英米のオンラインインターンシップと面接の事例(2)
米国のオンラインインターンシップ
米国でも、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、多くの企業が新卒の学生を対象とした2020年の夏季インターンシップを対面からオンラインに切り替えた。オンラインインターンシップを実施した業種は、IT、金融、自動車、製薬、通信、食品、防衛・軍事などであった。オンラインによる実施は初めてだっため、インターンと各部署の従業員の双方にとって有益なプログラムにするために、事前に大学から助言を得たり、他社から話を聞く企業もあり、オンラインインターンシップを成功させるために社内外で議論を重ねたようだ。
企業の約8割がインターンシップを変更
NACE(全米大学就職協議会)が2020年4月30日に行った「新型コロナウイルスクイックアンケート調査」によると、企業の83%が夏季インターンシッププログラムに何らかの変更を行うと答えた(同月10日の調査では65%)。変更内容について最も多かった回答は「インターンシップのオンライン化」(46.2%)で、次いで「開始時期の後ろ倒しによる期間短縮」(41.1%)、「プロジェクト発表会といったイベントのオンライン化」(25.1%)、「インターン生の受け入れ人数縮小」(21.2%)であった。
新卒者向けコミュニティサイトのHandshakeの調査でも、企業110社のうち、6割が「オンラインインターンシップを実施する」と答えた。インターンシップを完全にオンライン化した企業は、アマゾン、グーグル、フェイスブック、マイクロソフト、ペイパル、バンク・オブ・アメリカ、フォード・モーター、グラクソ・スミスクライン(GSK)、シスコシステムズ、CVS ヘルスなどだった。
対面とオンラインのハイブリッド型で対応している企業もあった。ノースロップ・グラマンでは、インターン生2800人のうち、セキュリティクリアランスを要する部門を除く半数がオンラインで参加した。
一方、インターンシップを中止または延期した企業もあった。デルタ航空、エアビーアンドビー、フェデックス、ギャップ、ウォルト・ディズニー・カンパニーなど、パンデミックによる影響を大きく受けた業種の企業が多く含まれている。
オンラインインターンシップの実施内容
インターン生の受け入れ人数は約30~4000人で、実施期間も4~12週と、企業の規模などによってばらつきが見られた。オンラインインターンシップの内容は、下記のようなインターン生の能力開発やインターン生と従業員間のコミュニケーションの促進に重点を置く取り組みを含むものが多い(リクルートワークス研究所)。
- プロジェクトワーク
- 従業員のシャドウイング
- メンターやコーチによるインターン生のサポート
- 他部署の従業員と交流するコーヒーチャット
- チームビルディング活動
- オフィスアワー
- ビジネスリーダーによる講演
- 創設者やCEO、CTOなど経営幹部との直接交流
- プロジェクト発表会
- ビジネスコンテスト
- インターン生同士の一体感や仲間意識を育む交流イベント(オンラインでの歓迎朝食会、ヨガや料理教室、クイズ大会など)
多くの企業が、インターン生に意義のある体験を提供する工夫を凝らしている。例えばフォード・モーターでは、電気自動車用バッテリーの開発に取り組んだインターン生がいた。またGSKのインターン生は、胃腸薬「TUMS」で胃腸の健康を守るためのデジタル教育プログラムの構築などに取り組んだ。
また、インターン生のサポートにも注力している。保険会社のエトナは、オンライン参加に関するインターン生の疑問や不安を解消するため、新卒採用部門の従業員がインターン生からのあらゆる質問に答えるオンラインオフィスアワーを設けた。IBMでは、インターン生が専攻分野、関心のあるトピック、配属部署などのプロフィールを専用サイトに登録すると、AIが登録内容をもとに、従業員や他のインターン生とマッチングし、交流を促進するプラットフォーム「IBM Intern Café」を導入した。
オンラインインターンシップを成功させるには、受け入れ部署のマネジャーのサポートも重要である。P&GやSAPは、リモートマネジメントについての優良事例をマネジャーに提供した。マネジャー同士がアイディアを共有したり、人事専門家から簡単なアドバイスやサポートを受けられるオフィスアワーを設置する企業もあった。
オンラインインターンシップで利用されているツールは、Zoom、Microsoft Teams、Slack、FaceTime、Webex、Remote Whiteboard、Miro、Visual Studio Live Share(マイクロソフトのペアプログラミング共有ツール)などがあった。
アボット・ラボラトリーズは約230人を受け入れ
医療機器メーカーのアボット・ラボラトリーズは、毎年約200人規模の高校生と大学生のインターン生を受け入れている。毎年大学生インターンの約6割が同社に入社している。インターン生からスタートした経営幹部も数人いる。インターンシップを人材獲得戦略としているため、2020年の夏季インターンシップを中止するという選択肢はなかった。全面的にオンラインに切り替え、エンジニアリング、財務・経理、IT、製造、品質保証、営業部門で約230人の学生を受け入れた。実施期間は12週間から9週間に短縮したが、インターン生への報酬は12週間分を支払った。
人事部は、オンライン化するにあたり、各部門のマネジャーと協力してインターン生向けの170以上のアサインメントを再編成した。インターン生専用アプリ「Abbott Intern Link」では、メッセージの受送信や写真の投稿、研修資料など必要な情報をすべてアプリで確認できるようにした。また、30秒の自己紹介ビデオのアップロードを推奨し、インターン生同士の交流を促進した。さらにインターン生とエグゼクティブやメンターとをつなぐチャンネルも開設した。
インターン生は最初の2週間、メールでの効果的なコミュニケーション方法、プロジェクトのオンライン発表、モチベーションの維持、評判の構築、レジリエンスとイノベーション、ソーシャルメディアの活用など、様々な研修に参加した。その後、自己血糖測定器「FreeStyleリブレ」のデータ分析やカスタマーのニーズ把握、サイバーセキュリティ対策など、実務に即した課題に取り組んだ。
インターン生4~5人から成るグループに1人の従業員がメンターとして、音声やビデオ通話、チャットでインターン生をサポートした。インターンシップ後半には、ビジネスコンテストが開催された。複数の部署から集まったインターン生10人が1グループとなって、与えられた課題に取り組んだ。最終日には、医療や栄養に関する新製品の開発を会社に提案する発表を行った。
アボット・ラボラトリーズは、CEOやシニアビジネスリーダーとの直接交流を重要視した。グローバル人材獲得部門バイスプレジデントのVildan Kehr氏によると、オンライン化したことで、「インターン生たちはリーダーたちと交流する機会をリアルでの実施よりもより多く得ることができた」という。Kehr氏は、オンラインインターンシップを成功させるポイントとして、「助けや助言は誰に求めればよいか、上司にはどの程度頻繁に進捗を報告する必要があるか、フィードバックをもらうにはどうすればいいかなど、インターン生に期待することや求める役割などを、早めに、かつ明確に伝えること」を挙げている。
同社のインターンシッププログラムは、学生向けキャリア情報サイトVaultが主催する、2020年度「Best Health Care Internships」に選ばれた。
TEXT=杉田真樹