SIAエグゼクティブフォーラム2018参加報告(2)
アデコ、アレギス、AMNが明かすスタッフィング企業のデジタル変革
司会
SIAのリサーチマネジャー、デヴィッド・フランシス氏。
パネリスト
アデコ・グループAGX部門社長のマーカス・ソーヤー氏、
アレギス・グローバル・ソリューションズのテクノロジー&サービス開発担当副社長(EVP)ジョン・ハセット氏、
AMNヘルスケアの専門家サービス&スタッフィング部門社長ラルフ・ヘンダーソン氏。
第2回は、大手スタッフィング3社のリーダーたちの視点と、各社の取り組みについて語ったパネルディスカッション。
3社のデジタル変遷
スタッフィング会社のデジタル変革は、「オフラインのプロセスやサービスをオンラインに変え、新しい市場やビジネスモデルを創ることで、低コストで作業効率を向上しながら、候補者や顧客企業により良いユーザー体験を提供し、ビジネスを革新すること」を指す。
AGX
最も早くデジタル化に対応したAGXは、(1)現在のビジネスの生産性を向上させる、(2)オフラインをオンラインにする、(3)新市場で新ビジネスモデルを構築する、という3つの視点でデジタル変革を捉え、M&A、戦略的パートナーシップ、新しいデジタルベンチャーへの投資のうち、最適な形態を随時選択している。例えばMicrosoftとはパートナーシップを結び、"YOSS"というプラットフォームを共同開発した。またBeepleというサービスの場合は、同社を買収して後に吸収合併した。
アレギス
一方、アレギスはデジタル変革を「最新テクノロジーを利用して利益を増強すること」とシンプルに捉え、ビジネス上の差別化のためのツール、社内の作業効率アップ、候補者と顧客の体験向上など、様々な機能を利用している。自社で開発するのは長期に渡り、コストも多額になるためやるべきではない、とハセット氏は指摘した。
AMN
ヘンダーソン氏によるとAMNのデジタル変革は、10年前のATSの導入による社内作業の効率化から始まり、ウェブ機能の完全モバイル対応化、オリジナル・アプリの開発、そして最近のウェブサイトへのボットの埋め込みなどによる顧客企業および候補者の体験向上へと変遷した。
投資先の細分化が進む現状での選択と判断
AGXはCEO、CFOを含む経営陣によるデジタルベンチャー委員会を立ち上げ、あまたあるサービスを査定し、会社全体にとっての利益と将来のための判断を下している。また、APEC、北ヨーロッパなど担当地域別の市場研究チームがあり、注目すべきサービスのカテゴリーを随時ピックアップし、その情報をもとに投資先や買収先、パートナーを選択している。
アレギスは、産業に対して破壊的なサービスを開発している組織を常に探しており、パートナーシップを組むか、投資をすべきかを検討している。ハセット氏は、「企業文化は重要な要素で、サプライヤーがどれだけ強く顧客との取引を望んでいるかにも注目する」と話した。さらに、「通常、製品を開発しているのはエンジニアであるが、エンジニアはセールスが下手で、自分が開発した製品をどうマーケティングすれば良いかわからない。デモが苦手な場合は真価がわからない。テクノロジーを選ぶ際には、テクノロジー自体の機能とその可能性を精査すべき」と強調した。
ヘンダーソン氏もこれに同調し、「テクノロジー製品は、初見ではその凄さに感動するが実際に使ってみるとデモで見たのと全然違うと感じることが多々ある」と話した。
AMNは、「エンゲージメント・ソフトウエアの導入を考えた時、シリコンバレーで10社ほど訪問したが、どの会社も良い点と悪い点があった。各サービスを詳細まで査定し、パートナーシップ、投資、買収、様々な取引の可能性を検討した。しかし、最終的にはどれだけ熱心か、真剣かという人間性で選んだ」という。
投資か、買収か、パートナーシップか?
ソーヤー氏は「単独のツールであれば、今年良く思えても来年はダメかもしれないので、買収はしない。アデコ・グループのビジネスに直接的な脅威になると判断し、対顧客、対候補者を考慮した時に収入に繋がると予測できれば、投資や買収を検討する」という。さらに、「新しい市場は全体図がわからないので、その分野に秀でている会社とのパートナーシップを選び、新境地を開拓する。Microsoftはこの一例である」と明かした。
ソーヤー氏は、「自社の資産が何なのかを把握し、テクノロジーとどう結びつけるかを検討することが必要だ」と話した。「資産が流通能力であれば、より多くの顧客へのアクセスがある。顧客からの注文が増加していて、候補者へのアクセスもあるなら、この二つを合わせるだけで素晴らしいマーケットプレースを構築できる。自社の資産を理解すればサプライヤーとの相互作用で新しい何かを創造することができる」
サーチ&マッチ・カテゴリーの実例
AGXとAMNが選ぶサービスは?
AMNはヘルスケアのための分類ツールを使っているが、次世代はGoogleと協働する予定だという。しかしヘンダーソン氏は、「Googleには専門分野がなくマッチングの専門家でもないため、これが安全な策なのかどうか迷っている」と明かした。また、データを収集・分析して、求人情報に最もマッチした人材を見つけてくる機能を備えたAIを分析ツールとして利用し、候補者と求人情報のランキング付けをしているという。
アデコ・グループは、コアビジネスのために解析テクノロジーにセマンティック・サーチ機能を備えた"Textkernel" を使っている。Textkernelが最適なレジュメを特定できるようになるには、多くのデータを与えなければならない。だが、十分なデータが蓄積したころには、それは会社独自の知識を持つ占有技術に成長している。ソーヤー氏は、「次の波は、退行調査に基づくアデコ独自のサーチ&マッチ機能」だと話した。「オンライン上でのやり取りで得た、"良い"とはどういう内容なのか、なぜある候補者が採用されたのか、などの情報をこのモデルに取り入れる。そのためには、すべてのやり取りをオンライン上でしなければならない。これはAmazonのオススメ機能のようなもので、人々の購買行動を理解するプラットフォームである」。
新規の市場にビジネスを拡大するとしたら、
どうデジタルを使うか?
「新規の市場に参入するならデジタルのみでやるのも良い。リスクがあっても事業を拡大できる分野が良い」とソーヤー氏。「リクルーティング・エンジニアなら、ブロックチェーンのような新しいテクノロジーの分野も良い。自社のコアビジネスを傷つけないように配慮しながら、急成長している分野に参入するのも一つの方法である」。自分が誰でどこに住んでいてどの会社に勤めたことがある、などの事実に基づいた情報はサーチをする際の基本である。ブロックチェーンの場合、水準を定めて参加者全員でその水準に賛同しなければならない。レジュメのスタンダード・フォーマットにも全員の認証が必要である」と身元照会におけるブロックチェーンの可能性を指摘した。ただし、「人事評価のように誰かを"良い" "悪い"と査定するとき、その情報を記録する手段としてブロックチェーンは適さないかもしれない。特にGDPRという個人情報保護を強化した新規制ができた欧州では、この機能を望む人は少ないだろう」と予測した。
産業破壊とデジタル変革
フランシス氏は、"Dual Transformation"という本から抜粋した5つの「産業破壊の警告サイン」を紹介した。
(1)顧客の慣習の変化、
(2)顧客の忠実性の低下、
(3)産業内にベンチャー投資が増加、
(4)利益マージンへの圧力、
(5)異なるビジネスモデルで新規参入者が成功
(3)〜(5)はすでにスタッフィング産業に起きている、と指摘した。
これについてハセット氏は「ここ数年でアレギスがデジタル化に投資した金額を考えると、スタッフィング産業においてデジタル変革がどれだけ重要視されているかが理解できる」と話し、産業破壊の例としてBlockbusterを挙げ、「圧倒的な人気を誇っていたが驚異的な速度でNetflixに取って代わられてしまった。我々も同様な事態にならないようにアンテナを張っていなければならない」と注意喚起した。
ソーヤー氏もこれに同調し、「自分がやらなければ他社にやられてしまう。自分で生み出した物を飲み込む、自己破壊のような事態にも備えなければならない。市場の動向を敏感に読み取ることが重要である」と、危機感を持ち行動を起こすことの必要性を強調していた。
グローバルセンター
鴨志田ひかり(客員研究員)