労働市場インテリジェンスプラットフォーム
労働市場インテリジェンスプラットフォームは、ジョブボード、 企業の採用情報ページ、SNS、政府機関のサイトなどから、インターネット上を巡回するロボット型検索エンジン(クローラー)が求人情報、個人のプロフィールや履歴書、公共データを自動収集し、国や地域の求人数および職種別人口、給与、求める能力やスキルといった職業情報や人材の需給情報データを提供するプラットフォームである。企業がプラットフォーム上で検索すると、結果を分かりやすく図示する。「プラットフォームツール」に分類される。
求人情報の各データから、企業が求める人材の募集要件、能力スキルや資格、採用数が多い業種や企業など、人材の需要について把握できる。またSNSに登録している個人のプロフィールから、特定の地域における人材の供給状況が分かる。
政府機関のデータは、企業や個人、求職者の公的統計調査を通じて収集された労働情報から大局的な動向をとらえた労働市場のマクロデータである。長期にわたり継続調査が行われるため、データの経年変化の把握や、労働市場のトレンド予測に適している。しかし、データ収集に時間がかかるため、数年前の古いデータを掲載しており、最新の状況を把握、反映していないものが多い。
労働市場インテリジェンスプラットフォームを利用することで、企業は求人に関する情報をリアルタイムに収集できる。また、同じ職種でも、地域や業界によって企業が求めるスキルに違いがあることなど、市場の変化をより早くミクロレベルでとらえることができる。
具体的には下記のサービスがある。
- 企業、人材サービス会社、教育機関、経済開発および労働力開発機関向けの労働市場データサービスを行う。米労働統計局や国勢調査局といった政府機関の業種・職種・教育・人口動態に関するデータや、企業の求人情報データ、ネット上に個人が公開しているプロフィールや履歴書から居住地・職歴・学歴・スキルに関するデータ、政府機関と求人情報から収集した給与相場やスキルに関するデータを提供する(Emsi)。
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SaaS型のタレントマーケットデータ検索プラットフォーム。AI技術で政府の統計データ、SNS、企業や大学のウェブサイトなどから、求人、プロフィール、給与、従業員の多様性、卒業生に関するデータを収集する。企業は、人材の居住者数、平均年収、出身校、他社の採用数などを、地域、職種、スキル、経験年数で絞り込み検索する。国、州、都市で特定のスキルを検索し、未開拓の人材プールを発掘できる。英内務省や教育省も利用している。英国発祥の企業(Horsefly)。
- 上場企業5000社および非上場企業200万社の雇用データを集約したアナリティクス。従業員の職種・性別・人種・地域別構成比、平均勤続年数、平均年収、主要スキル、採用数や自然減数の推移(%)を検索できる「人事データベース」を提供する。情報源は、ネット上で公開されている個人のプロフィール(勤務先名、職種、学歴、スキルなど)、求人情報(ジョブディスクリプション、給与)、国内外の政府機関の統計データ(労働統計や国勢調査、社会保障局のデータ、移民ビザの申請や有権者登録に関するデータなど)、企業の属性情報(事業規模、業種、親会社、子会社など)。人材の採用や退職、オフショアリング、アウトソーシング、新規市場での成長など様々な指標をトラッキングできる(Revelio Labs)。
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AIを活用した、クラウド型タレントインテリジェンスプラットフォーム。採用・人材開発および営業担当者を対象とする。テクノロジーと人間が、地域の人材需給や採用コスト、会社概要(採用動向、従業員のスキル構成、組織構造など)に関する数百万ものデータを収集する。企業7万5000社、地域1500カ所、28業種のデータと、4億5000万人のプロフェッショナル人材のプロフィールを保有する。企業の人材採用、労働力計画、リスキリングをサポートする(Draup)。
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企業、大学、協会、労働力開発機関向けのクラウド型オンラインイベントプラットフォーム。採用イベント、動画面接、ウェビナー、ネットワーキングイベントなどを開催する。企業は、求職者とテキストによるチャットや、ビデオまたは音声通話で交流することができる(Brazen)。
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各国や都市の人材の需給状況、給与、企業の採用動向に関するデータを提供するクラウド型の労働力インテリジェンスプラットフォーム。企業のダイバーシティ戦略をサポートするデータの提供を行う。企業はAPIで自社のシステムと連携し、データにアクセスできる(Claro Analytics)。
- 約160カ国の都市と職種別の賃金データプラットフォーム。企業や人材サービス会社向けにサービスを提供している。企業は、正社員の基本給、非正規社員の給与、マージン率、派遣料金も検索できる。50万種類以上の職種に対応する。データは毎月更新。サブスクリプション型検索サービス「Job Library」の利用料は、1職種あたり月間15ドルで、データを無制限で検索できる(People Ticker)。
- 非正規労働力のサプライ管理プラットフォーム。コストやパフォーマンスの管理が可能で、サプライヤー視点から構造的な把握ができる。AI労働力分析プラットフォーム「Talent Data Exchange」は、企業の非正規社員の活用状況についてクオリティ、効率、コスト、リスクの4つの側面からパフォーマンス・メトリクスを分析し、改善が必要なところを見つける(Brightfield)。
人事との関連性
企業は、需要の伸び率が高いスキルや、競合他社の採用動向を把握、分析することで、競争力維持に必要なスキルを特定し、人材戦略に役立てることができる。アキュハイヤー(人材獲得を目的とした企業買収)の選択肢も視野に入れられる。また、給与情報から人材確保に必要な人件費を算出できる。
地域別に特定職種の人口と平均年収を検索することで、求める人材が多く存在し、人件費が低い、さらには競合が少ない人材のハブとなる都市が分かる。人材のターゲティング、給与設定、オフィスの移転先や研究・開発拠点の立地選択などについて、データにもとづいた客観的な意思決定を促進する。
サービス例
1.Burning Glass Technologies
企業、人材サービス会社、大学やコミュニティカレッジ、政府機関向けの労働力分析ソフトウェアおよびサービス。約20年の実績をもつ。
クローリング技術でジョブボード、企業の採用情報ページ、SNSなど4万種類以上の情報源から日々約340万件の求人情報をスキャンし、求人内容、履歴書、SNSプロフィールのデータを自動収集する。10億件以上のデータを保有する。自然言語処理技術で、ジョブディスクリプションから企業が求める職種、スキル、資格を読み取る。高度アルゴリズムで重複データをクリーニングする。
パンデミックの影響を受けた失業者の再就職およびスキルアップの支援や、公共職業安定機関向けの検索ツール「Workforce Command Center」も提供する。地域別の求人数、失業手当申請件数、失業率、成長・衰退する産業や企業、需要の高い職種などを表すデータを視覚化する。どのような職業訓練プログラムを拡充し、失業者に受講を促進する必要があるか特定できる。卒業生の履歴書やSNSプロフィールから卒業後の動向を検索する教育機関向けの機能「Alumni Analysis」も提供する。
主要顧客はCisco Systems、Purdue University、Missouri Department of Economic Developmentなど。
2.Gartner TalentNeuron
人材需給情報のリアルタイムデータを提供するタレントマーケットインテリジェンスプラットフォーム。特定の職種に就く人材が多く住む都市、都市別の求人件数や給与相場などを検索できる。
企業の採用情報ページ、ジョブボード、SNS、政府機関のサイトや刊行物、業界向け出版物(新聞や雑誌)、大学のウェブサイト、各種サーベイ、国勢調査、ニュースアグリゲーター、上場申請書類、独自のデータベースなど、6万5000種類以上の情報源から人材需給のデータを収集する。社内のデータサイエンティスト、データ品質スペシャリスト、労働経済学の専門家がデータの検証を行っている。
企業は、世界各国の人材に関する動向を、中長期の戦略的な労働力計画に反映できる。また、業界の状況から自社に不足しているスキルを特定できる。特定職種の採用における他社との競合状況が分かる機能もある。
主要顧客はIntel、Pitney Bowes、Qualcomm、Infosysなど。政府機関、人材サービス会社も利用している。
ビジネスモデル(課金形態)
企業、大学、政府機関が、サービス事業者に、人材の需給状況に関するデータを検索するシステムの利用料を支払う。
今後の展望
企業は、労働市場インテリジェンスプラットフォームを利用することによって、政府の公共統計データから、民間の求人情報、SNS、企業や大学のサイトまで、多数の情報源から収集した最新の人材需給データを、1つのシステムでまとめて検索し、人材のソーシングに活用することができる。
職種および地域別に、人材の需要や供給状況、採用コスト、人材獲得の競争率といった人材市場の変化について総合的に捉え、中長期の人材計画を立てることができる。
学生の進路支援やカリキュラムの作成・改定に労働市場インテリジェンスプラットフォームを導入する大学も多く、同プラットフォームのニーズは高いといえる。
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