若者の就業経験減少を背景に、米国ではインターンシップへの関心が高まる
米国で多くの主要企業の人事責任者と太いパイプを持つ人材採用コンサルティング会社、CareerXroads社のジェリー・クリスピン氏とマーク・メーラー氏。両氏に、米国におけるインターンシップに対する関心の高まりの背景や、今後発展の可能性のある分野として注目しているグローバルインターンシップなどについて寄稿してもらった。
若年者の就業経験不足を懸念する雇用主
米国では、ティーンエイジャーの就労率の大幅な低下とともに、雇用主のインターンシップに対する関心が高まっている。以下のグラフが示すように、1970年代後半時点では、約60%のティーンエイジャーが何らかの形で就労していた。しかし、その後数十年間で、就業するハイティーンの割合は減り続け、2015年では35%以下にまで低下してしまった。
実務経験がないまま社会に出てしまう若者が増加するにつれて、職場や仕事へ適応できるのか、パフォーマンス水準を満たすのに苦労するのではないか、あるいは、短期間で退職する傾向に拍車がかかるのではないかといった懸念が、マスコミで盛んに指摘されるようになった※1。学術研究では、高校時代の就業経験は、大学での成績や将来の生活水準に良い影響を及ぼすという結果が示されている※2。
新卒レベルの人材を採用する雇用主は、就業経験の欠如から起こる問題を十分に認識しており、職務体験を提供するプログラム、中でもインターンシップに注力している。
優れたインターンシップの条件
優れたインターンシッププログラムの条件として、次の4点を挙げることができる。
- 学業で得た知識を生かせる仕事/チャンスが提供されること。
- 学生が正社員になった場合の実際の職務環境(勤務場所、勤務時間、ミーティング、コラボレーション、フィードバック、チームワーク etc.)にできる限り近いこと。
- インターンシップから大学に戻った時に、ケーススタディー、実験、実用的な問題解決課題などを通して、自らの職務経験を生かすことができること。
- 異なる学校出身のインターン生同士が、インターンシップ終了後もネットワークを維持・発展できる仕組みが用意されていること。独自のソーシャルメディアツールを提供する雇用主もある。インターン生同士の長期的な結びつきが、正社員への登用率を高めることにもつながる。さらに、一旦は別の会社に就職したインターン生が、インターン生同士のつながりを通じて、何年後かに自社に経験者として入社してくれる場合もある。
インターンシップ以外にも、学生が就業体験を積む機会として
サマーワーク/パートタイムとCo-op(産学協同教育)がある
サマーワーク/パートタイム労働は、勤勉さや学費を自らで賄う意志の表れとして雇用主は評価するが、学力や職務環境への適応力を高めるものとはみなさない。職種は販売職、事務職など補助的なものが多い。
一方Co-opは米国で100年以上の歴史を有するプログラムで、大学が雇用主の協力を得て学習部分と雇用主の職場での実習(通常3~6カ月)を有機的に結びつけるよう、周到に構成されている。実習は有償である他、プロフェッショナルな職務経験を積むことで、就職にも有利になるなどのメリットがあると一般的に言われている。米国の大学学部は4年制だが、Co-opプログラムを受講した場合は企業での実習期間が加わるため、在学期間が1~2年延びることがある※3。特に工学やテクノロジー分野で導入されることが多い。
米国労働省の6条件をクリアした場合のみ無償インターンシップが可能
米国労働省の賃金・労働時間局は、以下の条件がすべて満たされた場合にのみ、無償インターンシップを許可するとしている。
- インターンシップが雇用主の事業施設での作業であっても、教育環境における訓練と類似のものであること。
- インターンシップ体験がインターン生の利益となること。
- インターン生は正社員に代替するものではなく、既存スタッフの密接な監督下で働くこと。
- 訓練を提供する雇用主が、インターン生の活動から直接的な利益を得ないこと。また、その業務が実際に妨げられる場合もあること。
- インターン生は、インターンシップ終了時に必ずしも就職を約束されていないこと。
- インターンシップ中の労働時間には賃金が発生しないことを、雇用主とインターン生が理解していること。
上記の6条件を満たさずに無償インターン生を悪用した雇用主をめぐって訴訟に発展したケースが多発し、無償インターンシップは大きく評判を落とした。さらに、最大の問題点は、有能ながらも経済的な理由で無償インターンシップに参加できない学生たちがおり、そんな人材を人気企業は組織的に差別していると見られてしまったことである。そのため、フォーチュン500に入るような主要企業は、無償インターンシップを廃止する動きに出ている。
グローバルインターンシップはレベルの高い学生の関心を呼ぶ可能性がある
アーンスト・アンド・ヤング社のアメリカ大陸採用ディレクターを務めるダン・ブラック氏は、インターン生の少数は、国際的な経験を積む機会があると言う。一方、ディズニー社の新卒採用部長クリスティ・ブリーン氏は、毎年米国で雇用する約2万人のインターン生のうち6,000人は、海外からの人材であると言う 。グローバルインターンシップは、米国では例外的でユニークである。
外国籍の学生の有償労働には様々な法的制限があることが、グローバルインターンシップが普及しない一因である。けれども、米国籍の学生が国際的な就労体験を積めるプログラム、また、米国で学ぶ留学生あるいは他国の学生が米国で就労体験をできるプログラムは、きわめて大きなアドバンテージとなる可能性がある。ブランディングという点から見ても、そうしたグローバルインターンシップは、最高レベルの学生の関心を惹くのではないだろうか。
※1 日刊紙ボストングローブのオンライン版Bostonglobe.comは、2014年5月2日に"Are teen jobs becoming a luxury good?"(10代の若者の就業は、贅沢品になりつつあるのか?)という記事を掲載し、ティーンエイジャーにとって就業体験とは、時間を守る大切さや、コミュニケーション能力などの"ソフトスキル"を養う機会であり、それが失われることによる影響に対して懸念を表明している。
※2 Jeylan T. Mortimer著 "Working and Growing Up in America (Adolescent Lives)"(Harvard University Press 2005年刊)。1,000人の学生を高校入学時点から20代半ばまで追跡調査した縦断研究に基づく。
※3 実習期間を短くする、夏期休暇を実習期間に充てるなどして4年で卒業可能なプログラムもある。
TEXT=小林誠一
プロフィール
ジェリー・クリスピン氏
国際的に知られるHR分野の講演者、著者及びオピニオンリーダー。人材調達モデルの最新動向についての調査・研究、HRプロフェッショナルやクライアントとの情報・意見共有・交換を行っている。また、採用プロセスにおいて候補者をパートナーとして扱う企業の選考及び顕彰を目的としたCandidate Experience Awards(www.thecandes.org)を運用する非営利団体TalentBoardの創設メンバーとしても活躍している。
プロフィール
マーク・メーラー氏
数十年にわたり人材採用の最前線に携わった後、現在、採用テクノロジーの最新動向と、その企業戦略・戦術への応用の検証に取り組んでいる。また、キャリアプランニング及び配属、契約リクルーター、エグゼクティブサーチ、採用広告展開及び人的資源管理などの経歴を生かし、世界的な優良企業にアドバイスを提供している。採用テクノロジーの黎明期からその進化を追い続けており、その洞察は、企業及び主要メディア媒体で定期的に求められている。