生徒の成長」を見守ることや、生徒との「つながり」、生徒からの「信頼」など人によって違うだろう。教師のサブの仕事とそれに含まれる仕事の要素、「生き生き働く」成分には、図2のようなものが考えられる。
図2
メインの仕事でも、各生徒の理解度に教授法を合わせる要素に長けている人なら、創意工夫の権限が与えられることが「生き生き働く」成分かもしれない。楽しい授業を提供する要素に情熱を傾ける人なら、生徒や教師仲間からの授業に対する反応が「生き生き働く」成分かもしれない。
他の職業でも、同じように考えていける。例えば、運送ドライバーは荷物を届けるというメインの仕事の他、配送先を回る効率のよい順番を組み立てる、お得意先のニーズに気づいて新たな受託につなげるといったサブの仕事がある。これらは工程管理やルートセールスの要素であり、得られる「生き生き働く」成分は全体の把握、自分に裁量がある、顧客への貢献感、人とのコミュニケーション、といったものかもしれない。
自分が仕事だと思わずに何気なくやっていることも含めて、業務におけるサブの仕事の要素にも着目すると、新しい「生き生き働く」成分に気づける可能性がある。
ケース3:「生き生き働く」成分を細分化する
成分がわかっているのに生き生き働けていないという場合は、その成分の抽象度を下げるとより明確に特定できることがある。例えば、「誰かの役に立っている」という貢献感は、多くの人が仕事に求めるものだが、仕事によって貢献の仕方にも幾通りかある。一つの分け方として、「仕掛け型」と「受け止め型」がある。自分から積極的に動いて相手に変化を起こすのは「仕掛け型」。助けを求めてきた人に寄り添ってニーズに応えるのは「受け止め型」と言える(図3)。
図3
誰かに貢献する仕事の中でも、自分に適した働き方に変えることで「生き生き」を実感できるかもしれない。
私の「生き生き働く」成分を定期的に振り返る
ここまで、CAの経験談を参考にして、「生き生き働く」成分の見つけ方を考えてきた。ただ、これらの成分は、年齢や生活形態、会社でのポジションなど、個人の変化とともに変わっていく。独身のときは「成長感」を重視して寝る時間も惜しんでスキルアップに時間を割いていた人が、結婚後に「ワークライフバランス」を重視するようになることは少なくない。異動、転職、昇進、プライベートでの変化といった大きな節目だけでなく、一つのプロジェクトが終わったタイミングなど、時々振り返って自分の成分をアップデートするといいだろう。現在の自分に欠かせない成分をいつも自覚できていれば、生き生き働けていないと感じたときに、欠けている成分を補うなど、対応しやすいのではないだろうか。
次回は、考え方や働き方を変えることで「生き生き働く」を実現した個人のストーリーを紹介し、「私」自身が「生き生き働く」ためにできることを考える。
文責 石川ルチア