効果的なスカウトメールの生成や履歴書の要約、自社採用のアイデア出しを行う――生成AIモデル

2024年10月10日

Generative AI Models 代表的なサービス

生成AIは、入力された指示に基づいて、画像や文章などの新しいコンテンツを自動的に作成する技術である。質問を対話形式で入力すると、AIが自然な会話で答えを返し、さらに質問があれば、そのまま対話を続けることができる。
生成AIは従来のAIと異なり、学習データを基にオリジナルのコンテンツを創出するという特徴がある。
生成 AI にはテキスト生成、コード生成、画像生成、動画生成、音声生成、音楽生成などがあり、幅広い分野で活用されている。

米国企業では、生成AIがさまざまな採用業務で活用されている。Gartnerが2024年1月に米国企業の人事リーダー179人を対象に実施した調査によると、生成AIを「試験運用中」「導入を計画中」「すでに導入済み」と回答した企業の割合は合計で38%と、前年6月の19%から2倍に増加した。採用業務での具体的な活用法としては、「ジョブデスクリプション・スキルデータ(41%)」「面接用質問の作成・面接内容の要約(28%)」「採用マーケティング・求職者へのメール作成・求職者向けチャットボット(23%)」が挙がっていた。
人事コンサルティング会社Creelman ResearchのCEOであるデビッド・クリールマン氏によると、北米企業の採用担当者が個々に活用している方法は主にライティング、リサーチ、要約の3つであるという。

生成AIの活用が進む米国企業の採用業務

2024年5月に米国で開催された採用担当者向けカンファレンス「ERE Recruiting Conference 2024」での生成AI活用に関するパネルディスカッションでは、パネラーの1人が「求職者のLinkedInのプロフィールや自社の特徴をAIに読み込ませ、求職者の応募意欲を喚起するスカウトメールを作成してもらう」といった活用法を紹介した。またカンファレンス参加者は、生成AIを「面接のメモ作成」や「ジョブディスクリプションに基づく求人広告の作成」などに活用していると回答していた。

サービス事業者の概要は下記のとおりである。

  • テキスト生成AI「GPT」、画像生成AI「DALL-E」、動画生成AI「sora」を提供。マルチモーダル生成AI「GPT-4o」は、テキスト生成、画像認識、音声認識・文字起こし、音声読み上げの機能を備えている。声のトーンや複数の話者の会話、背景ノイズを認識でき、日本語を含む50の言語に対応している。採用業務では、面接中のやり取りを聞いて、フォローアップの質問を作成することができる。(OpenAI
  • マルチモーダル生成AI「Gemini」を提供。GmailなどGoogleの他のサービスと簡単に連携でき、Google ドキュメント上で「Help Me Write」をクリックして指示文を入力すると、求人広告に掲載するジョブディスクリプションを簡単に作成できる。(Google
  • マルチモーダル生成 AI「Claude」を提供。最新バージョンの「Claude3.5 Sonnet」では新機能「Artifacts」が追加された。ユーザーは対話をしながら、別ウィンドウで生成されたコンテンツをリアルタイムに確認・編集することができる。また、高い問題解決能力や論理的思考力を持ち、未来のトレンド予測も行える。(Anthropic
  • 画像生成AI「Midjourney V6」を提供。最新版では、写真のようにリアルな画像を生成し、求人SNS投稿用の画像や採用マーケティング資料のビジュアル制作に活用できる。(Midjourney
  • 音声生成AIツールを提供。テキストから自然な音声を作成したり、自分の声を学習させてクローン音声を生成したりできる。32カ国語と100種類のアクセントに対応し、一次スクリーニング用の自動応答メッセージの作成に活用できる。(ElevenLabs
  • 自然言語処理モデル、音声モデル、画像モデルなどを公開・検索できるオープンソースプラットフォームを提供。企業はこれらのデータセットを活用して短期間で自社のニーズを満たすAIモデルを開発できる。(Hugging Face
  • 「Mistral Small」「Mistral Large」「Mistral Embed」などのオープンソースAIモデルや対話型AIの「Le Chat」などさまざまなAIモデルを提供する。(Mistral AI

    人事との関連性

    生成AIを活用することで、人事は業務効率と採用スピードを向上させ、人材との関係構築など、付加価値の高い業務にできる。これにより、採用活動にかかるコストや人件費の削減も期待できる。

    • テキスト生成:生成AIを活用することで、ジョブディスクリプションの作成時間を、数時間から数分に短縮できる。
    • 画像生成:求人広告やSNSに使用する画像やイラストを短時間で作成できるため、デザイナーに依頼する手間やコストを削減できる。また、会社案内や職場環境を紹介する資料に、生成AI画像を活用することで、視覚的にインパクトのある資料を作成し、応募者の興味を引くことができる。
    • 音声生成:生成した音声を求職者に一斉送信することで、個別に電話をかける手間を省ける。また、テキストを用意するだけで簡単に多言語対応の音声コンテンツを作成できるため、求職者の母国語で音声メッセージを作成してスカウトメールに添付したり、問い合わせに自動応答するボイスボットを制作したりするなど、グローバル採用にも活用できる。

    サービス例

    1. Tombo AI

    採用業務に特化した企業向け生成AIツールである。下記の機能を備えている。

    LinkedInプロフィールの分析

    Chrome拡張機能をインストールし、ジョブディスクリプションをアップロードすると、生成AIがLinkedInの登録プロフィールを分析し、職務内容とのマッチングスコアとともに一覧表示する。Tombo AIは、人間の2倍の速度でプロファイリングを行うことができる。

    履歴書の要約

    履歴書をアップロードすると、生成AIが求職者のスキルや経験年数、強みを分析し、要点を抽出する。

    スカウトメールの作成

    「コンタクト」をクリックすると、生成AIが求職者のメールアドレスや携帯電話番号を検索し、求職者の経歴を踏まえたスカウトメールを自動で作成する。返信がない場合はフォローアップのメールも作成する。また、求職者のタイムゾーンに基づいて、最適なメールの送信時間を選び、開封率を最大50%まで向上させることができる。

    チャットボット

    AIに対話形式で質問や指示を行うと、ジョブディスクリプションの作成やリライト、面接用質問の作成、人材発掘の効果的な手法についてのアイデア出しを行う。

    顧客は、Starbucks、AWS、Eventbriteなど。

    2. Perplexity AI

    「Perplexity」は、Microsoft のBing検索とOpenAIのGPTモデルを組み合わせた対話型検索エンジンである。ユーザーが質問を入力すると、インターネット上の情報を収集する。単に検索結果を表示するのではなく、さまざまな情報を組み合わせて自然な言語で回答を生成する。
    また、情報源も示すため、他のAIで問題視される「ハルシネーション(事実とは異なる情報を生成する)」を防ぐことができる。
    さらに、ページ下部に関連する質問を自動生成して提案する機能もあり、ユーザーはAIとの対話を通じて情報を掘り下げ、理解を深めることができる。
    Perplexity AIは情報の収集や分析に優れており、採用業務にも活用できる。たとえば、同業他社の採用動向の分析や、求人市場のリアルタイム情報の収集などが可能である。「この履歴書を基に、プロジェクト管理とリーダーシップに関連するキーワードと経歴を抽出して」や「この履歴書を分析し、経歴にギャップや不一致がないか確認して」といった指示を入力すると、履歴書の要約や分析が行える。また、「この職務記述書と履歴書を比較して」と指示することで、職務内容に対する求職者の適合度を把握することもできる。
    Perplexity AIの月間アクティブユーザー数は2024年4月に1500万人に達した。欧米では注目度が高く、ERE Recruiting Conferenceでおすすめの生成AIの1つとして紹介されている。クリールマン氏もPerplexityを利用しているという。

    ビジネスモデル(課金形態)

    企業や個人がサービス事業者にシステム利用料を支払う
    企業や個人は、生成AIシステムの利用料をサービス事業者に支払う。料金体系はサービス事業者によって異なるが、たとえばTombo AIの場合、有料版の月額利用料金は35ドルである。

    Tombo AIのビジネスモデル図

    今後の展望

    Boston Consulting Groupによると、世界の生成AI市場は2024年の350億ドルから、2026年には2倍以上の880億ドルに達すると予測されている。
    現時点では採用業務における生成AIの活用範囲はまだ限られているが、今後さらに広がるだろう。

    各社が次々に生成AIの新モデルを発表しており、機能は常に進化している。そのため、各モデルの特徴を把握し、うまく使い分けるのは米国の採用担当者にとっても難しい課題である。たとえば、現時点ではGPTはリサーチ、Claudeはクリエイティブライティングに優れているとしても、1週間後にはほかのモデルがより優れた機能を持つかもしれない。

    総務省が7月に発表した調査結果によると、日本で生成AIを個人利用したことがある人の割合は9%で、米国(46%)や中国(56%)を大きく下回っている。
    企業の人事が限られたリソースで最大の価値を引き出すには、生成AI利用に伴うバイアスなどのリスクを理解しつつ、まずは生成AIを試してみることが重要である。

    グローバルセンター

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