キャリア・オーナーシップを育む7つの視点

2019年07月23日

1.キャリアの主観と向き合おう

6-1.jpgこの調査を行う前に、キャリア曲線を描いてもらうワークショップを幾度か試行しました。参加して頂いた方のキャリア曲線は、この調査結果同様に、とてもバラエティに富んだものでしたが、それ以上に大きな驚きがありました。キャリア曲線をグループメンバーで共有し、キャリアストーリーを披露しあってもらったのですが、職種への着目、会社や職場への着目、顧客への着目など、キャリア曲線を描く基準が、人それぞれで実に多様だったのです。誰に教えられたわけではなく、一人ひとりが、自分の中に大切にしている軸を持ち、その軸をもとにキャリア曲線を描いていたのです。キャリアには客観的側面と主観的側面があります。その主観的側面の「何」が、自分にとっては大切なのか。その多様さに改めて気づいた瞬間でした。と同時に、この主観の軸に気づくことが、人をとっても生き生きとさせることにも気づきました。自分の主観と向き合うことが、キャリア・オーナーシップを育むスタート地点だったのです。

2.キャリアの変曲点を大切にしよう

6-2.jpgキャリア曲線に現れる変曲点。「広げる」から「深める」へと方向を変えるとき、あるいは、「深める」から「広げる」へと方向を変えるときには、何かが起きています。そして、変曲点の数は、今後さらに増えていくことが予想されます。ですが、変曲点が多い人は、キャリア展望が高い、という関係は見出せませんでした。それは、変曲点の中に、自らの意思で創出されたものではなく、所属していた企業の意向や偶発的なライフイベントなどによるものが数多く含まれているからなのでしょう。しかし、今後増えるであろう変曲点を、チャンスにしない手はありません。変曲点を、自分にとって、意味のあるものにすることが問われます。変曲点の気配を感じた時には、立ち止まって考えてみてください。この変化を、自分の中でどう位置付けるかを。変化の気配が長く訪れていないことにも留意が必要です。それは停滞を意味するかもしれません。自身を変化の中に置き続けることが、キャリア・オーナーシップを育む土台となるのです。

3.その時その時の自分の役割を自分でデザインしよう

6-3.jpg長くキャリアを続ける中で、ひとの役割はステージごとに変わっていく。そのような傾向があることを、今回の調査結果は表してくれました。そのような役割の変化は、変曲点の存在と密接に関係しているのではないかと考えられます。新たな役割を引き受けることは「広がる」への変化を、その役割にコミットし、自らの在り方を変えていくことは「深める」への変化を指すでしょう。そして、これまで多様な役割を引き受けた、役割多様性の高い人のキャリア展望は明確に高くなっています。しかし、残念なことに、実に多くの人が自身の役割を認識していませんでした。所属企業から与えられた役割だけを認識している人も多くいると考えられます。役割は自分でデザインする。その時その時の状況を踏まえ、いま、自分はどのような役割を果たすべきか。そのような役割の主体的な認識と設計が、変曲点をより意味あるものとし、キャリア・オーナーシップを育むことにつながるのです。

4.多様な学習のレパートリーを活かそう

6-4.jpg社会の変化が緩やかな時代に、キャリア・オーナーシップを支えるのは専門性でした。過去の学習と経験によって築かれた専門性が、その人のキャリア展望を拓いたのです。しかし、変化の激しい時代には、その図式が揺らぎます。身につけた知識やスキルは、あっというまに古くなってしまいます。社会の変化に対応し、かつ自身がありたい状態を思い描き、ギャップが生じたときは学習することで、自身を再び良好な状態に導く「学びつづけ」が問われます。また、学習のあり方も多様になっています。形式化された知識を体系的に学ぶ学習だけではなく、ひととの対話や仕事を通して、あるいは自分の仕事や生き方を振り返ることで得られる気づき、さらには、何かを試してみたり、アウトプットしてみることから得られる気づきも学習です。自身の状況に合わせて、学習行動、学びスタイルをアレンジしていく。それが、キャリア・オーナーシップを育む基盤となるのです。

5.転機による「内なる変化」を大切にしよう

6-5.jpg転機は、キャリア展望の「ブートキャンプ」でした。転機を経験することで、キャリア展望が拓かれていくことが確認されました。しかし、その実態をつぶさに見ると、転機のきっかけだけでは、キャリア展望は拓けてはいませんでした。キャリア展望につながっていたのは、働くということについての価値を改めて自分に問い直したり、これまで意識していなかった新たなテーマと出会ったり、といった「内なる変化」でした。昇進、昇格のようなポジティブな転機も、そうした外形的な事実ではなく、職務や役割が変わったことによる「働く価値の再発見」が生まれることで、キャリア展望が高まっていたのです。逆に、そのような目に見えるような外的な変化がなくても、仕事の中のちょっとした出来事や人との出会いの中で、仕事の価値や意味を問い直すような転機では、キャリア展望は明確に高まるのです。同じ会社で、同じ仕事をしていても、「内なる変化」は訪れます。その自覚こそが、キャリア・オーナーシップをもたらすのです。

6.役割、転機、学習をつなげよう

6-6.jpgキャリア曲線の変曲点が生まれるのは、役割の変化によるものかもしれません。異動や転職による物理的な変化だけではなく、自身が主体的に役割を担いにいったことに起因するかもしれません。あるいは、転機によるものかもしれません。きっかけは、仕事に関することかもしれないし、関係ないことかもしれません。そして、目に見える外的な変化だけではなく、心の中に芽生える「内なる変化」が、変曲点を呼び起こしているかもしれません。それとも、学習の変化によるものかもしれません。新たな学習により、自身の知識だけではなく、意識や姿勢に変化が生まれたからかもしれません。役割と転機と学習。この3つは、ここまでの分析からもわかるように、相互に密接につながりあっています。時には学習が起点となり、あるいは役割や転機が起点となり、と、その構図は一様ではありませんが、それぞれがつながることで、キャリア展望が高まっていることは確かです。つなげることで、キャリア・オーナーシップが育まれるのです。

7.キャリア曲線を描くことから始めてみよう

6-7.jpg人生の節目では、キャリアの棚卸しをすることが大切だ、といわれています。キャリア研修やキャリアに関するワークショップに参加し、自身のキャリアを振り返ったことがある人も多いのではないでしょうか。そんな機会を通して、大切にしてきたことや、どうありたいと思ってきたのかという「自分」と改めて出会い、未来が拓ける想いをした人もいるでしょう。自身のキャリアを「広げる×深める」で振り返り、キャリア曲線を描く、という、今回の調査手法そのものが、実は、より効果的なキャリアの棚卸しにつながる、という仮説とそれなりの感触を、私たちは持っています。自身のキャリア曲線を描き、ステージに分け、つぶさに振り返ることで、これまで意識していなかった自分と出会うことがきっとできる。そのメソッドを生み出すための調査プロジェクトです。その輪郭は見えてきました。
キャリア曲線を描くことから、キャリア・オーナーシップを育み始めてみませんか。


text:豊田義博
「マルチサイクル・デザインの時代」レポートPDF版