【Tech Stack Interview】Teradata ブラッド・クック氏(TAグローバルバイスプレジデント)
Teradataは、ゼロから独自のテックスタック(複数のテクノロジーを組み合わせて活用する)を構築し、1つのプラットフォームで候補者に関するさまざまなデータを検索できる仕組みを整備している。人材獲得分野で約15年の経験を持ち、またデータ効率向上のテクノロジー導入に長年携わるブラッド・クック氏に、同社の取り組みについて語っていただいた。
【Teradata Corporation】データ分析のクラウドソフトウェアやコンサルティングサービスを提供するグローバル企業。1979年設立。ニューヨーク証券取引所に上場。従業員数は世界43カ国で約9,500人。2019年の採用予定人数は2,000人弱。採用部門の人員はグローバルで約70人。
インタビュアー=クリス・ホイト 翻訳=鴨志田 ひかり TEXT=杉田 万起
全システムをつなげてデータを双方向に連携
Q 御社のテックスタックについてですが、ATS(応募者追跡システム)やCRM(採用候補者管理システム)は、どの製品を利用していますか?
通常のATSは、応募者の管理については素晴らしい働きをしてくれますが、ヘッドハンティングや潜在層の発掘には不十分です。そこでスタンドアローン型ソーシングエンジンとしてSwoopTalent[1]を導入しました。Talent Acquisition(人材獲得)部門が利用している全採用システムをつなぐハブとしてカスタマイズし、Paradox[2]、Survale[3]、Stella[4]などと連携させました。ATSを他社製品と連携させるには通常数カ月かかるところ、SwoopTalentのオープンAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)により、わずか数週間で完了しました。
CRMは、以前使っていたTaleo[5]からGR8 People[6]に乗り換えました。そしてGR8 People とSwoopTalentを「太いパイプ」でつなぎ、システムの完全な互換性と同期性を実現しました。例えば、キャリアサイト経由の応募者のデータは消極的、積極的といった求職状況なども含めてすべて「大きなデータ貯蔵庫」であるSwoopTalentに蓄積され、ParadoxやSurvaleは必要な情報をそこから直接取り込めます。データは双方向に連携され、リクルーターは異なるシステムに毎回ログインすることなく、1つのプラットフォームからすべてのデータを確認できます。LinkedIn[7]で候補者のプロフィールページを開くと、Chrome拡張機能でGR8 PeopleやSwoopTalentに保存されている情報がポップアップ表示され、この候補者が求職活動を行っているかどうかが分かります。SwoopTalentからGR8 Peopleの中に構築されている人材コミュニティの候補者を見つけることもできます。
Q レポーティングやデータ解析に利用されているPowerBI[8]やAlteryx[9]の特長を教えてください。
別のデータウェアハウス(意思決定のために、基幹系などの複数システムから必要なデータを収集し、目的別に再構成して時系列に蓄積した統合データベース)にPowerBIをプラグインし、GR8 People、Workday[10]、Glassdoor[11]、Google Analytics[12]から引き出した従業員数、人員の自然減少数、内定辞退者数、入社人数など有効なヘッドカウントデータすべてを経営陣が一目で確認できる管理画面の作成に取り組んでいます。多数のタブがあり、タブを開くとブランディング用のフレームワーク、ソーシングのワークフォロー、ファネル(採用に至るまでの候補者行動をフェーズ分けし、人数を表したもの)などの必要なデータが表示される仕組みになっています。
採用にかかる日数を52日短縮
Q 独自のテックスタック構築から得た最大の効果は何ですか?
スピードアップとコスト削減です。過去4カ月間で、採用にかかる日数を52日短縮しました。また、大きく依存していた人材紹介会社の利用をグローバル規模でやめ、社内ですべてを構築・管理し、人材の情報を全社横断で取り込むソーシングエンジンを開発し、最終的に800万ドルのコスト削減に成功しました。
現在、SwoopTalentとこのソーシングエンジンを連動させ、Cloud ML Engline[13]を差し込み、候補者と求人案件をマッチングする仕組みの構築に取り組んでいます。優秀な候補者のリストを採用部署のマネジャーに提出するのに現在2〜3週間かかっていますが、これを1日に短縮したいです。マッチングの仕組みが完成すれば、社内のエコシステムに保存されている過去の大量の候補者の中から条件に合う人材を絞り込み、マネジャーにその情報を提出することができるようになり、全体の日数をさらに5〜10日短縮できるでしょう。
Paradoxのジョブ・マッチング・アルゴリズムの導入も進めています。数週間前、米国のキャリアサイトに同社のチャットボットを導入しました。求職者がサイトを訪問し、履歴書を登録すると、Paradox経由でSwoopTalentやGR8 Peopleに同期されます。またリクルーターが50人の候補者情報をParadoxに入力すると、ParadoxがSMSでスカウトメッセージを発信します。SMSの返信率がメールよりもはるかに高いことは、周知の事実です。Paradoxを活用した面接日時の調整など、定型業務の自動化も検討しています。
SNSから人材のプロフィールを社内のシステムに取り込むZAPinfo[14]も利用しており、非常に役に立っています。これは単なるクローリングではなく、メールの自動化も可能です。
Q 何種類の採用テクノロジー製品を利用していますか?
GR8 People、SwoopTalent、ZAPinfoの他に細かい製品をいくつか利用していますが、コーポレートプラットフォームといえるものは多くはありません。2018年に、多額の投資をしていくつか新規購入したものをすべてつなげてうまく活用し、効率性と生産性を向上させることが今年の目標です。市場にはさまざまなベンダーが存在しますが、面白いコンセプトを思いついたら、現在使っているテクノロジーだけでほぼすべて実現できます。弊社の構造の強みは、まさにこの部分にあります。
Q 採用テクノロジーの予算を教えてください。
テクノロジーの全体予算から人件費を引くと、年間で100万ドル台半ばです。
5年以内に採用プロセスの6割が自動化
Q 採用プロセスの中で、どの部分の自動化を望んでいますか?
スケジュール調整と人材供給パイプラインを構築するためのアウトバウンド・コミュニケーションです。この2年間にAI技術を活用したグローバルスケジューリング機能を自社開発しました。運用を始めたばかりで、プロセスの改善に取り組んでいるところです。この分野はもっと自動化できると思います。
Q 今後5年でどのくらいの採用プロセスが自動化されると思いますか?
おそらく約6割が自動化されるでしょう。この4年間で、テクノロジーは飛躍的に進歩しました。今私が行っていることの半分は、4年前には不可能でした。このことから、将来的には市場にたくさんの新しいテクノロジーが出現し、現在よりずっと自動化が進むと予想します。
[1]SwoopTalent:すべてのHRシステムをつなげ、膨大なデータをAIや機械学習といった認知技術用に最適化してクラウドで管理する人材データ管理プラットフォーム。ATS、採用マーケティングシステム、Excel、インターネット上のデータなどを統合し、一括検索できる。
[2]Paradox:採用に特化したチャットボット「Olivia」が求職者からの問い合わせに自動対応し、経験年数や希望の職種や資格の有無などを質問し、スクリーニングする。
[3]Survale:採用情報ページ、応募プロセス、面接などに関する求職者のフィードバックを瞬時に集め、分析する自動労働力サーベイプラットフォーム。
[4]Stella:最終選考に残ったが、給与など何らかの条件が合わず、採用されなかった優秀な人材の情報を他社と共有するシェアードタレントネットワーク。
[5]Taleo:製品名は「Oracle Taleo Cloud Service」。人材の募集、採用、育成、定着を簡単に行えるOracleのクラウド型人材管理システム。
[6]GR8 People:CRM、採用マーケティング、ATS、オンボーディングを統合した採用管理システム。「GR8 CRM」は、AIによる求人レコメンデーションを備えたキャリアサイトの制作、スケジューリングの自動化、プログラマティック求人広告、面接の自動スケジューリング、候補者と求人情報の適合度を表すスコアの自動算出、採用イベントや従業員によるリファラルの管理といった機能を備える。
[7]LinkedIn:ビジネスに特化した世界最大手のSNS。世界で 6億人超の職歴データが保存されている。
[8]PowerBI:データを視覚化して組織全体で共有するビジネス分析サービス。
[9]Alteryx:PDF、Twitter、Google Analyticsなどのデータを分析するセルフサービスプラットフォーム。
[10]Workday:人事から採用、タレントマネジメント、ラーニング、労働力管理、給与計算管理、報酬管理までを網羅し、人材、労働力、コストを一目で把握できる統合型HCMクラウドシステムのプロバイダー。
[11]Glassdoor:現従業員や元従業員が給与や福利厚生、面接の内容など企業についての口コミ情報を投稿する企業のレビューサイト。
[12]Google Analytics:サイトの訪問者数、訪問経路、使用端末の種類などのデータを計測するGoogleのアクセス解析ツール。
[13]Cloud Machine Learning(ML)Engine:機械学習モデルを構築し、本番環境で実行できるようにするGoogleのサービス。
[14]ZAPinfo:検索エンジン、SNS、主要ジョブボードなどに載っている基本的な連絡先情報、履歴書、プロフィールといったデータを、100種類以上のCRM、ATS、採用マーケティングプラットフォームにワンクリックでインポートできるChrome拡張機能。
プロフィール
ブラッド・クック氏(Brad Cook )
Cisco Systemsに11年勤務し、最終的にGlobal Staffing Candidate Selection PracticeのDirectorを務めたのち、Global Vice President of Talent AcquisitionとしてInformaticaへ移籍。その後現在のTeradataでGlobal VP Talent Acquisitionに就任。