領域の再編が続く米国のHRテクノロジー市場(前編)
グローバルセンターでは、タレントアクイジションテクノロジーに注目し、2016年より「世界の人事が注目するHRテクノロジー」をリクルートワークス研究所のコラムで紹介している。
2016年に発表された、Talent Tech Labs(以下、TTL)の「タレントアクイジションエコシステム5」(HRテクノロジーマップ)にある代表的なサービス分野は28領域であったが、2021年11月には、前年の41領域から統廃合され、39領域となった。また、サービス事業者は97社が削減され、新たに84社が追加された。主な事業者として紹介されているのは計513社である。
この1年間で熾烈な競争によって生き残った企業、新規参入した企業など、マーケット内では大きな入れ替わりがあったが、サービス分野における主な変更点は4つである。
- 「キャンパス&アーリーキャリア(Campus & Early Career)」を追加
- 「候補者コミュニケーション」と「会話型ボット」を統合し、「候補者コミュニケーション&ボット(Candidate Communication & Bots)」 を新設
- 「レジュメ・パーシング・ソフトウェア」を既存の「マッチングシステム」に統合
- 「シェアードタレントネットワーク」を削除
以下、順に概要を紹介する。
1. 「キャンパス&アーリーキャリア(Campus & Early Career)」を追加
2020年のHRテクノロジーマップでは、ジョブボードに含まれていたCollege Recruiterや、テンポラリーレイバーマーケットプレイス(臨時労働者紹介)に含まれていたマイクロインターンシップ求人サイトのParker Dewey、「採用候補者関係(CRM)」に含まれていたYelloなど、新卒採用や人材の早期確保の機能を持つサービスを、新たに「キャンパス&アーリーキャリア」として分類した。その理由は、多くの企業が新卒採用を選任する部署や部門を設置しているからである。
2. 「候補者コミュニケーション」と「会話型ボット」を統合し、「候補者コミュニケーション&ボット(Candidate Communication & Bots)」を新設
候補者コミュニケーション(Candidate Communication)と会話的ボット(Conversational Bots)の2つのサービス分野を統合し、新たに「候補者コミュニケーション&ボット(Candidate Communication & Bots)」として新設した。その理由の1つ目はM&Aである。プログラマティック求人広告PandoLogicによるWade & Wendyの買収や、ドイツの大手求職サイトStepStoneによるMyaの買収など、M&Aによって再編が進んだことが挙げられる。出資を受けても投資会社の期待以上に事業を拡大できなかったチャットボット企業が、異業種の企業に売却された。2つ目の理由は、候補者コミュニケーションのサービスの大半がチャットボット機能を備えているからである。
候補者コミュニケーション&ボットは、メッセージングアプリなどを経由して、ショートメール(SMS)、音声、ビデオの形式で候補者とコミュニケーションを図る技術を持つ。企業が利用しているCRMの多くはメッセージ管理機能を備えているが、音声を活用したものはなく、新たなソリューションを導入する場合は、スタンドアロンの製品が選択肢となっていた。
3. 「レジュメ・パーシング・ソフトウェア」を既存の「マッチングシステム」に統合
多くのレジュメ・パーシング・ソフトウェアが、セマンティック検索や、求人の募集要件と求職者のマッチングを行うマッチングシステムの分野へと進出している。一方で、マッチングシステムの大半がレジュメ・パーシングの機能を備えている。このような理由から、レジュメ・パーシング・ソフトウェアをマッチングシステム分野へと統合した。
4. 「シェアードタレントネットワーク」を削除
シェアードタレントネットワークは、企業の人材採用の最終選考に残ったが、通勤や給与の条件が合わないなど何らかの理由で採用に至らなかった人材の情報を、企業が他社と共有するプラットフォームである。理論上は有望なサービスだったが、市場浸透が進まなかった。その理由の1つ目は、企業が候補者の情報を共有したがらなかったこと。2つ目は、プラットフォームにプールされている候補者層が薄く、企業間の需要と供給を一致させることが難しかったことである。
その他の変更としては、ソーシャル・サーチ、マッチングシステム、労働市場インテリジェンスプラットフォームを、新設した大分類「タレントインテリジェンス(Tallent Intelligence)」にまとめた。タレントインテリジェンスは、データやAIを活用して、企業が人材に関する戦略的な意思決定を行うためのテクノロジーを表す用語として、近年注目を集めている。例えば、仕事を辞める可能性が高い候補者のタイプ、オフィスの立地を選ぶ際の人材供給が多い地域の検索、従業員の経験レベルと勤務地に応じた報酬設定といった判断が可能である。
図 HRテクノロジーマップ
出所:TTL "Talent Acquisition Technology Ecosystem 10(2021.11)"を基に作成(2021.12)
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