目前に迫る「物流クライシス」、自動化による三重苦からの解放
【まとめ】自動化・機械化による働き方の進化 運輸編(前編)
「2024年問題」が目前に迫るなか、本質的な働き方改革や生産性向上が待ったなしの状況にある物流業界。前編では運輸業界の構造や労働者の主なタスクの内容を探りながら、機械化・自動化によって働き方がどのように変わるのかその全体像を探る。
現在のドライバーの働き方と自動化・機械化へのロードマップ
■ 物流産業の構造と労働者の主なタスク
国内の物流を俯瞰すると、大きくは高速道路の往復などの「幹線輸送」とその先の宅配などの「支線配送」、そしてその間をつなぐ「結節点(物流拠点)」に大別される。
「幹線輸送」は主に高速道路や幹線道路を含めた長距離トラック輸送を指す。ドライバーの主要業務は荷物を時間通りに運ぶ(運転する)ことであるが、発荷主のもとから着荷主のもとまで荷物を配送する場合、各地域の支線配送に始まり高速道路の入り口から出口までの幹線輸送、そしてその先の支線配送を含めてそのすべてを1人のドライバーが担当することがある。このため、関東-関西の長距離ドライバーの場合、サービスエリアでの休憩時間も含めた長時間拘束、深夜勤務が不可避となる。また、指定時間に到着しても他のトラックの作業が終わっていない場合、長時間の「荷待ち」の待機時間が発生する。そのうえで、多くの現場では手作業で積み降ろしを行う「手荷役」を要求されるケースも多い。ピッキングや仕分け、ラベル貼りなどの付帯作業を強いられることもあり、こうした慣習がドライバーの負荷を大きくしている。
「支線配送」はいわゆる「ラストワンマイル」と言われる領域で、各地域における法人からの配達物、個人向けの郵便物、小荷物などの個別配送などがある。インターネット通販などEC市場は成長し続けており、消費者ニーズの多様化もあって多品種・小ロット輸送の需要が拡大している。消費者ニーズの多様化がトラックの積載効率低下も招き、2018年に積載率は40%を下回るまでになっている。
「結節点(物流拠点)」には、大手物流企業が運営している物流センターや大手小売業界が所有する倉庫などの物流拠点がある。物流拠点で働いている倉庫作業員のタスクとしては、荷物の受け入れ、倉庫内移動、棚への収納、ピッキング、仕分け、梱包などの作業がある。繰り返し作業の肉体的な負荷や冷暖房がないなどの環境から慢性的に労働力が不足する状況が続いている。
■ 高齢化が進むドライバー、目前には「2024年問題」
物流現場の人手不足の状況は深刻である。ドライバーを例に人手不足の状況と現在の働き方の課題を概観してみよう。国内のドライバー人口は減り続けている。1995年の98万人をピークに2015年には76万7000人となり、2030年にはそこからさらに3割減少すると見込まれている。
高齢化の問題も深刻化しつつある。大型車のドライバーの平均年齢は、2020年には全産業の平均を6歳ほど上回って50歳に迫る。29歳以下の若手ドライバーの比率も全産業の16.6%に対して10.3%となっており、若手が就業しにくい、いったん就業しても定着しない、という現実がある。
ドライバーが定着せず高齢化を招いている主な要因には、長時間労働・低賃金・不合理な慣習による重労働といった三重苦がある。先述のとおり一人のドライバーが長距離輸送のほとんどのタスクを担当しており、その負担がドライバーの方々に偏在しているのである。大型トラックドライバーの年収は、1997年当時500万円を超え、全産業を上回っていたが、2020年には454万円となり、全産業平均の487万円を大きく下回る。年間労働時間では全産業平均の2100時間(2020年)に対し、大型トラックドライバーは2532時間(2020年)と長時間労働の実態が反映される数字となっている。
目前には「働き方改革関連法」の猶予期間が終了し、トラックドライバーに対しても時間外労働の上限規制が罰則付きで適用されるようになる「2024年問題」が迫る。こうした背景から2027年にはトラックドライバーが24万人不足するという試算や、2030年には物流需要の約36%が供給できないという試算が出されている。物流拠点においても物流業界のイメージや、厳しい労働環境から若い世代での雇用確保に苦戦しており、現状のままでは「物流クライシス」が現実化することが容易に予測される。
■ 自動化が可能な領域と3領域連携のモビリティサービス「物流MaaS」とは
こうした現状の中、機械化・自動化の進展によって業界の働き方はどう変わるだろうか。「幹線輸送」においては今後、大型トラックのダブル連結や自動運転化による長時間労働の解消が期待される。「結節点(物流拠点)」では積み降ろし作業や仕分けや梱包作業、ラベリングなどの自動化が既に始まっており、こうした取り組みが浸透していくことでこれまで人手に頼っていた業務の相当数を自動化することができるだろう。一方で、ラストワンマイルと呼ばれる「支線配送」は自動化・機械化が難しい。都市部では特定エリアやマンション内での自動配送の実験が始まっているものの、コスト面など課題は多い。過疎地域ではドローン輸送の実験が各地で進んでおり、自動配送ロボットとの連携も想定するが「置き配」の許容など、無人化に向けては環境整備が不可欠である。また、物流全般において積載率の向上や荷降ろしの自動化などを進めるには荷姿の標準化は欠かせない。
食品メーカーなどの荷主、運送事業者、完成車メーカー(商用車OEM)などのプレイヤーが個別に開発を行うのではなく、データ連携により異なるメーカーが隊列走行を行ったり、パレット・梱包資材の標準化で車内の積載効率向上や荷役の自動化、ラストワンマイルでの異なる事業者の共同輸送、混載配送などを行うことで、最適物流を実現しようとする考え方が「物流MaaS」である。これに先行的に取り組む一例が、日野自動車が2018年に設立したNEXT Logistics Japan。他業種連携により積載率UPやドライバー・車両・積荷の三位一体の情報活用など、新たな輸送スキームの事業化に取り組んでいる。後編では、最適物流を視野に入れた幹線輸送、支線配送、結節点各領域での自動化や働き方の進化について解説する。
キーとなる思想とテクノロジー
・フィジカルインターネット
・SIPスマート物流サービス
・後続車無人隊列走行システム
・AI活用によるラストワンマイルのスマート化
・自動配送ロボット
・ドローン物流
※用語解説はコチラ
(執筆:高山淳、編集:坂本貴志)